(この記事は私が概念的・感覚的にとらえて書いている部分が多いですが、基本的な考え方やニュアンスは充分伝わるのではないかと思います。)
音響の世界でエフェクターという機器があります。同じ働きをソフトウェアで実現するものもあります。音の性質を変えたり、音になんらかの効果を与えるもので、音のトーンを細かく調整する「イコライザー」や反響音を加える「リバーブ」「エコー」などがあります。
「コンプレッサー」というのもエフェクターの一種です。これは簡単にいえば音量差を少なくするものです。元の音とコンプレッサーをかけた音の波形を見てみましょう。

元の波形

コンプレッサーをかけた波形
こんな感じです。
やっていることは簡単なのですが、目的によってかけ方が違ってきます。目的は概ね以下のとおりです。
- 音量差による聴き難さをなくす
- リミットを超える入力を抑える
- 音の繊細な成分を聴かせる
音楽で使う場合はまだ用途があるのですが、ここでは省略。
音量差による聴き難さをなくす
表現にはメリハリが欲しいのですが、強弱がそのまま音量差になるとつらい場合があります。弱音部で物足りないからとボリュームを上げると、強勢部でうるさくなってしまったりします。少ない音量差で表現の強弱をつけることは表現者の技術により可能であり、それが理想です。しかし、実際はそうもいかないのです。そこでコンプレッサーが有効になります。
リミットを超える入力を抑える
この目的の場合、同じ原理の機器でも機能的には「リミッター」と呼びます。リミットというのは録音・再生機器の能力限界です。アナログの場合はこれ以上入力が大きいと歪むというレベル。デジタルの場合は量子化の限界。つまりレベルを0〜65535までの数値で表わすとすると65535を超えるレベルはどうしたって表わしようがないのです。リミットを越えてそれ以上をスパン!と切られてしまうことを「クリップする」といいます。リミッターはクリップする前にもっと滑らかに抑え込んで歪まないようにします。「スパン」ではなく「ギュッ」という感じでしょうか。
音の繊細な成分を聴かせる
音というものはほとんどが倍音を含んでいます。倍音というのは、基本の音に重って鳴る音の成分で、基本音の整数倍の周波数の音で構成されます。倍音を含んでいるほど豊かな厚みのある響きとして聞こえます。楽器にしても声にしても、乱暴に言ってしまえば「優しく発音した(弾いた/叩いた/吹いた/発声した)方がいい音が出る」のです。もしかすると、強く発音した場合、基音ばかりが大きくなって時には歪んだり雑音を発したりするのかもしれません。そんな特性があるので、弱く発音した音の中に含まれる倍音を際立たせるというのが、表情豊かな音として聴かせてやるひとつのやり方です。しかも、強く発音した音のレベルを抑えつつです。そのために役に立つのがコンプレッサーというわけです。
私は以前この目的の使い方が頭になく、「コンプレッサー使うと音が変ってしまうんだよね」などと困っていたこともありました。
馬鹿とコンプレッサーは使いよう?
おいしい効果を狙って使うエフェクターも、使いようによっては弊害も出て来ます。
たとえば、強く発音した音はレベルが抑えられるわけですが、基音とともに倍音までもが抑えられることになります。前述の「音が変ってしまうんだよね」と感じたケースは、この現象だったのかもしれません。倍音を抑えずに基音を抑えるということもある程度は可能らしいですが、その方法はここでは割愛します。
ノイズゲートの使用
レベルの低い音を大きくするということは、ノイズのレベルも上げてしまうことになります。つまり、基本的に、ノイズの多い音源にコンプレッサーは使えないということです。しかし、「そんなこと言わないでなんとかしてくださいよ」という要望に応えたのかどうかは分かりませんが、「ノイズゲート」との併用という使い方があります。「ノイズゲート」というのは、コンプレッサーの原理とは逆に、「ある基準よりレベルの低い音はノイズとみなしてレベルをぐんと下げてしまう」というものです。これにより、ノイズはゼロに、小さい音は大きく、大きい音は抑えて万々歳。
……とはいきません。レベルの低いノイズだけの部分はカットされますが、原音に乗っかっているノイズは原音とともに残るのです。発音時と無音時のレベル差がはっきりしている音源、たとえば多くのポピュラー音楽などは、ノイズは原音に隠れて気にならなくなることが多いようです。しかし、人の話す言葉はそうはいきません。ノイズは声には紛れにくいのです。無音→突然声と共にサーッというノイズ→無音。このくり返し。これならば定常的にノイズがあった方がかえって聴きやすいぐらいです。結論をいうと、声を録る時はとにかくノイズを拾わないように努めノイズゲートは使わない、ということですね。
朗読でのコンプレッサーの使用
朗読というのはわりと坦々と読まれることが多いので、一般的には音量差は少ないと言えるでしょう。ただ、読み方や作品によっては必要になるでしょう。作品の解釈にもよりますが、たとえば叫ぶようなセリフがある場合。そのセリフの部分だけ音が割れてしまったり聴いている人がびっくりしないように、コンプレッサーでレベルを抑える必要があります。これも、前述のとおり、朗読者の技術で音量差を抑えつつ表現の強弱をつけられればそれに越したことはありません。
また、音量差は少なくても、声の繊細な部分をしっかり聴かせたい場合はコンプレッサーを使ってもいいかもしれません。
さらに、ボロ隠しにも効果があります。発声が不安定な場合に平均化して聴きやすくなる場合があります。発声の安定性は個人差か大きいですが、私は朗読にも、コンプレッサーは基本かけたほうがいいと思います。
posted by rodoku.net at 09:56
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