政府が計画する東京電力福島第1原発事故に伴う避難区域の再編で、対象11市町村のうち4月実施のめどをつけた自治体は23日現在、5市町村にとどまることが毎日新聞のまとめで分かった。政府は避難住民の帰宅を促すため、被ばく放射線量に応じて避難区域を細かく3区域(現行2区域)に分け直す方針を示すが、住民側は将来への不安や政府への不信が根強い。国が目指した4月1日の再編を受け入れたのは川内村だけというのが実情だ。【高橋秀郎、鈴木泰広、泉谷由梨子】
「一切、応じられない」。23日夕、国との再編協議で、浪江町の馬場有町長は国の提案を突っぱねた。
損害賠償、インフラ整備などを昨年から国に要望してきたが、納得できる回答は返ってきていない。「解除されてもライフラインもなければ人も戻らない、生業もない。生活できない」
とりわけ厳しく批判したのが、原子力損害賠償紛争審査会で示された月10万円を基本とする賠償額だった。「避難が長くなれば精神・肉体的ストレスが相当ある。東電に支払い能力がないなら、政府が立て替えるべきだ」
南相馬市には同日、9割以上の世帯が立ち入りできる「解除準備」「居住制限」の区域にする案が国から示された。市は3月末までに区割りを決めることに合意はしたが、桜井勝延市長は防犯パトロールなど「住民が不安のない態勢を作る準備が必要だ」とくぎを刺した。
国が二つの避難区域を3区域に再編しようとしているのは、福島第1原発の原子炉を「冷温停止状態」と判断したことを受け、避難生活を余儀なくされている住民が帰宅できる環境を早く整えたいとの目的がある。そのために近い将来、再び生活できることを見込む「避難指示解除準備区域」も新たに設ける。
だが、自治体側は再編という方針そのものは受け入れられても、ただちに再編に応じられない事情がある。
その一つが防犯だ。
楢葉町は国から4月の再編を持ちかけられたが、このまま警戒区域が解除されると警察の検問がなくなるため、「窃盗事件が増える」との懸念があるという。
賠償の行方が決まっていないことも高いハードルになっている。
放射線量が比較的低く、すでに「帰村宣言」した川内村は21日、住民説明会で避難指示の完全解除を提案した。しかし除染は進んでおらず、住民は「実際には帰れないうえ、補償も受けられなくなる」と反発。完全解除は見送りになった。
富岡町は3区域再編案とセットで全区域同一の補償を求めている。「国の線引きで町内で補償に違いが出るのは問題だ。国は、そういう現実を分かっていない」。町幹部は憤りをあらわにした。
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■ことば
政府は昨年12月、原発事故の発生で指定した「警戒区域」「計画的避難区域」の二つの避難区域を今年4月をめどに3区域に線引きし直すと表明。新たな3区域は、被ばく放射線量に応じて決め、(1)除染が進み、生活基盤が整えば戻れる「避難指示解除準備区域」(年間20ミリシーベルト以下)(2)一時帰宅できる「居住制限区域」(年間20ミリシーベルト超~50ミリシーベルト以下)(3)立ち入りを禁止し不動産の買い取りを検討する「帰還困難区域」(年間50ミリシーベルト超)--とした。
毎日新聞 2012年3月24日 東京朝刊