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二十章 失われた部室を求めて
 
 花澄ちゃんにボコボコにされて、やがてダークココ先輩は元のココ先輩に戻ったようだった。ダークなオーラが抜け、目つきもよくなった。
 ただ、
「峰崎さん、もっと! もっと、私を犬と呼んで殴って!」
 根本的なところが何も変わってなかった……。
 すでにその格好はブラとパンツだけだった。
「いいんですか、ココ犬先輩? もう制服破れちゃったし、普通にけがしますよ?」
「いいわ!」
「じゃあ、遠慮なく」
 ドコッ! 花澄ちゃんは普通に顔を殴った。下着姿の、どう見ても小学生にしか見えない、無防備すぎる女の子の顔を殴った。ホントに容赦ないな、この子……。
「ああ……いいっ!」
 ココ先輩は鼻血とよだれをキラキラと噴き出しながら、恍惚の表情で失神した。
 まあ、そうなるよな……。
 と、そこで、僕もめまいを感じた。ああ、またこれか。蒼炎の剣(ブルーフランベルジェ)使っちゃったから……。そのまま、地面に崩れた。


 やがて眼を開けたとき、耳に飛び込んできたのは、ロロ先輩の楽しそうな笑い声だった。
「きゃあ。クマちゃんかわいいー」
 なんだろう。起き上がって見てみると、そこには、ロロ先輩の前でパンツ一枚で転がって苦痛に顔をゆがめているクマの姿があった。
 いや、ゆがんでいるのはクマの顔だけではなく、その空間そのものもだった。つまり、クマは今、ロロ先輩の『断罪の重圧』プレスオブパニッシャーの攻撃を受けている?
「い、いったい何でこんなことに……」
 と、僕がつぶやくと
「心配するな。アレはただのプレイだ」
 健吾が僕の肩を叩いた。少年会長からまたもらったんだろうか、すでに制服を着ている。
「プ、プレイ? なにそれ?」
「熊田の顔をよく見てみろ」
 健吾はクマを指さした。見ると、苦しそうながらも、同時にニヤニヤしているクマの顔があった。
「まさか、あいつも……ドMなのか?」
「ちげーよ。もっと犯罪じみた性癖だぜ」
 と、健吾が言ったときだった。
「ロロた~ん、俺をもっといっぱいおもちゃにして~」
 クマのサイコーに裏返った、きもい声が聞こえてきた。そのロロ先輩を見つめる目つきは、確かに犯罪じみてる! 間違いない、こいつは――。
「ロリコンだ!」
「そう、真性のな」
 うわー、初めて本物のロリコンの人見ちゃったよ。メッチャキモー。
「あいつ、昨日の夜ずっと、一之宮先輩のことしゃべってたんだぜ。マジうるせえの。あれはガチだぜ。女は小学生以下しか認めねえってタイプだぜ」
「二次元ではよくあることだが、三次元ではないな。全力でない」
 少年会長も勝手に話に加わってきた。
「でもあれ、ほっといていいんですか? あいつ制服着てないし、ロロ先輩のリピディアの攻撃受け続けてたら、大変なことになるんじゃ……」
「別にいいでしょ。本人が喜んでるならそれで」
 と、花澄ちゃん。
「あの男がいなくても、なんら問題はなさそうよね」
 と、ココ先輩。すでに制服を着ている。
「あいつのぶんまで、俺らが頑張ればいいことだしな!」
 と、健吾。
「彼はボクたちの心の中に生き続けるさ」
「おか、おしい人を亡くしましたわね……」
 と、美星兄妹。なんと、誰も心配していない……。
「まあ、確かに、別にいなくてもいい人ですよね。ただのロリコンだし」
 クマは相変わらず、ロロ先輩の『断罪の重圧』プレスオブパニッシャーを受け続けている。その顔色がどんどん土色に変わっていくのを、僕たちは生温かく見守った。


 結局、クマは途中で気絶してしまい、そのプレイは中断された。僕たちはその体を花澄ちゃんにかついでもらって、当初の目的、勇者部部室探しの旅に出た。
 ただ、クマはパンツ一枚のままだったし、僕の制服もボロボロのままだった。
「なんで、僕たちの制服は戻してくれないんですか、会長?」
「ない袖は振れないということだよ」
「?」
「聞きたまえ、ここの音を」
 と、少年会長は自分の胸のゴールドエンブレムを指さした。なんだろう。そこに耳を近づけてみる……と、ピコピコと、小さく音が鳴っている。そう、まるで充電が切れかかったケータイみたいな?
「もしかして、回復のエネルギーがもうないんですか?」
「そうだ。シューティングゲームでいうと、ボクはすでに残機1だ」
「でも、僕たちの五十倍の耐久力があるって話だったじゃないですか。まだ全然残ってるはずじゃ――」
「あのレーザーと機関銃で相当削られたということだよ」
 げえ。あれのせいか……。
「痛かったねえあれは。あれさえなかったら、小暮君の制服も今頃ピッカピカになってただろうねえ」
 にやにや。少年会長は意地悪な笑みを浮かべている。自業自得って言いたいのかよ、くそっ!
「そ、そんなことより、部室はまだ見つからないんですかね!」
 強引に話をそらした。
「それについてはおおよその方向がわかりそうですわ」
 花澄ちゃんの胸ポケットから琴理人形がまた飛び出してきた。この人、さっきからずっと、そんなおっぱいおっぱいな場所にいるんだよな。けしからんな。役得すぎるだろ……って、それはともかく、
「部室のおおよその方向って、なんでわかるんですか?」
「近くのキャンサーの分布を調べてみたんです。すると、ある方面にだけ、強力なキャンサーが多数配置されていることがわかりました」
「? それが?」
「つまり、その方向に、わたくしたちに向かってほしくない『何か』があるということですわ」
 ああ、なるほど。敵の裏をかくってわけだな。
「じゃあ、早くそっちに向かいましょう」
「ええ。敵は多いですが、わたくしたちはもう、前に進むしかありませんわ!」
 僕たちは琴理人形の示す方向に歩きだした――。


 部室への道は険しかった。そしてめちゃくちゃだった。キャンサーに遭遇するたびに、周りの世界はその種類に合わせて切り替わった。サバンナ、砂漠、ツンドラ地帯、海底神殿、地下迷宮、漫画喫茶、甲子園球場などなど。統一感がなかった。というか、途中からネタが尽きて違うジャンルに突入したような気配すらあった。そして、そんな移り変わっていく世界を目の当たりにしていくうちに、ここが本当に学校なのか、なんかもうようわからん気持ちになって来た。ちょっと進むだけでキャンサーたちがわらわら出てきて、僕たちはいちいちその相手をさせられた。だから、時間をかけても全然前に進んでない感じだった。
「そろそろ、部室に着くころですかね?」
 人気のない中世ヨーロッパ風の街並みを歩きながら、僕は花澄ちゃんの胸ポケットの琴理人形に話しかけた。すでに一時間以上歩いているはずだ。
「そうですね。かなり近づいてきている気がします」
 なんだか適当な返事だ。ほんとに大丈夫なのかな。みんなの顔にも不安と疲労の色が見える。
 と、そのとき、何かが道の向こうからこっちに向かってくるのが見えた。キャンサーだろうか。かなり数が多いようだ。そして、すごく早いスピードでこっちに迫ってくるようだ。
「みなさん、気をつけて! おそらく、あれが敵の最後の防衛ラインですわ!」
 僕たちはいっせいに身がまえた。次第に、その近づいてくる音が大きくなっていく。それは足音ではなく振動だった。そう、彼らは――バイクに乗っている!?
「……なんだあれ?」
 一瞬ポカーンとなってしまった。一言で言うと、それは人型のモンスターで結成された暴走族だった。ゴブリンやダークエルフ、ドワーフや狼男などが、特攻服を着て、おどろおどろしいデザインのバイクにまたがっていたのだ。
 そして、そのヘッドらしき人物は若い女のようだった。黒いライダースーツに身を包み、背中から黒いコウモリ羽をはやしている。ウェーブがかかった黒く長い髪に、スタイル抜群のボディ。眼鏡をかけていて、口には棒付きキャンディーをくわえている……って、あれ? この人あれじゃね?
「桜井先生!」
 僕たちの間に衝撃が走った。
「桜井先生! なんでそんなことしてるんですか!」
「はっ、もうアタイは、ダサイ保健医なんかじゃねえのさ」
 桜井先生、いや、デビル桜井はニヤリと笑った。


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