年初来安値に落ち込んでいたシャープの株価が、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループとの資本業務提携を機に落ち着きを取り戻した。大赤字の原因である液晶パネル・薄型テレビ部門の再建に向け、勢いのある台湾企業の支援を受けることができたからである。
世界市場を席巻した日本製テレビだが、近年は韓国・中国勢にシェアを奪われ、大赤字に苦しんできた。日本勢のトップランナーのひとつであるシャープが台湾メーカーに支援を請うなど、一昔前なら考えられないことだ。日本勢の衰退を象徴する出来事である。
テレビ事業の今後について、はっきり「勝ち」の見える戦略を描けている日本メーカーはないようだ。シャープは国際分業で再建する道を選択した。ひとつの考え方である。鴻海との資本提携の結果、危機的レベルに低下していた液晶パネルを作る堺工場の操業率改善が見込まれる。
シャープの国際競争力は低下しているが、技術力が衰微してしまったわけではない。市場が注目している新製品として、例えば高解像度85型超大型液晶パネルがある。鴻海との連携で水をあけられた韓国のサムスンに迫れるかもしれない。
一般の日本人にまったく知られていないが、台湾の鴻海は電子機器の受託製造サービス(EMS)で世界最大手の企業だ。アップル社のスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」などを一手に製造する。売上高は10兆円に迫り、シャープの5倍、パナソニックやソニーをも上回る巨大企業である。
日本勢の失敗は成長市場であるアジア市場の軽視が原因だ。日本企業の通弊だが、国内市場をどうしても優先してしまい、アジア市場に合った製品を投入できなかった。もちろん、円高はハンディだったが、それは敗因の一部でしかない。
日本メーカーは設計から製造まですべて自社で手掛ける「垂直統合」にこだわってきた。それが高品質の製品を作り出す最も優れた方法だと考えたからである。しかし、鴻海のような受託製造で廉価なモデルを量産するメーカーが力をつけ、コスト面で太刀打ちできなくなった。
気づいてみると海外メーカーに売上高で水をあけられ資本力で劣後していた。社運を懸けて堺工場に大投資したが、パネルの市況急落でそれはシャープの重荷になった。
いまがどん底であろう。テレビを筆頭に家電は途上国ではなお需要の拡大が見込まれる。やりようがあるはずだ。各社とも経営資源をアジアに集中しつつあるが、加速すべきだろう。「日本企業」から「アジア企業」へどう変身するかの勝負だ。
毎日新聞 2012年4月2日 2時30分