消費増税関連法案を政府は閣議決定した。野田佳彦首相が強調していた年度内の国会提出にようやくこぎ着けたが「ねじれ国会」のハードルに加え、民主党内にも造反の動きを抱え前途は多難だ。
小沢一郎元代表に近い複数の民主党議員が政務三役の辞表を提出、国民新党も事実上分裂するなど与党に早くも混乱が生じている。首相は党分裂も辞さぬ覚悟で国会審議にのぞむ必要がある。自民党も合意形成に協力し法案の足らざる点を改め、2大政党の責任を果たす局面である。
首相は30日夕の記者会見で「(国会に)提出した以上は全力で成立を期す」と強調、「政策のスクラムを組むことは可能だ」と野党との合意に期待を示した。
首相はさきに「政治生命を懸ける」とも明言した。民主党内には早期の衆院解散を避ける思惑から、決着を次期国会以降に先送りさせようとする動きも根強いだけに、退路を断った自らの発言は重い。
首相が望んだ野党との協議は実現しなかったが、法案の国会提出にこぎ着けたことは確かに一歩前進だ。だが、足元では理解しがたい混乱が続いている。
とりわけ、国民新党のドタバタは醜態だ。増税反対派の亀井静香代表は連立離脱を宣言、これに対し自見庄三郎金融・郵政改革担当相は法案に署名するという正反対の対応で党は事実上分裂した。
ひとつの政党に与党議員と野党議員が同居する状態が許されていいわけがない。早急に党の意思統一をはかれないようでは、政治がモラルハザードを来してしまう。
それにも増して深刻なのが民主党内の状況だ。46時間も事前審査で議論を尽くし、「景気弾力条項」に経済成長の数値目標を記すなどの修正を行ったにもかかわらず、対立がいっこうに収束しない。
小沢元代表は党の手続きに「強引」と異を唱え、グループ議員は政務三役の辞表を出すなど倒閣まがいの動きをしている。消費増税は政権を懸けたテーマであり、党にとどまる以上は決定に従うべきだ。現段階で増税に反対するのであれば「では、どうするか」をより具体的に説明しなくては無責任に過ぎる。
衆院の採決で大量造反が出れば参院はおろか、与党単独による法案の衆院通過すらおぼつかないのは事実だ。だが、首相が優先すべきは野党との合意形成だ。これ以上慎重派に安易な譲歩をすべきではあるまい。
民主党以上に国会での対応が問われるのが野党、自民党である。
谷垣禎一総裁は首相に衆院解散を求め、選挙を経れば政策合意に柔軟に対応する用意を示している。だが、消費税率の10%への引き上げは自民もまた、公約に掲げていた。
解散戦略を優先するあまり、消費増税法案を放置したまま対決姿勢をとり続ける道を選ぶべきではない。早期の審議入りに応じ、堂々と議論を尽くすことをまずは求めたい。
そのうえで政府案の不備を改めるのが責任ある野党としての役割となる。社会保障の年金改革の将来像について、民主党は最低保障年金制度の具体像も含め、説得力ある説明ができていない。
複数税率をはじめとする負担軽減策、低所得者対策の検討も不十分だ。残されるさまざまな課題を建設的な立場からただすことが、かつての与党である自民、公明両党の責任のはずだ。
衆院議員の任期満了が近づくほど、民主、自民両党の協調は難しさを増す。民主党の岡田克也副総理は自民党幹部に大連立構想を打診したという。自民の一部に呼応する意見もあるが、現実的ではあるまい。
消費増税は本来、民意を問うに足る重大なテーマだ。だが、政治を前に進めていくことの大切さも軽視できない。
民主、自民両党が合意して法案を成立させたうえで首相が衆院を解散し、国民の審判を仰ぐいわゆる「話し合い解散」も選択肢ではないか。もちろん、十分な政策協議が行われ、法案に必要な修正が加えられることが前提となる。
各種の世論調査をみる限り、消費増税をめぐる国民の視線は依然として厳しい。
社会保障の維持がこのままでは難しいと多くの人が認めながら増税への理解がなかなか広がらない背景には、民主党が政権交代にあたり消費増税はしないと事実上約束していたことへの不信がある。
社会保障の将来像への不安、不徹底な行革への不満も根強い。首相がこれまでの党の見解の変遷についてより率直に国民に謝罪すべきなのは当然だ。
「決められない政治」が印象づけられ民主、自民両党の政党支持率は低迷している。橋下徹大阪市長が率いる「大阪維新の会」が次期衆院選に候補を大量擁立する準備を本格化、既成政党の脅威となっている。
国民の納得できる成果を政党が示せるかが今こそ、問われている。政界の再編にすら波及しかねない局面だ。最後に試されるのは首相、谷垣両党首の力量である。
毎日新聞 2012年3月31日 2時30分