福島第1原発事故:田村市と川内村で警戒区域を解除

2012年4月1日 21時28分 更新:4月2日 0時4分

警戒区域から避難指示解除準備区域に変更になり、立ち入りが可能になった自宅の片付けをする渡辺イセ子さん=福島県田村市で2012年4月1日午前11時12分、西本勝撮影
警戒区域から避難指示解除準備区域に変更になり、立ち入りが可能になった自宅の片付けをする渡辺イセ子さん=福島県田村市で2012年4月1日午前11時12分、西本勝撮影

 福島第1原発事故に伴う警戒区域が1日、福島県田村市と川内村で先行解除され、避難指示解除準備区域と居住制限区域に再編された。出入りが自由になった住民らは早速、自宅を訪れて片付けるなど帰還へ向けた準備を始めた。ただ実際に帰還するには、地区内の除染やインフラ復旧などの課題が残る。【乾達、三村泰揮】

 ◇帰宅者、掃除大忙し

 穏やかな春の日差しが古里を包む。警戒区域解除初日の午前、田村市の都路(みやこじ)町地区。「1年ぶりの我が家だあ」。無職の根内(こんない)昌春さん(83)は自宅前で、椅子代わりのビールケースに腰掛け、ひなたぼっこを楽しんだ。これまでに立ち入り時間が限られる一時帰宅の機会もあったが、高齢のため見送っていた。息子に連れられ実現した1年ぶりの帰宅だ。

 地区内では、一時帰宅の機会に片付けが進んだ民家と、地震の爪痕をそのまま残す民家が混在。「真っ先に、倒壊した墓の修理を」と朝一番で墓地に向かう人々の姿もあった。

 300年以上前から先祖が地区に住むという農業、渡辺清栄(きよえい)さん(75)は、明治時代に描かれた祖父らの肖像画や、孫の清智さん(25)が高校野球でプレーする姿の写真など自宅を彩る「家族の歴史」に目を細めた。

 一緒に来た次男清則さん(52)、その妻のイセ子さん(51)ともども清掃に大忙し。玄関の棚をぞうきんがけするイセ子さんは「ここなら仮設住宅と違って、夫婦げんかをしても迷惑にならないわ」と冗談を飛ばす。渡辺さんは「家が火事で全焼したときもあったが、先祖はこの土地を守って暮らしてきた。代々続く家系図も、この地でまたつないでいきたいよ」と話した。

   ■   ■

 警戒区域が先行解除された区域は(1)早期帰還を目指す「避難指示解除準備区域」(2)5年以内の帰還を目指す「居住制限区域」--に再編された。田村市では(1)に約120世帯約380人、川内村では(1)に約140世帯約300人、(2)に約20世帯約60人の住民がいる。

 住民は1日午前0時から、宿泊はできないものの許可を受けずに立ち入りできるほか、インフラ整備などの公的立ち入りや、製造業などの事業再開(居住制限区域では一部)も可能になった。南相馬市も16日に警戒区域を解除する予定だが、残る8町村では賠償格差への懸念などから調整が難航、解除時期は決まっていない。

 ◇「除染は」「学校は」「補償は」…今後に不安も

  「肝心なのは、帰って生活が成り立つかどうかだ」。両市村の住民らは自由な立ち入りを歓迎しつつも、課題を口にする。自宅周辺の除染がいつ始まるのか。学校や幼稚園の再開、水道の復旧は。避難生活中に壊れた自宅の補修費用は補償されるのか--。そして何よりも、避難生活に伴う東京電力からの賠償が「生活できるようになるまで必要だ」と指摘する。

 警戒区域解除を巡る田村市と国の協議では、すぐに居住できる完全解除の選択肢もあった。だが、そうなれば東電の賠償は一定期間後に打ち切られる。

 同市船引町の2カ所の仮設住宅などに身を寄せていて賠償対象となるのは約120世帯。行政区長を務める同市都路町の農業、坪井和博さん(64)は、避難指示自体は続く「避難指示解除準備区域」への再編を住民の総意として市側に伝えた。

 坪井さんは賠償が必要な時期について「除染が終わり、農業を再開し、生活できるようになるまで」と訴え、「凍結で破損した水道管の修理も手配したい。水道が直れば、家の手入れもできるようになる」と話した。

 一方、原発関連の2次下請け企業に勤務する男性(62)は「国のモデル地区以外では、除染スケジュールさえまだ分からない。来春まで仮設暮らしを覚悟している」と話す。

 川内村の居住制限区域内の行政区長、吉岡清さん(69)は「普通の生活には何年かかるか分からないが、一歩前進した」と評価する。1日は午前中に約2時間帰宅し、部屋の換気や掃除をした。これまでは、自宅に帰る機会も時間も限られていたため「これからは週1回は掃除に来たい」と話した。【太田穣、深津誠】

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