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2012年4月2日(月)付

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非正社員―処遇改善を横断的に

改正労働者派遣法が、法案提出からまる2年たってようやく成立した。30日以内の短期派遣が禁止される。違法派遣の場合、労働者が派遣先の社員になる道を開く制度も導入する。[記事全文]

終末期医療―自らの死生観を語ろう

延命治療を受けたくないという自分の希望通りに、人生の最期を迎えるにはどうしたらよいだろうか――。人々の関心が高まるなかで、新しい動きが出ている。政[記事全文]

非正社員―処遇改善を横断的に

 改正労働者派遣法が、法案提出からまる2年たってようやく成立した。

 30日以内の短期派遣が禁止される。違法派遣の場合、労働者が派遣先の社員になる道を開く制度も導入する。

 一方、仕事があるときだけ契約を結ぶ「登録型派遣」や製造業派遣の禁止という改正案の目玉だった規定は、与野党の修正協議で削除された。

 このため、政治がどんな問題意識からどう労働市場を変えたかったのかが見えにくい。なんとも中途半端な改正だ。

 もともと、リーマン・ショックで生じた「派遣切り」への対症療法的な色彩が濃かった。

 法案がたなざらしになっている間に、市場のほうが変わってしまった。かつて140万人いた派遣労働者は、いま90万人規模。景気低迷に加え、規制を嫌った企業が派遣利用をやめて、契約社員化や業務委託へと切り替えたからだ。

 中途半端という点では、今国会に提出された労働契約法の改正案も同様だ。

 有期の契約社員が5年を超えて同じ職場で働く場合、本人が希望すれば6年目からは無期雇用に転換することを企業に義務づける。

 だが、5年を前に契約を打ち切る「雇い止め」が相次ぐのではないかと懸念されている。更新時に半年あいだを置けば、前の期間は通算しないですむ「抜け道」も用意された。

 何より、無期雇用に転換しても、賃金などの労働条件はそのままでいいという。これでは、「正社員化への道」は名ばかりになりかねない。

 非正社員に関する法律は、派遣、契約社員、パートと、雇用形態ごとに分かれており、実態に追いついていない。

 雇用者の3分の1が非正社員という時代である。「一生、同じ企業で働く」モデルはとうに崩れた。非正社員として働く側の意識も様々だ。

 求められているのは、雇用形態にかかわらず、非正社員が正社員に比べ不当に扱われないようにする横断的な政策である。

 年金や税を、働き方に左右されない制度に改める。希望する人には教育や訓練の機会を増やす。専門性や仕事ぶりを客観的に評価する仕組みを、社会として整える。正社員にも多様な働き方を認める。

 規制強化だけでは雇用増につながらない。多少コストがかかっても、非正社員のやる気を引き出せば、人材の確保や生産性向上の面でプラスだ。企業側もそんな視点を持ってほしい。

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非正社員
労働者派遣法

終末期医療―自らの死生観を語ろう

 延命治療を受けたくないという自分の希望通りに、人生の最期を迎えるにはどうしたらよいだろうか――。

 人々の関心が高まるなかで、新しい動きが出ている。

 政治の世界では、尊厳死の法制化を考える超党派の国会議員が、法案を公表した。

 終末期の患者が、延命措置を望まない意思を文書などで明らかにしている場合に、医師が措置をしなくても法的な責任を問われないようにする。

 一度つけた人工呼吸器を外して警察の介入を招いた実例があり、医療現場から、こうした免責条件の明文化を求める声があがっていた。

 今回の法案では、延命措置を「始めないこと」に対象を限定しており、呼吸器外しのような「中止」は含んでいない。

 それでも、弁護士会や障害者団体などから、反対や懸念の声が上がっている。

 「終末期」や「延命措置」の定義があいまいで、適切な医療まで否定されないか。健康なときにつくった文書が、本当に直近の意思を表すのか……。

 こうした議論を表に出す「たたき台」として、今回の法案の意義は大きい。

 とはいえ、成立に向けた環境が整ったとはいえないだろう。

 治療をするか、やめるか。選択をする「時点」をとらえ、法律的な枠組みを決めようとすれば、明確さや厳格さが必要になる。「あうんの呼吸」で動いてきた医療現場が、かえって硬直化するという指摘もある。

 大切なのは、本人が満足する選択肢を、家族とともに実現する「過程」の充実である。

 それを支援する具体的な取り組みも出始めている。

 今年1月、日本老年医学会は胃に管で栄養を送る胃ろうや人工呼吸器の使用について「やらない、やめる」選択も考える必要があるとの意見を表明した。

 患者本人の意思を尊重し、認知症などで確認が難しい場合には、以前の言動を家族らからよく聞いて十分に話し合う。その歩みを支援するガイドラインの試案もまとめた。

 適切な決定プロセスを経た選択であれば、法的な責任を問われるべきではない、という考え方が背景にある。確かに、そんな社会の了解があってこそ、医師も安心し、患者も自らが望む医療が受けられるのだろう。

 それは専門家任せにしていては実現しない。考えを文書に残すだけでなく、一人ひとりが自分の死生観について、日頃から家族らと話し合っておくことが必要となろう。

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