きょうの社説 2012年3月31日

◎現代美術展 ただならぬ真剣勝負の場
 きょう開幕する第68回現代美術展で、最も優れた作品に贈られる美術文化大賞が、創 設20年目で初めて「該当なし」となった。このことは、現美が北陸の美術界において、ただならぬ真剣勝負の場であることをあらためて示し、現美を支えてきた重鎮たちの後に続く美の担い手に、一層の奮起を促す結果となった。

 現美は改革を重ねる中で、他の県展レベルと違い、全国で唯一、作家が受賞の実績を積 み上げ、昇格していくシステムを確立した。力量に応じたポストの設定は、作家が自分の立ち位置を確かめながら、さらに上をめざすうえで大きな励みになっている。加えて、出品委嘱作家となっても、鑑査を受けて展示が見送りとなることがあるように、毎回気を抜けない厳しさがある。

 美術文化大賞は、こうした試練を経た出品委嘱作家のうち、評議員と会員から選ばれる 委嘱賞作品が対象となって審査され、これまで各分野から石川の美の旗手となる逸材を輩出してきた。全国レベルで高い評価を受けている人材も多く、単なる「地方展」を超えた現美の質の高さを象徴する栄誉となっている。

 それだけに重鎮に続く中核作家は、北陸の地に、レベルの高い真剣勝負の場があること に誇りを持ち、今回の「該当なし」をバネに創作に励み、頂点をめざす気概を示してもらいたい。

 昨年秋、大樋長左衛門氏が工芸分野で唯一となる文化勲章を受章し、日本芸術院会員や 人間国宝を含めて、現美の「巨匠山脈」は一段と高くなったといえる。重鎮の中には、現美では、時に受賞を逃し落選の憂き目に遭いながら、挑戦を繰り返し、技と感性を磨いてきた人もいる。先達が築いてきた礎を受け継ぐためにも、後に続く美の担い手の責任は重い。

 今回は応募総数が1701点、委嘱作品などを含めた展示総数が1148点といずれも 過去最多となった。初出品の若手の作品が美術文化特別賞に輝くなど、美術王国のすそ野の広がりと厚みは、むしろ増している。明日を担う若々しい美の感性に触れる楽しさも感じながら、秀作群を堪能したい。

◎特捜部の証拠改ざん 認定された「組織ぐるみ」
 大阪地検特捜部の証拠改ざん隠蔽(いんぺい)事件で、犯人隠避罪に問われた元特捜部 長と元副部長の両被告に、大阪地裁がそれぞれ懲役1年6月、執行猶予3年を言い渡した。検察としてあるまじき「組織ぐるみの犯罪」を認定したものであり、地に落ちた検察の威信、信頼回復へ組織改革に全力を挙げる必要がある。

 大阪地裁判決で特に留意したいのは、「犯行は組織の病弊が生み出したともいえる」と の指摘である。一審判決自体は検察側の「勝利」ということになるが、判決は検察組織全体を糾弾するものと受け止めなければなるまい。

 今回の大阪地検特捜部の事件を受けて、最高検察庁は昨年9月、検察の基本規程(検察 の理念)を制定した。独善に陥ることのない公正誠実な職務など検察の精神、基本姿勢を明記したもので、その中で「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすがごとき姿勢をとってはならない」と自らを戒めている。大阪地裁判決は、そのような検察の姿勢、体質を厳しく批判したものといえる。

 法務省の「検察の在り方検討会議」が昨年3月にまとめた提言に基づいて、具体的な検 察改革も進められている。例えば、特捜部の独自捜査に対する「横からのチェック」を強化するため、大規模あるいは複雑困難な事件について、総括審査検察官が審査を行う制度を導入し、検察官の違法・不適正行為に目を光らせる監察指導部を最高検に新設した。

 特捜部や特別刑事部の被疑者取り調べで録音・録画も試行している。始まったばかりの これらの改革を徹底し、検察理念の血肉化に努めてもらいたい。

 今回の裁判で最大の争点となったのは、既に実刑が確定した元検事が元副部長にデータ 改ざんを電話で打ち明けたかどうかで、現職検事の証言と被告側の主張が鋭く対立した。ウソを暴くことを使命とする検察側の人間同士が法廷でにらみ合い、どちらの話に信ぴょう性があるかを争う裁判の構図自体が、検察官の信頼を損ねる結果になったことも否めない。