Appleと教育

東京大学

“学生、教員、システム管理者など、多くの関係者のニーズを満たすことができる選択肢は、Macによるシステム以外にありませんでした。”

東京大学 情報基盤センター
情報メディア教育研究部門 助教 丸山一貴氏

東京大学: iMacとXserveが選択される理由

東京大学では、2004年から約3万人のユーザが利用する情報教育システムの標準情報端末としてMac OS Xを搭載したiMacが使われてきました。2008年に行われたシステムの更新では、ふたたびiMacとXserveによるシンクライアント(NetBoot)システムが採用されました。

3万人が利用する
世界最大規模の教育用計算機システム

東京大学が運用する教育用計算機システム(Educational Campuswide Computing System、以降ECCS)とは、本郷、駒場、柏の各キャンパスを結ぶ教育・研究用のコンピュータ&ネットワークシステムで、東京大学に所属している学生、教員、研究者が24時間365日利用できます。教員は、このシステムを使って授業を行ったり、同学の情報基盤センターで開発・運用する学習管理システムCFIVEを利用した教材配布やオンラインテストを実施できます。学生には、講義用の演習室だけでなく、自習室も用意されており、研究、レポート作成、インターネット閲覧など、自由にこのシステムを利用できる環境が整備されています。このECCSの構築には、2004年からiMacとXserveによるNetBootシステムが導入されています。2004年当時、大規模な大学では、UNIX端末をベースとした構築と運用のニーズは根強く、東京大学の情報端末としてMac OS Xを搭載したiMacが選ばれたことは、一見意外な選択と思われました。

同学の教育用計算機システムは、4年ごとに更新されます。システムの契約終了が近づくと、次期システムの構築に関する仕様策定委員会が設置され、システムに関する学内のさまざまな要望をとりまとめます。こうして策定された仕様書をもとに入札が行われ、新しいシステムが決定します。2008年の更新では引き続きMacを情報端末としたシステムが選ばれましたが、この決定には、どんな背景があったのでしょうか。

更新の決め手になったポイント

教育用計算機システムならではの特殊な背景について、東京大学情報基盤センター 情報メディア教育研究部門 助教 丸山一貴氏はこう説明します。

「一般的な企業ですと、コンピュータシステムの運営には管理部門とそれを使用する従業員という関係しかありませんが、教育用計算機システムというのは、教員という、管理者と一般ユーザの間のような存在が入ってくるのが特徴です。学生、教員、システム管理者など、多くの関係者のさまざまなニーズを満たすことができる選択肢は、Macによるシステム以外にありませんでした」

システム管理者にとって、まず重要になるのは、3万人のユーザが利用するシステムを、常に健全な状態に保ちながら、簡単かつ効率的に管理できるかどうかです。端末として使われているiMacは、ブートサーバ(Xserve)からMac OS Xのイメージをダウンロードして起動します。このローカルハードディスクから起動しない情報端末を採用することで、利用者によるアプリケーションの持ち込みやシステムの書き換えを防止でき、OSやアプリケーションについて管理者が1台ずつメンテナンスする必要がなくなります。ECCSは授業でも使われることから、だれがいつどのコンピュータを使っても、全く同じ環境が提供されなければならないという要件を満たすこともできます。

また、東京大学の場合、学生は最初の2年間教養学部に所属し、文系・理系の枠にとらわれないリベラル・アーツ教育を受けます。そのため、プレゼンテーションソフトを使った語学教育などの文系の授業もあれば、プログラミングや数式処理などの理系の授業も存在します。そういった幅広い授業内容をカバーする教育端末が必要不可欠です。この点においても、インターネットやマルチメディアだけでなく、各種プログラミング言語も利用できるUNIXベースのMac OS Xは、文系の先生にも理系の先生にもメリットをもたらすものでした。くわえて、非常に広い学問分野にわたって教育と研究を行っている同学には、UNIX、Mac OS、Windowsなどに蓄積された膨大な資産が存在します。そうした資産の多くを1台で活用できる端末はMacしかありませんでした。

さらに、学生に対しても、コンピュータ・リテラシーを向上することができる環境を提供しなければなりません。大学でしか使えないシステムではなく、日常生活や社会に出たあとでも役に立つスキルを身につけられなければ、授業に対する学生のモチベーションを高めることはできません。そのため、使用するデスクトップ端末は、学校以外の場所でも一般的に使用されているものを採用することで、学生には「これを学ぶことには意義がある」という意識を持ってもらうことができます。そうした一般的な製品の中でも、なぜWindowsではないのかという声があることも事実です。しかし、学生がプライベートで利用する環境がWindowsであれば、MacとWindowsを比較しながら、共通する概念や互いに異なる思想を感じ取り、本質的なものを見極めてもらえるのではないかと考えています。

今回構築されたECCS2008には、各種UNIX系サーバとともに、クライアント端末としてiMac 20インチモデル 1176台、ブートサーバとしてXserve 37台が導入されました。2004年度のシステムと比較すると、Leopardの導入で信頼性とパフォーマンスが大幅に向上しただけでなく、仮想化ソフトウェア「Parallels Desktop for Mac」によってWindows Vistaを利用できるようにするなど、より充実した環境が実現しました。

(2009年9月29日 東京大学 駒場キャンパスにて)