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 さらに高裁に控訴して半年はかかると仮定します。再び敗訴となればAに支払う給料は30万円×6ヵ月×2=360万円となり、約2年間で1350万円もの給料を無駄に支払うことになるでしょう。最高裁に上告すれば、当然のことながら支払う給料はさらに多くなります。

 しかも最悪なのが、これだけの金額を払っても解雇が認められないという事実です。裁判で会社が負ければ解雇を撤回しなくてはならず、Aは職場に戻ってくるのです。どうしても辞めてもらいたい場合には、さらに退職金を上積みしなくてはなりません。結局、Aを解雇するために1500~2000万円くらいかかる計算になります。もしもこれが整理解雇で、Aのように仮処分を申し立てる労働者が4、5人いたとしたら、倒産してしまう会社もあるでしょう。

 もちろん、控訴や上告をするときには、担保を供託して強制執行を執行停止することもできますが、敗訴金額の7割から9割の現金を供託する必要があるので、この事例でいくと理論上は1000万円近くの費用がかかることを念頭におくべきです。

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社長は労働法をこう使え!

社長は労働法をこう使え!

向井蘭 著

定価(税込):1,680円   発行年月:2012年3月

<内容紹介>
経営者・人事担当者・管理職のために、労働法の基礎と労務トラブルへの対処法を解説するビジネス実用書。法律と現実のあいだのズレを知ってもらったのち、ふんだんな事例とともに、問題社員の辞めさせ方や労組への対応法を説明する。全国に100人ほどしかいない、経営者側に特化した労務専門の弁護士による画期的な1冊。

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向井 蘭(むかい らん)

 

弁護士。1975年山形県生まれ。東北大学法学部卒業。2003年に弁護士登録。狩野・岡・向井法律事務所所属。経営法曹会議会員。労働法務を専門とし、解雇、雇止め、未払い残業代、団体交渉、労災など、使用者側の労働事件を数多く取り扱う。企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務めるほか、『ビジネスガイド』(日本法令)、『労政時報』(労務行政研究所)、『企業実務』(日本実業出版社)など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
著書に、『時間外労働と、残業代請求をめぐる諸問題』(共著、産労総合研究所)、『人事・労務担当者のための 労働法のしくみと仕事がわかる本』(日本実業出版社)がある。


社長は労働法をこう使え!

「経営者側」の労務専門の弁護士は、全国に100人ほどしかいません。そのため、会社と労働者のトラブルでは会社に正義があることも多いのに、多くの社長が孤独な戦いを強いられています。そんな状況を少しでも改善しようと出版された『社長は労働法をこう使え!』の著者・向井蘭氏に、労働法と労務トラブルの「経営者のための」ポイントを解説してもらいます。

「社長は労働法をこう使え!」

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