(敬称略)

【最終選考に残った作品(漫画部門)】

「WILL BLADE」児玉陽太
 描線がとても美しく、随所にいい絵が出てきて、画面を眺めていると気分が良くなる作品。カコミケイの中にネームが入っていることが多く、若干読みにくさを感じましたが、一番の課題はシナリオ。この漫画なりのリアリティが不足していて、どうしても幼さ、拙さを感じてしまいます。
 
「無題」栗原安優美
 不運体質というアイデアは面白い。安定感はないものの、光る絵がいくつもありました。男の子同士の微妙な感情の動きを上手く描いていますが、「月マガ」読者に抵抗なく受け入れられるには、もう少し工夫が必要かと思います。ただ、発想力にすぐれた方なので、画力に安定感が出れば、相当に期待できます。

「Pastel Life〜パステル・ライフ」三木善夫
 女子高生ショート。ネタの平均レベルは高く、セミプロといっても過言ではないです。この作品ならでは、という突出したキャラ、アイデアがあれば受賞に手が届いたはず。戦略性がある方と見受けますので、編集部を驚かせるようなネタを希望します。
 
「渡り鳥のように」中山尚紀
 清潔感があり、淡い印象の青春ストーリー。絵が少年誌的ではないですが、独特の味があり、オリジナリティを感じます。表現力がまだ拙い印象ですが、描き続けることで上手くなるタイプの人だと思います。

「Bug‘s Wife〜僕は虫ケラじゃない〜」夏川虎六
 破壊力のあるタイトルを裏切らない、パワーあふれる作品。昆虫を擬人化したストーリーだが、この世界観と程よいキモさは、相当の才能。率直に言って、画力はまだまだ物足りませんが、この造形を仕上げていくイメージ力と持続力は、買いです。
 
「技巧戦士ラ・レパラシオンS」鈴江翔太
 ロボコンを舞台にとったバトル漫画、相当の力作。画力も相当高く、個人的には賞に十分届くレベルと思いましたが‥‥。ストーリー自体はやや先が見える展開かと思いましたが、それも全体の魅力を損なうほどではなく、本当にスレスレで受賞に至らなかったこと、残念でした‥‥。


「ススキノココロ」浦山 歩
 絵が本当に上手い。全体的に相当レベルが高く、前回応募時から期待していた方。しかし今回はどうも上手く「人」が入っていなかった感があります。主人公を上手く作れるかどうか、その一点に集中して、次回作に取り組んでいただければと思います。
 
「モヤモヤ」小林瑠圭
 最終選考通過者中最年少。感覚がすぐれていて、いい雰囲気を感じるのですが、お話は全体的に意味が取りづらく、残念ながら面白さを上手く表現できていなかった気がします。担当でなくても、周りの誰かに読んでもらって、「これわかる?」と聞いたりして、「伝わりやすさ」を心がけてください。



【漫画部門】

「わすれない」モニカ・アルフレッドソン
 前々回も応募してくれた仙台在住の留学生の女性。そのことを念頭に置いて読まねばならない作品でした。震災を間近に目撃した、作者自身を投影した外国人女性が主人公なのだが、テーマの重さを意識しつつも、マンガとして引き込まれる作りになっていて、才能を感じます。表紙の絵、特に素晴らしい。技術的な向上も感じられます。絵を含めた全体の作風が、少年誌から離れてはいますが、どんなメディアであれ、描き続けて欲しい方です。
 
「猫田と悲しき完全犯罪」多田澄生
 クールな女刑事が主人公のミステリー。コマ割りなど工夫されていて、印象的でしたが、今ひとつ作品に入っていけなかったのは主人公の猫田さんが、ほぼ見た目どおりのキャラで人間的興味を持ちづらかったからだと思います。トリック面では、被害者4人が同じ顔であればすぐ戸籍その他で「4つ子かどうか」の調べは付いてしまうのではないかという素朴な疑問を持ってしまいました。

「おかし事情」横山歩美
 潔癖症の友人に気を遣いながらゲームをするお話。目の付け所が面白い。人を笑わせるポイントを掴んでいる方だと思いました。もっと思い切ってデフォルメを行ったほうがより笑えたはず。お菓子をぶちまけるシーンなど、テーブル全体をお菓子の粉だらけにして、炭酸も友人の顔にぶちまけるぐらいにしたほうが良かったかな。全体の画力を向上させることも重要です。
 
「十三郎」中橋隆元
 まとい持ちにあこがれる火消しの少年のお話だが、相当の力作。「火と話せる少年」という設定が秀逸だし、ラストシーンでわざとバックドラフトを起こさせるアイデアも説得力があり、全体に考え抜かれているのがよく分かります。惜しくも、本当に惜しくも最終選考に残らなかったのですが、力は十分。絵柄が若干古めかしく思えてしまったのが評価を下げたポイントでしたが、人物、特にワキのキャラクターの顔立ちを工夫してみるといいと思います。

「ライ!」菅 洋子
 上手い。一気に読めました。秘薬をめぐるミステリー仕立ての忍法アクション。動きの見せ方、コマ運び、作画経験の豊富さをうかがわせる技術の高さを感じます。アイデアも練られているし、主人公も少年誌らしいパワフルさ。注文を付けるとしたら、若干お話が予定調和的で、驚き・意外性といった感覚が足りなかったところ。決して絵そのものが古いわけはないので、今後に期待したいです。
 
「オヤジマン」田中 剣
 オヤジが大活躍のシュールギャグ。匂い立つ?決めギャグを笑えるかどうかがポイントだが、かなり読み手を選びそうな気がします。「ハヤオハカセ(70歳)」の似顔が異常なまでに某巨匠に似ていて驚いた‥‥。

「黄昏の色」黒峰里実
 久しぶりに描かれたとのこと、しかしそれを感じさせない新鮮な感性の作品でした。技術的なことを言えば、回想と現実の転換がいま一つ分かりにくかったことと、再会を果たせたことが単に僥倖に見えてしまって十分な説得力がなかったことが気になりました。しかし、本当に好きで描いているということが作品全体から漂ってくる作品でした。
 
「ウェイアウト」中崎和夫
 敵をとるための戦いが続々と描かれる。その迫力は十分に伝わってきました。設定となる世界観が必ずしも分かりやすくなかったため、読みやすいとはいえないまでも、主人公の執念を描くことには十分成功していると思います。

「将棋ウォーリアーズ」真木大二郎
 今回指折りにビックリした漫画。面白いぞ! 「なるほど、将棋漫画か、ふむふむ‥‥」と読み出して2ページ目でひっくり返った。人間将棋、というだけなら将棋駒の名産地、天童市あたりで催されてそうだが、この作品飛車と銀のタックル合戦から始まって、最後は飛車がボディスラムで銀を倒すのだ。人間が何人居ても足りない競技だが、コレが素敵に面白い。将棋好きの私のバイアスが掛かっていると思うが、オチも利いているし、好みです。
 
「Truth door」ヨコスカ ミユキ
 その扉の向こうには何が?と興味を惹かせて始めるイントロから、息もつかせず描かれるバトルには見ごたえがありましたが、ラストシーンは、すこし拍子抜けしました。連載第1回なら分かりますが、扉の向こうの謎を全く明かしてくれないのは、少し読み手に不満を感じさせる気がします。

「結成!! 対オカルト部(仮)」小根田 寛
 作画技術的にはまだ発展途上。しかしこの方は「怖がらせ方」を知っています。化け物の描き方、程よく気持ち悪く、怖い。また精神的なヒタヒタと迫ってくる恐ろしさも表現できています。弟を救えなかった夢の描写も切なくて、キャラに感情移入できるし、「生んでくれた礼に 一撃で殺してやる」といったセリフも、あちこち光りました。今後の努力次第で伸びしろが大きそうです。楽しみ。
 
「スタートアゲイン」鶴巻健佑
 「カイジ」を思わせるコインを使ったギャンブル勝負漫画。アイデアは考えられていて一定の説得力もありますが、相手が「死神」のわりに、あまりに勝負が現世的リアルなので、若干そぐわない気がしたこと、また使用しているコインが都合よく日本の100円玉でないとこのトリックは成立しないことは弱点だと思います。16ページでまとめるためには多少の強引さは必要でしょうが‥‥。

「ジャスティス」大西孝典
 ヒーローにあこがれる少年を描く作品。「ヒーロー」「この街にはびこる悪」といった存在が少し観念的で、いったいどんな悪で、何をめぐって争っているのかつかみにくく感じました。前提となる設定が頭に入ってこないので、どちらが勝っても負けてもあまり心に響きません。コマ割りや基本の描線は決して悪くないので、「初読の読者にわかるかどうか」を心がけてみてください。
 
「狩人」荒野隆治
 人間に成りすます化け物がはびこる世界で、誰が化け物だかわからない。その不安に耐え生き抜く少年がけなげに描かれていました。意外性に富んだ話で、驚かせるポイントもあり、画力が付いてくればもっと言いたいことの幅が出てくると思います。

「銃創」鷹田 仁
 一読驚愕の画力。上手い‥‥。掲載経験がある方だと思います。ガンアクションの表現がすばらしく、決めゴマも計算されていて、隙がない構成です。「リヴァイアサン」という異物の造形も良くできていて、キモ怖い。夢に出てきそうです。「月マガ」という舞台との相性というところで、若干厳しい評価となってしまいましたが、実力は確かです。
 
「BODY WORLD」「ゾンビくん」(2作応募)坂上潤一
 細菌や悪性腫瘍を擬人化し、腸内で繰り広げられるバトルを描いた「BODY WORLD」は、なかなかの面白さ。もしかして作者はお医者さん?と思えるくらいの正確な医学知識に加え、ヒロインキャラの造形も可愛く、楽しめる作品でした。 「ゾンビくん」のほうは、十字架を出された「ゾンビくん」が、一旦苦しみもがいた挙句、「オレは吸血鬼じゃない!」とボケるシーンは、予想が付いたものの思わず笑わされてしまいました。全体にセンスを感じる方です。

「REACH」坂上潤一
 前記の作品と同じ作者の方。3作応募だったんですね、ごめんなさい。パチンコがお好きなのでしょうか? オチは強引ながらも笑ってしまいました。パジャマ姿の主人公が、なぜか追われて逃げているという出だしはシュールながらも魅力的でしたが、途中で剣をふるって戦い始めてからは、少しシュールの度が過ぎて付いていきにくくなりました。
 
「Rec」佐川毅志
 これは、素晴らしい作品です。ビートルズ好きのおじいちゃんが死んで、残されたスタジオ録音装置を使って、幼馴染の女の子と一曲を完成させていく。二人の淡い感情の交流が美しい。引っ越していく彼女のお父さんの車が旧型のVWビートルで、蝶タイ姿なのが嘘臭くなく画面に溶け込んでいます。こういう作品を読むと「漫画っていいなあ」と思えます。画風があまりにも現在の商業誌の潮流とかけ離れていて、編集長として賞に推すことはできませんが、作品のクオリティは間違いなくあります。漫画を描くことを愛し続けていて欲しい、作者にはそうお願いしたい。

「桃太郎」田中 恵
 おそらく昔話のなかで一番題材に使われることが多い気がする「桃太郎」に新バージョン誕生の「桃太郎4コマ」。作画がリアルで、ネタとかみ合ってないのがかえって迫力をかもし出しています。全体に、オチが弱いのが残念。題材的に広く知られているものを扱う際には、相当のひねりが必要になります。
 
「M・M・K」町山 太
 変態教師ども(女教師含む)にモテてモテて困る女子高生の苦悩を描く4コマ。かなり下品だが笑える。少年誌向きのセンスかどうかは微妙だが、ネタの精度、セリフの切れ味はかなりのハイレベル。個人的には最後のネタ、86歳の爺さんが勘違いして走り出すシーンがツボに来ました。

「ブルドック」堀江奈未
 おそらくは初作品かとお見受けします。技術的につたないのは始めのうちは仕方ないことなので、つたないなりによく描かれていると思いました。その上で、技術がない段階では人物の会話など、セリフだけは考え抜いて欲しいと思います。言うことを聞かせる「ブレインハット」というアイデア、それを盗んで悪用しようとする男、どちらも悪くない。でも、いきなり「この帽子かぶってみない?」といわれて「じゃあかぶってみるわ」とすんなり応じる美女、というのはどんな世界観であれリアリティが不足してます。こういう設定だからこそ、紋切り型でない会話を心がけると、作品の精度が上がります。
 
「不可思議ジェンティ」松井 潤
 「月マガ」的ではない、という以外はほぼ完璧な作品。単に「面白い」では片付けられない深みもあり、感情を揺さぶられました。ファンタジー的世界観の話に、架空のどうぶつではなくニホンカモシカを登場させるところ、不良が出てくるところでの意外な展開、ラスト近くの花や蝶のアップのカットなど、すべてが効果をあげています。雑誌が違えば賞を獲得していて当然のクオリティで、高い才能を感じます。

「呪禁師の剣」九里晃彦
 面白い。特に悪役のキャラクターが抜群で、戦略の残虐さにマジで怒りを覚えます。あわや命を奪われそうになる母子も丹念に描かれていて、感情移入できるし、全体にワキキャラも手を抜かず描きこんでいるところに好感を持ちました。 主人公の呪禁師もカッコいい。最終選考にあと一歩でした。
 
「キューピッドにおまかせ!」石田すみれ
 運命の赤い糸が見える少年の前に、なんとキューピッドが現れて‥‥という設定は魅力的。白黒の使い方が上手くて、画面がとても美しく、読みやすい作品でした。全体に楽しげな雰囲気もとてもいいと思いましたが、「運命の人」と84歳まで会えない、と伝えられた主人公の反応に、ちょっと納得いかなかったのは読み手である私が男だからかもしれませんが、「運命の人でなきゃ」と思っている男子ってそんなに多いかな‥‥? なので、その後キューピッドの仕事を手伝うモチベーションに感情移入しにくかったです。個人的には「84歳まで寿命確約とは、なんとラッキー」とか思ってしまいました。しかし、アイデアは豊富で、実力を感じました。

「マヤノウミ」平尾ナヲキ
 ポップな絵柄で、海上自衛隊と海賊の戦いを描く。設定の意外性は抜群。そこを抜きにしても、主人公の熱い気持ちが伝わるセリフ回し、きちんと調べて描いてある背景など、全力で仕上げた感じが画面に漲っています。力作。この作品も最終選考ギリギリの、高いレベルでした。
 
「スティック!」
 徐々に視力を失いつつあるドラマーの物語。メンバーに不安を与えないため、通院を隠し通す主人公がカッコいい。演奏中に初めて、メンバーが全員主人公の事情を知っていたことが分かる展開は強引といえば強引ですが、泣けた。最終的にこの曲をやることになったのは、自分を気遣ってのことだったとわかる部分も、説得力がありました。聴衆の描き方が、やや類型的に見えたことだけが残念でした。いきなり総立ちというのが若干展開にあってないと思います。

「TRUTH OF IME」徳 悟
 100ページの超大作。哲学的内容にとんだ非凡な作品だが、少年・大人を問わずやや難解すぎる感じを持ちました。
   


【ネーム部門】

「神様は突然に」都木津蒼真
 16歳・高校生。人形に取り憑いた九十九神をアレンジした作品。ありがちなアイデアだが、随所にオリジナリティを感じました。ネーム部門へのエントリーですが、この作品は自ら作画しないと良さが出ないのではないでしょうか。
 
「三度目のキセキ」日笠山武夫
 不慮の事故で死んでしまった主人公の前に現れる「死人カウンセラー」。ある条件をクリアしたら、再び蘇るなど、希望をかなえてくれるという。主人公が選んだ願いとは‥‥。かなり考え抜かれたネームで、アイデア力を感じます。ただ、この主人公が、自分ではなく幼馴染みの彼女を蘇らせたい、と思う部分のセリフ、「今さら蘇っても苦しい日常が待ってるだけだ‥‥」というセリフには説得力が不足していました。そこまでかなり楽しそうにイキイキと動いているだけに、意外性を通り越してついていけないものを感じました。人間の描き方が今後の課題と思います。

「PLACENTA」古谷優弥
 100ページの大作。ネームながら、内容のハードさと、ほのぼのした描線のコントラストが印象的でした。高校生ながら、娘を思う父の気持ちの描き方には、読ませる力を感じます。ただ、ラストにいたるまでの流れが少々長尺過ぎて、脱落する読者が少なからず出るでしょう。この尺が本当に必要か、次は全体の構成を良く練ってみて下さい。
 
「OUR SECRET」野兎あな
 双子に見えて、実は三つ子! 陰に隠れるもう一人のキャラを主人公に据えたのは新鮮でした。構成も悪くないです。難を言えば、上記の秘密が、知る人ぞ知る公然の秘密なのか、本当に知るものが皆無なのか、どちらにも取れてかなり混乱してしまう感を持ちました。あと、「完璧な兄」という表現がやや類型的に思えました。次回に期待。

「涙痕の涙」石川知恵
 李氏朝鮮が舞台の作品、実に目を引きました。内容的にもよく20ページでまとめていると思います。アクションなどもなかなか上手いのですが、イントロの後の場面転換が急すぎて、誰と誰がやりあっているのか、本当に注意深く読まないとつかめなかったのが残念でした。
 
「私たちは社会の歯車です」高崎美希
 ニートの前に現れた、魂を買い取ってくれる悪魔。よくある設定だが、軽い読み味で楽しい作品でした。主人公のニート君も、最後に自棄酒をあおる悪魔も悪くないが、突然現れた天使が助けてくれるという展開は、はっきり言って強引過ぎます。むしろ、この二人がなんだか腐れ縁のように仲良くなったりするほうが、作風には合っていたかも。

「男はやっぱりバカ」鈴木龍也
 とりあえず、パンツを見ることが大好きな男の子は、それなりのリアリティがありますが、作品全体を通してみると、何を描きたかったのか、イマイチはっきりしませんでした。平凡であることと、後半の展開もあまり関連がなく、IQテストといいながらクイズ大会だったりと、全体にすこし練りこみが足りなかったようです。
 
「パンドラ」加藤 諒
 面白い、そして怖い。二転三転する展開は、読み手を選ぶかもしれないが、引き込み力抜群。タイトルから連想される範疇を完全に超えていました。「人格形成器」というアイデア、それだけで一読の価値があると思いました。惜しくも最終選考には残りませんでしたが、今後にとても期待できる方です。ひとつだけアドバイスをすると、まだネーム原作専業を目指すのは早くないかな? この世界は、他人だとなかなか表現できないと思います。

「CALL」加藤 諒
 前記のと同じ方。これはアイデアの宝庫のようなサスペンス作品。『バトルロワイヤル』『リアル鬼ごっこ』そして『カイジ』など、いろんな作品を連想しました。やや強引な部分もありますが、これだけ考え抜けるのは能力なしにはできないはず。上記の『パンドラ』のほうによりオリジナリティを感じましたが、この作品もかなりのレベルと思います。
 
「ゴミ箱の中の戦い」竹中遼志
 15歳、中学生の投稿。嬉しい‥‥。内容はたしかにまだ拙いながらも、印象度が非常に高い作品でした。「いくら自分の価値がマイナスでも、生きてたらいくらでもプラスに変えられるでも死んだらマイナスのままだ」「だから生きることが人の価値を高めるんだ だから死ぬな 生きろ 殺せ」など、セリフの切れが随所に光ります、ラスト、主人公の答えをカットしているのも秀逸。描き続けて下さい!

「ミステリーなんて大嫌い!」津ケ谷 亮
 しっかり練られたミステリー。『Q.E.D.』を連想させるような本格味に、学園の人間模様を絡めたストーリーは読み応えがありました。虹の色の見え方の、東西各国による違いのウンチクはプロレベルの面白さ。全体のイメージとキャラクターにあと少しのオリジナリティーがあれば、最終に残った可能性がありました。前回に続き安定した実力を感じますが、あと一息。
 
「ダメ人間と石」山口紗季
 能力の足りない「ダメ人間」と魔石をめぐるファンタジー。読みやすく、キャラの表情が可愛いのが魅力ですが、最大の魅力が今のところそこにあるので、原稿を仕上げないと真価が測れません。ネームだけで出品するよりは原稿を制作したほうが力が伸びる方だと思います。

「紅縄のトナカイ」酒井祐太朗
 目隠しをされ、箱に放置されたトナカイのコスプレをした男、その正体は? しばかれないと感じない変態トナカイ、という発想はハチャメチャだが、ちょっと笑えました。ギャグセンスを感じます。タイトルも◎。ヒロインの心の動きに飛躍があり(どんな女子でも、ちょっと顔がイケメンだけでこの男にはときめかないと思います)、ついていけない人も多いかもしれません。
 
「灰色の観測者」片山 巧
 率直にいって、物語は難解でよく分かりませんでした、すみません。しかし、「悪魔を飼う悪魔祓い師」に始まる薄気味の悪い視覚的イメージの豊富さは、非凡なものを感じさせます。他人が読んで分かるかどうか、意識しながら物語を作ってください。

「正義のココロ」松澤佑太朗
 保安生対風紀委員。憎まれるのは「優等生」。15歳高校生の初投稿作品。ストーリーはややリアリティに欠けますが、シーンの作り方が本当に上手い。筋を追わなくても絵場面で見せることができているのは魅力。
 
「テンバイヤー・ショウ」堀内 聡
 安く買って高く売る。転売のテクニックをバトルに仕上げたアイデアあふれる作品。ある意味時代にぴったり合ったテーマ選びで、こういう題材を子供が知ることは必要な気がしまが、結局「利ざやを稼ぐ」という行為に、ややロマンを感じづらいとも思いました。

「ヘルハウンドガール」我道マルス
 扉絵、変身シーン、迫力があります。この絵柄と雰囲気で「パンティー泥棒」を描くところに、取り合わせのセンスを感じますが、「笑える」「カッコいいと思う」というように、大きく読み手の気持ちを動かすポイントが一つ欲しかったです。
 
「zero」井上 京
 漆黒の処刑人ゼロという響きは魅力的ですが、全体に絵的な説明が足りなすぎて、上手く情景を想像できなかったです。ネーム原作であまり詳細に描きこむ必要はありませんが、最低限「誰」「何」「どこ」が分かるように描いていただいたほうがいいと思いました。

「サムライロック」下田哲也
 これは、素敵に面白い‥‥。江戸時代4人の侍がロックを演奏していた! という物語。無理があるだろう、と思って読み進めたら、そもそも侍のキャラクターが一人ひとり立っており、大阪弁を話す外人娘シェリルが登場してからは、一気にパワーアップする。正直、最終選考に残ってもおかしくなかった作品です。時折はさまれるくだらない(失礼)駄洒落も個人的にツボでした。
 
「ジューンバースデー」阿部 汀
 8ページの小品だが、見せ所十分。キャラの表情、部屋の細密な描写、モノローグ多用の台詞回し、いずれも魅力的。「お前が自殺するまで 毎年 祝ってやる」というラストのセリフが沁みます。以上の良さは、すべて自分が作画することでより良く出せるので、ネームでなく原稿にして応募して欲しかったです。

「EXTRA・VITA」齋藤圭介
 良くも悪くも、「強引力」とでも言うものを感じた作品。パワーあります。登場人物の命名が、遺産相続(いぶみ あいつづ) 放置皆無(はなおき みな)という所からして、タダゴトではない。「死んでたって関係ねえ 俺がいる」「『無駄なことをしない』のはもうやめた これからは 無駄に生きて無駄にあがいて無駄に向き合っていくよ」といったセリフのエッジの立ち方、素晴らしい。描いて描いて、上手くなっていって欲しい方です。
 
「雷神」田室憲幸
 江戸時代末期に滅ぼされた謎の一族「雷神族」のいわれから話が始まる、大河バトル作品。作者の熱い思いが伝わってはくるのですが、あまりに情報が多すぎ、また何をめぐって誰と誰が争っているのかを読み取るのが非常に難しく、消化不良の感がありました。また、ラストも連載第1回目のようで、カタルシスが不足、全体にもう少し整理することを心がけてください。

「魔女っ娘戦士 ミルキー・エンジェル」山本悦子
 タイトルのイメージどおりの明るい作品。コマ運びも読みやすく、リズムがいい作品です。キャラ造形も可愛いですが、若干お話作り、キャラクターとも一昔前に見たことがある感じを受けました。可愛い魔女、という世界観が「月マガ」との相性で損をしているかもしれませんが‥‥。
 
「スクールタイガー」相星悠一
 一見普通の高校生たちが、国家の緊急時には招集されて重大任務に当たる、その名は「スクールタイガー」! 発想は面白いと思いましたが、ひとりひとりのキャラクター紹介を丹念にやりすぎて、話の読み筋を追いにくくなってしまった感があります。86ページという長尺になってしまったのは、「捨てる部分」をきちんと決めなかったからでは? 集団劇を読みきり形式でやるのは、かなりの冒険になります。

「駆け巡れ、シーフ。奪い取れ、シーフ。」大森一起
 超能力を備えた消防士。火というものに関しての考察に鋭い部分がありました。ただ、まだ全体的に練られていない印象が強く、拙さを感じます。コマ割りを含め、もう少し好きな作品を分析するなどして、工夫して欲しいと思います。
 
「人の恋路をじゃまするな!!」河井淳志
 不思議な味の三角関係ラブコメ。18歳の女の子と男の子が、一緒の家に住んでいて、ほぼ夫婦同然のような暮らしをしているにもかかわらず、告白する、しないで悩んだり、母親代わりなことに傷ついたりするのが、何だか腑に落ちない感じがしました。ネームなのであまり細密に描く必要はないですが、キャラの大まかな顔立ちくらいはないと、キャラクター設定が不明になるので、もう少しは描きこみが欲しいところです。

「奇機工紀行」竹馬理由
 人工知能「A.I.」と生身の少年、「ハクレン」の魂の交流を描いたハードSF作品。少年ではなく、人工知能のほうの視点で描かれていたのは新味がありました。全体に深さと哲学性があり、非凡なものを感じます。反面、どこを楽しめばいいかのポイントがいまひとつ明確でなく、上質ながら難解なきらいがあります。あまり噛み砕く必要もないですが、普通の小中学生が筋を追えるかどうかを基準に、どこで楽しませるかを考えでください。
 
「アルタモライの猫」仲村良貴
 隻眼の民の英雄伝説。細密な描きこみと重厚な世界観で、クオリティ高い作品でした。読み手が、この世界に入っていけるかどうか、そこがかなり気になりました、この世界の当事者になりたいか、なりたくないか。そこに高いハードルがあります。おそらく自分で描かれても、画力が相当高い方と見受けましたので、おそらくは原稿を仕上げて読ませていただいたほうがより説得力があったかと思います。

「サガント!」カラスヤマ メイ
 ポーカーを扱ったギャンブルもの。今回の応募作の中でも、「なぜネーム原作を志すのか」に関しては一番といっていいほど、資質が合っている方だと思いました。キャラクターの内面描写や、勝負の駆け引きなど、説得力高く、読み応えもありました。しかし80ページを超える尺が必要な物語でしょうか? 少々長すぎる感を覚えたし、この長さを持たせるにはさらにひねったアイデアが必要だったと思います。とはいえ、実力は一定のレベルに達した方。今後に期待しています。
 
「あしたは、あたしの。」未知たかし
 夜の空を見上げて星座に思いをはせる少女に、思わぬ贈り物が‥‥。日本でイジメを受けている少女のお話と思いきや、途中「南十字星」が出てくるところで南半球の話だと暗示し、実は童顔の天才研究者の物語であることがわかる作りには驚かされました。詩的なセリフも良いのですが、最後に何が起きたか不明なのはもったいないと思います。普通に「万雷の拍手」で締めたほうがカタルシスがあるはず。

「ミッシェルさんと俺」菊池美祐
 リストカットをしようとすると、なぜか届くメール‥‥。心象風景を絵に落としたような不思議な味の作品です。少年漫画としては、猫が死んでから、中毒のようにリスカを続ける少年、というのがリアリティに欠ける上、あまり応援したくない気がしますが、この方の場合はむしろそういうことをあまり気にせず、印象に残るキャラクターを創造することを目指したほうがいい気がします。
   


順不同です。このナンバリングは評価の上下を表すものではありません。(編集長)

受賞作品編集長コメント




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