会川晴之記者 ボーン・上田賞受賞

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高速増殖炉:英最北の町、閉鎖 解体完了に半世紀 開始30年、燃料棒取り出せず

ドーンレイ核複合施設の遠景。丸いドームは、西側初の高速増殖実験炉。その右隣が原型炉=6日、会川撮影
ドーンレイ核複合施設の遠景。丸いドームは、西側初の高速増殖実験炉。その右隣が原型炉=6日、会川撮影

 12月6日、英本土最北端のドーンレイは、あられが降っていた。氷点下2度。白い波頭が荒々しく砕ける北大西洋から、突風が吹きつけ、肌を刺す。

 「高速増殖炉など核施設の解体が終われば、この地に仕事はなくなる」。世界有数の巨大核複合施設で父親の代から働く広報担当の女性職員、クレア・クロフォードさんが、コートの襟をかき合わせながら言い、空を見上げてつぶやいた。「風力発電にはとてもいい風。再生可能エネルギーの聖地に生まれ変わればいいのに」

 ドーンレイでは、英国政府が1950年代に西側世界で初めて高速増殖炉の建設に着手した。使用済み核燃料の再処理で生まれるプルトニウムを利用する「核燃料サイクル事業」の先進地として、人口約1万人の町の住民の多くを雇用した。

 英エネルギー・気候変動省によると、当時は石油などの化石燃料もすぐに底を突くと予想されていた。ノーベル賞を受賞した科学者らの提案で、政府は「夢のエネルギー産地」として巨額の国費を投じた。建設・運営した施設は、高速増殖炉のほか核燃料再処理施設や核燃料製造工場など計180施設。高速増殖炉は54年に実験炉、66年に原型炉を着工、85年に大型の実証炉の設計に入った。

 ところが、70年代後半、カナダなどで相次いで巨大ウラン鉱床が見つかり、ウラン価格は1ポンド(約453グラム)当たり、10分の1の10ドル台に急落した。英国沖で北海油田も見つかり、高速増殖炉の経済優位性が薄らいでいく。さらに、95年に日本の「もんじゅ」(原型炉)で起きた事故と同様、冷却剤漏れが頻発する克服困難な問題に直面した。

 英国政府は高速増殖炉計画を断念、94年に原型炉を閉鎖した。今は総額29億ポンド(約3500億円)を投じ、約2000人の技術者たちが施設の解体や放射性廃棄物の処分場建設を進めている。

 施設の解体終了目標は2039年。だが、「(77年に運転を停止した)実験炉の解体は83年に始まったのに、30年近くたってもまだ、炉心にある核燃料棒すら取り出せていない。順調に進んでも、終了まであと20年はかかる」。解体作業責任者のアレックス・アンダーソンさんが見通した。作業開始から少なくとも半世紀はかかる計算だ。低レベル放射性廃棄物のみ施設内の土中に埋められ、これが人体に「安全」となるのは2300年ごろだ。

 ドーンレイの核施設には今なお、原子炉内の使用済み核燃料を含め、ウランや、原爆の原料となるプルトニウムなど計100トンがある。最終処分場が決まるまで、核不拡散、テロ対策も必要で、広報官の許可により施設内外で撮影した記者の写真について、警備担当官が「近すぎる。消去しろ」と命じてきた。

 核燃料サイクル事業の先駆けとなった英国が、その役割を終わらせる皮肉。画像データを消す手が震えたのは、寒さからではなく、過疎の町が背負った気の遠くなる宿命におののいたからだった。【ドーンレイ(英スコットランド北部)会川晴之】

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 東京電力福島第1原発事故は10万年以上も管理が必要な核のゴミ問題を人類に思い起こさせた。連載「どうする人類、核のゴミ」(8面に掲載)で世界各地の取り組みを報告する。

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 ■ことば

 ◇高速増殖炉

 燃料のプルトニウムについて、消費した量よりも多くの量を生産する原子炉。英国、旧ソ連、米国、フランス、日本などが商業化を目指したが、ドイツは91年、米英は94年に運転を停止、世界最大の実証炉「スーパーフェニックス」を開発した仏も98年に断念した。現在、日本、ロシア、中国、インドが開発を続ける。

2011年12月9日

 

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