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 退職勧奨に関する規制がゆるいことを上手に利用したリストラの手法もあります。典型的なのが「ロックアウト型退職勧奨」です。ロックアウト型退職勧奨は外資系企業で多く用いられる方法で、リーマンショック後によく行なわれました。この方法について争われた裁判例は、私の知る限りまだありませんが、どのようなものか参考までに紹介します。

「ロックアウト型退職勧奨」とは?

 まず、会社は退職勧奨をします。労働者がそれを拒否したとします。その労働者に会社は自宅待機を命じ、賃金も100%払うのです。同時に、たとえば、1ヵ月以内に退職すれば退職金を上積みするけれども、1ヵ月を過ぎて2ヵ月以内なら上積み分は50%に減額するなど、退職勧奨に応じた場合の条件を提示します。

 自宅待機を命じられた労働者は、周囲から冷たい目を向けられることで精神的に追いつめられていきます。また、時間をかければかけるほど退職条件は厳しくなります。そして遂にその状況に耐えられなくなって、辞表を提出するのです。

 日本の場合、賃金さえ支払えば労働者に仕事をさせなくてもかまいません。賃金さえ払っていれば、労働者が仕事をする権利を主張しても、裁判所はそれを認めないのです。

 外資系企業にも、もちろん言い分があります。外資系企業は、このような方法をとる理由について、退職勧奨を受けた労働者がセキュリティ上の問題(たとえば情報漏洩、システム破壊)を起こした場合は取り返しがつかなくなるので、人事管理上、退職勧奨を受けた労働者がオフィスに立ち入らないようにしていると述べています。

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社長は労働法をこう使え!

社長は労働法をこう使え!

向井蘭 著

定価(税込):1,680円   発行年月:2012年3月

<内容紹介>
経営者・人事担当者・管理職のために、労働法の基礎と労務トラブルへの対処法を解説するビジネス実用書。法律と現実のあいだのズレを知ってもらったのち、ふんだんな事例とともに、問題社員の辞めさせ方や労組への対応法を説明する。全国に100人ほどしかいない、経営者側に特化した労務専門の弁護士による画期的な1冊。

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向井 蘭(むかい らん)

 

弁護士。1975年山形県生まれ。東北大学法学部卒業。2003年に弁護士登録。狩野・岡・向井法律事務所所属。経営法曹会議会員。労働法務を専門とし、解雇、雇止め、未払い残業代、団体交渉、労災など、使用者側の労働事件を数多く取り扱う。企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務めるほか、『ビジネスガイド』(日本法令)、『労政時報』(労務行政研究所)、『企業実務』(日本実業出版社)など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
著書に、『時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題』(共著、産労総合研究所)、『人事・労務担当者のための 労働法のしくみと仕事がわかる本』(日本実業出版社)がある。


社長は労働法をこう使え!

「経営者側」の労務専門の弁護士は、全国に100人ほどしかいません。そのため、会社と労働者のトラブルでは会社に正義があることも多いのに、多くの社長が孤独な戦いを強いられています。そんな状況を少しでも改善しようと出版された『社長は労働法をこう使え!』の著者・向井蘭氏に、労働法と労務トラブルの「経営者のための」ポイントを解説してもらいます。

「社長は労働法をこう使え!」

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