2009年06月22日

はじめに

朗読の音声を自宅でいい音で記録するにはどうしたらいいかを紹介していきます。いい音とはどのレベルを指すのでしょうか。ここでは、たとえばオーディション用のサンプルやネットでの無料配信(ポッドキャスティング等)などで、「商品になるほどの音質ではないが他人が心地よく聴ける」程度の音質の録音を想定しています。
手順は、簡単にいうと、アナログ音声を何らかの手段でPCに取り込み、デジタル音声ファイルにする、ということです。

以下、細かく説明していきます。


このカテゴリの記事は随時書き換える可能性があり、その際もお知らせはしませんのでご了承下さい。

コメント大歓迎です。誤りのご指摘やご意見など遠慮なくお書き下さい。ただし、コメントに対するこちらからの返答は期待しないで下さい。


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マイク選び

一般的に使われているマイクは「ダイナミックマイク」というやつです。カラオケやイベントの司会などで使っているのは間違いなくこのタイプでしょう。
朗読の音声を拾うには、やはり繊細に拾ってくれるマイクが欲しいです。プロの現場では「コンデンサーマイク」が常識。コンデンサーマイクの特徴は、

  • 繊細に音を拾う
  • 高価。定番のノイマンU87とかソニーC-38などは数十万円。近ごろは壱万円台のお手頃の物もある
  • ミキサー等の接続機器からの電源供給が必要(ファンタム給電)
  • デリケート(物理的にも、電気的にも、環境的にも)
  • 繊細な分、ノイズにも敏感
コンデンサーマイクとは、たとえばこんな形です。 コンデンサーマイクの設置例 (「エレクトレットコンデンサーマイク」というのがありますが、「コンデンサーマイク」とは別物なので混同しないようにして下さい。)

では、自宅で録音するレベルでは、どちらがいいのでしょうか。私は、防音がしっかりできている、かつノイズやムラの少ない発声・発語ができている場合に限りコンデンサーマイク、そうでない場合ダイナミックマイクがいいと考えます。ダイナミックマイクといってもいろいろありますから、コンデンサーマイク程ではなくても繊細に拾ってくれる物もあるでしょう。ダイナミックマイクの定番といえばシュアーSM58ですが、同じシュアーでもBETA 57なんかはわりと繊細らしいです。
コンデンサーマイクは実際の録音に耐えないまでも、練習のために所有しておく価値はあるかも知れません。プロの録音現場では間違いなくコンデンサーマイクが使われます。形状も設置形態もヘッドホンに返ってくる音もダイナミックマイクとは違います。 もし、あなたがプロの現場で収録する機会があるのであれば自宅でも慣れておいた方がいいかも知れません。


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機器構成

機器構成はいくつか考えられますが、アナログ-デジタル変換をどこでやるかというのが鍵になります。

●PC直結
今時のPCにはサウンドデバイス(サウンドカード、あるいはオンボードのサウンドコントローラ)が標準で搭載されており、それがアナログ端子から入力された音声をデジタルに変換します。
機器構成(PC直結)
  • 構成がシンプル
  • サウンドデバイスの性能はあまり期待できない(PC内のノイズの影響も大きい)
  • PCのマイク入力はエレクトレットコンデンサーマイク用に作られていて、ダイナミックマイクではゲインが不足してまともなレベルで入力されない(つまり、ダイナミックマイクに対応した高性能のサウンドカードが載っていないかぎり、この構成ではダメだと言うこと)
  • コンデンサーマイクは直接接続できない(PC内蔵サウンドデバイスにはファンタム給電のできるものはおそらく無い)
  • モニターに遅延が生じる(後述)
●マイクプリアンプ経由

マイクからの信号はレベルが低いのですが、マイクプリアンプにつなげることによりライン入力のレベルにすることができます。マイクプリアンプはコンデンサーマイクのファンタム給電の目的で使用することが多いですが、ファンタム給電をオフにしてダイナミックマイクを接続することができます。 機器構成(マイクプリアンプ経由)
PC直結と異なる特徴

  • PCのライン入力に接続できる(サウンドデバイスの性能とPC内ノイズの問題はやはりある)
  • コンデンサーマイクを接続できる
  • 真空管を使ったものが多い(真空管アンプの音は一般的に「暖かみのある音」などと言われている)
●オーディオインターフェイス経由
オーディオインターフェイスというのは、アナログ音声をデジタルに変換してPCに送る(その逆も)機器。マイクとPCの間につなぎます。マイクプリアンプの出力がデジタルになったものと考えてもいいかもしれません。PC側のインターフェイスはUSBの他、FireWire(IEEE 1394)の物もあります。
機器構成(オーディオインターフェイス経由)
  • オーディオインターフェイス機器が必要
  • コンデンサーマイクでも接続できる(ファンタム給電のできる機種は多い)
  • 遅延のないモニターが可能
  • 入力が複数あってミキサーの機能を備えたものも多い

●USBマイク使用
アナログ-デジタル変換機能を内蔵してUSBでPCと接続するマイクです。
機器構成(USBマイク使用)
  • 接続が簡単
  • 発売されているUSBマイクの種類が少ない
  • コンデンサーマイクでも、USBから給電できるためPCに直結できる
  • モニターに遅延が生じる(後述)

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PCでの処理

だいたい以下の処理が必要になります。

  1. 録音
  2. 編集(切ったり繋げたり)
  3. 音の調整(レベルの最適化、イコライジング、リバーブ等のエフェクト)
  4. ミキシング(BGMを重ねたり)
  5. CD等への書き込み
1〜4は、ひとつのソフトウェアでできます。DTMとかDAWとか波形編集ソフトとか言われるソフトウェアです。音楽用の本格的なものは必要ありません。AudacitySoundEngine(ミキシングは別ソフト)等のフリーソフトで充分でしょう。また、オーディオインターフェイス製品付属のソフトウェアも使えます。
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モニターの遅延問題

マイクで拾った音をヘッドホン(もしくはスピーカー)に返してやるわけですが、構成や設定によってはかなりの遅延(レイテンシーとも言います)が発生します。この遅延は、(1)アナログ→デジタル変換、(2)USB伝送、(3)デバイスドライバーやカーネルの処理、(4)録音するソフトウェアの処理、(5)デジタル→アナログ変換、などで生じます。私の使用している環境では、かつて0.5秒ほどの遅延がありました。日本語の普通の速さは7モーラ/秒ぐらいですから、0.5秒も遅れると「こんにちは」と喋ると「こんに」辺りまで聞こえてから「こんにちは」と返ってきます。ストレスになってモニターなんかしない方がマシかとも思いました。

よくよく調べてみると、録音するソフトウェアのバッファサイズというのが影響していたようです。バッファというのはデータをある程度ため込んでおく器で、これがあると入力データ(この場合デジタル音声)の到着タイミングのばらつきを吸収することができます。しかし、バッファを大きくするとため込んだ分だけ出力が遅れるのです。遅延が気になるようなら、このバッファサイズを小さく設定すればいいのです。ただ、小さくしすぎると本来のバッファの働きがなくなってしまいますから、CPUの能力不足やUSBの競合などで入力データの到着が遅れると、データの欠落が生じて、音質の劣化につながります。

もう一つ有効なのはASIOドライバーを通すということ。これにより(3)の遅延が格段に小さくなります。但し、オーディオインターフェイスやUSBマイクなどの機器が「ASIO対応」でなければなりません。

この遅延を根本的になくすには、前記(1)〜(5)を通さずに、つまりデジタル変換する前にアナログで返してやるしかないでしょう。それが可能な構成は「オーディオインターフェイス経由」です。また、USBマイクの中には、(おそらくこの遅延を考慮して)ヘッドホン出力を持った機種もあります。
機器構成(ヘッドホン出力付USBマイク使用)


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機器選び

使えそうな機器を例として挙げてみます。責任を持ってお勧めできるほど調べたり試したりはしていませんので、詳細はご自分でお調べ下さい。(メーカー名の項は厳密にはブランド名の場合もあります)

●マイク
◇ダイナミックマイク
メーカー型名中心価格備考
SHUREBETA 57A15,000円SM57よりも高域を拾うらしい
AUDIXOM310,000円抜けのいいヴォーカル用として定評
BEHRINGERXM85003,000円SM58コピーモデル
CUSTOMTRYCM-20001,000円SM58コピーモデル
XM8500、CM-2000はコストパフォーマンスがかなり良いらしいです。
◇コンデンサーマイク
メーカー型名中心価格備考
RODENT1-A20,000円
BEHRINGERB-115,000円
BEHRINGERC-16,500円
audio-technicaAT203517,000円
JTSNX94,800円電池駆動可(ファンタム給電不要)、手持ちスリムタイプ
◇USBマイク
メーカー型名中心価格備考
RODEPodcaster20,000円ダイナミック。ヘッドホン出力あり
MXLUSB.00818,000円コンデンサー
SAMSONCO1U9,000円コンデンサー
SAMSONG-TRACK17,000円コンデンサー。ヘッドホン出力あり
Blue MicrophonesSnowball16,000円コンデンサー
Podcasterはダイナミックマイクですが、デザインはコンデンサーマイクに似ています。
●オーディオインターフェイス
すべてPCとの接続がUSBの物です。
メーカー型名中心価格備考
EDIROLUA-4FX19,000円エフェクター内蔵
TASCAMUS-1008,500円ファンタム給電なし
M-AUDIOFast Track12,000円
SHUREX2u14,500円
Blue MicrophonesIcicle7,000円ヘッドホン出力なし
◇オーディオインターフェイスとしても使えるデジタルレコーダー
メーカー型名中心価格備考
ZOOMH4n28,000円
練習録音用にはもったいないぐらいの録音性能です。ライブ録音用機器との兼用で使えるかもしれません。内蔵マイクはそれなりの性能と思われます。
●ヘッドホン
録音している音を聴くのにヘッドホンが必要です。スピーカーではいけません。スピーカーの音がマイクに入ってしまいますから。録音した音を聴く場合も良い音をそのままに聴くにはヘッドホンがいいです。スピーカーで同じくらいの音質で聴くには、おそらくヘッドホンの十倍くらいの値段の機器が必要になるはずです。
ヘッドホンは奮発して良いものを使いましょう。他人に聴いてもらうのですから、どんな音で録れているかを正しく確認する必要があります。ノイズがあきらかに混じっているのに気づかないなんていうことがないように。
また、音声録音時のモニターは漏れた音をマイクが拾わないように、密閉型のヘッドホンを使いましょう。再生ならば開放型でも構いませんが。
メーカー型名中心価格備考
SONYMDR-CD900ST17,000円定番
AKGK271MKII20,000円
audio-technicaATH-SX1a18,000円
audio-technicaATH-A5008,000円
SHURESRH240-A 7,000円
●その他
◇ケーブル
タイプ価格備考
XLRメス-XLRオス 3m1,000〜2,000円マイクとオーディオインターフェイスをつなぐ
XLRは「キャノン」とも呼ばれています。
◇マイクスタンド
タイプメーカー型名中心価格備考
ブームK&M210205,500円定番
TAMAMS2056,500円頑丈、重い、金具の締め付け強い
その他2,000円ぐらい
卓上その他1,000〜3,000円
ずんぐりタイプのコンデンサーマイクを吊る場合は、重さでブームが降りてきたり、スタンド全体が倒れやすくなりがちなのでTAMAが良いようです。
◇ポップガード
マイクに息を吹きかけると、直接は聞こえないような息でも、「ボッ」とかそういう感じのノイズとして拾ってしまいます。吹きかけているつもりはなくても、「パ・ピ・プ・ペ・ポ」の音は同じようなノイズになりがちです。これを「吹かれ」とか「ポップノイズ」とか言いますが、ポップガードとはそれらのノイズを物理的に除去するためのフィルターです。音源(朗読者の口)とマイクの間に設置します。
タイプ価格備考
1,500円〜
金属3,000円〜高域のロスが少ない
◇ショックマウント
ショックマウント(サスペンションホルダー)とは、床から伝わる振動などを吸収する機能を持ったマイクホルダーです。前のコンデンサーマイクの写真はショックマウントに搭載された状態です。コンデンサーマイクの中には標準でショックマウントが付属されて売っているものもあります。別売りの場合は、五千円ぐらいで買えますが、建物内で振動を発している機器があるとか、ステップを踏みながら読むとか、そういうことがない限り、わざわざ買う必要はないかもしれません。
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構成例

前にあげた機器で予算別にシステムを組んでみます。

●贅沢
構成例(お金持ち向け)
品名メーカー型名中心価格備考
マイクRODENT1-A20,000円コンデンサー
オーディオインターフェイスEDIROLUA-4FX19,000円エフェクター内蔵
ヘッドホンSONYMDR-CD900ST17,000円
マイクケーブル--2,000円
マイクスタンドTAMAMS2056,500円ブーム型
ポップガード--3,000円布製
合計67,500円
NT1-Aは高域を持ち上げているという噂があるので、ポップガードは布製でもいいかもしれません。

これよりも性能のいいシステムはいくらでも考えられますが、もしお金があまっているのなら防音ブースに投資したほうがいいです。

●奮発
構成例(小金持ち向け)
品名メーカー型名中心価格備考
マイクRODEPodcaster20,000円ダイナミックUSB。ヘッドホン出力あり
ヘッドホンSONYMDR-CD900ST17,000円
マイクスタンドTAMAMS2056,500円ブーム型
ポップガード--3,000円金属製
合計46,500円
●そこそこ
構成例(中流向け)
品名メーカー型名中心価格備考
マイクBEHRINGERC-16,500円コンデンサー
オーディオインターフェイスSHUREX2u14,500円
ヘッドホンaudio-technicaATH-A5008,000円
マイクケーブル--1,000円
マイクスタンド--2,000円卓上型
ポップガード--1,500円布製
合計33,500円
●低予算
構成例(貧乏人向け)
品名メーカー型名中心価格備考
マイクCUSTOMTRYCM-20001,000円ダイナミック
オーディオインターフェイスTASCAMUS-1008,500円
ヘッドホンSHURESRH240-A7,000円
マイクケーブル--1,000円
マイクスタンド--1,000円卓上型
ポップガード--1,500円布製
合計20,000円
ポップガードは必要ないかもしれません。
コンデンサーマイクが欲しくなったら、JTS NX9に買い換えるだけで済みます。
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2009年06月26日

デジタルレコーダーという選択

これまで、PCで録音するという前提で書いてきました。でも、一旦デジタルレコーダー(ICレコーダー)で録音したものをPCに転送して編集するという方法も現実的かなという気がします。PCによる録音と比べて以下の特徴が挙げられます。

  • 普段は練習用に手軽に使える
  • 自宅以外の場所へ持ち出せるので、カラオケボックス等の雑音のない部屋で録音できる
  • 自宅以外の場所で録音した場合、編集段階で取り直しが必要になると面倒
  • 同じやり方でライブ録音もできる
では、実際に高品質の録音に使える機種があるか調べてみましょう。リニアPCM録音(CD相当の44.1kHz/16bitサンプリング。wavファイル保存)が可能なものを対象にしました。
メーカー型名中心価格マイク入力その他
SANYOICR-PS501RM12,000円ミニジャック(ステレオ)
OLYMPUSDS-7125,000円ミニジャック
SONYICD-SX80016,000円ミニジャック(プラグインパワー対応)
TASCAMDR-128,000円標準ジャック
TASCAMDR-10042,000円XLR(ファンタム給電)
ZOOMH220,000円ミニジャック(プラグインパワー対応)オーディオインターフェース機能
ZOOMH4n28,000円XLR(ファンタム給電)/標準オーディオインターフェース機能
ここで気になるのはマイクの性能です。そもそもこれらのレコーダーの使用目的は何なのでしょか。どうやらこれらの製品の市場参入の流れには二つあるのではないかと私は思っていまして、一つは家電メーカーがカセットレコーダーの代替として開発したICレコーダー、その上位機種としての位置付け。もう一つは楽器・音響メーカーがプロ用音響機器の技術を使って(その用途も残しつつ)ICレコーダーの市場に参入したという流れです。

前者の流れで参入した製品を考えると、ターゲットとなる用途は「会議の録音」と「語学学習」のようです。とすると、「ある程度離れた場所の言葉をしっかり聴き取れるように録音する」ことが重要になります。マイクに近づいて発した声を細かいトーンまできれいに録音するのとは異なります。内蔵マイクはそういう目的でチューニングされていると考えるのが妥当でしょう。ただ、近づいて録った音がダメだというわけではなく、遠くの音をいい音で拾うマイクならば近くの音もそれなりにいい音で拾ってくれるとは思います。

後者の楽器・音響メーカーの流れの場合は、野外録音や音楽の練習などもターゲットになっているようですから、マイクの性能やチューニングもある程度は期待できそうです。ちなみに上で挙げたメーカーのうちTASCAMは音響メーカー、ZOOMは楽器メーカーです。SONYは家電よりでしょうか。OLYMPUSはもともとは光学系なんですが……レコーダーに関しては家電系ですかね。

外部マイクではどうでしょう。マイク入力の仕様を見てみますと、ミニジャックというのが多いですね。この時点でもう、汎用のマイク(SM58とかNT1-Aとか以前の記事で挙げたようなもの)の接続は想定していないように思われます。プラグインパワー対応とか、ステレオとかの仕様のものは特にそうです。中には「専用のマイク以外は接続しないで下さい」と注意書きがあるものもあります。外部マイクをつなぎたい場合はXLR端子のあるZOOM H4nかTASCAM DR-100あたりでしょうか。もしくは、マイクプリアンプを介してライン入力かですね。

ところで、そんなに良い音じゃなくてもいいという方も多いかもしれません。CD相当の音質でなくてもMP3程度でもいいというのなら、ずっと低価格で実現でき、機器の選択肢は広がるでしょう。一万円以下のICレコーダーから始めてみる方が現実的かもしれません。それでもポータブルのカセットやMDレコーダーよりはずっと良い音で録音できるはずです。


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2009年08月01日

コンプレッサー

(この記事は私が概念的・感覚的にとらえて書いている部分が多いですが、基本的な考え方やニュアンスは充分伝わるのではないかと思います。)

音響の世界でエフェクターという機器があります。同じ働きをソフトウェアで実現するものもあります。音の性質を変えたり、音になんらかの効果を与えるもので、音のトーンを細かく調整する「イコライザー」や反響音を加える「リバーブ」「エコー」などがあります。 「コンプレッサー」というのもエフェクターの一種です。これは簡単にいえば音量差を少なくするものです。元の音とコンプレッサーをかけた音の波形を見てみましょう。

元の波形
元の波形

コンプレッサーをかけた波形
コンプレッサーをかけた波形

こんな感じです。
やっていることは簡単なのですが、目的によってかけ方が違ってきます。目的は概ね以下のとおりです。

  • 音量差による聴き難さをなくす
  • リミットを超える入力を抑える
  • 音の繊細な成分を聴かせる
音楽で使う場合はまだ用途があるのですが、ここでは省略。
音量差による聴き難さをなくす

表現にはメリハリが欲しいのですが、強弱がそのまま音量差になるとつらい場合があります。弱音部で物足りないからとボリュームを上げると、強勢部でうるさくなってしまったりします。少ない音量差で表現の強弱をつけることは表現者の技術により可能であり、それが理想です。しかし、実際はそうもいかないのです。そこでコンプレッサーが有効になります。

リミットを超える入力を抑える

この目的の場合、同じ原理の機器でも機能的には「リミッター」と呼びます。リミットというのは録音・再生機器の能力限界です。アナログの場合はこれ以上入力が大きいと歪むというレベル。デジタルの場合は量子化の限界。つまりレベルを0〜65535までの数値で表わすとすると65535を超えるレベルはどうしたって表わしようがないのです。リミットを越えてそれ以上をスパン!と切られてしまうことを「クリップする」といいます。リミッターはクリップする前にもっと滑らかに抑え込んで歪まないようにします。「スパン」ではなく「ギュッ」という感じでしょうか。

音の繊細な成分を聴かせる

音というものはほとんどが倍音を含んでいます。倍音というのは、基本の音に重って鳴る音の成分で、基本音の整数倍の周波数の音で構成されます。倍音を含んでいるほど豊かな厚みのある響きとして聞こえます。楽器にしても声にしても、乱暴に言ってしまえば「優しく発音した(弾いた/叩いた/吹いた/発声した)方がいい音が出る」のです。もしかすると、強く発音した場合、基音ばかりが大きくなって時には歪んだり雑音を発したりするのかもしれません。そんな特性があるので、弱く発音した音の中に含まれる倍音を際立たせるというのが、表情豊かな音として聴かせてやるひとつのやり方です。しかも、強く発音した音のレベルを抑えつつです。そのために役に立つのがコンプレッサーというわけです。
私は以前この目的の使い方が頭になく、「コンプレッサー使うと音が変ってしまうんだよね」などと困っていたこともありました。

馬鹿とコンプレッサーは使いよう?

おいしい効果を狙って使うエフェクターも、使いようによっては弊害も出て来ます。

たとえば、強く発音した音はレベルが抑えられるわけですが、基音とともに倍音までもが抑えられることになります。前述の「音が変ってしまうんだよね」と感じたケースは、この現象だったのかもしれません。倍音を抑えずに基音を抑えるということもある程度は可能らしいですが、その方法はここでは割愛します。

ノイズゲートの使用

レベルの低い音を大きくするということは、ノイズのレベルも上げてしまうことになります。つまり、基本的に、ノイズの多い音源にコンプレッサーは使えないということです。しかし、「そんなこと言わないでなんとかしてくださいよ」という要望に応えたのかどうかは分かりませんが、「ノイズゲート」との併用という使い方があります。「ノイズゲート」というのは、コンプレッサーの原理とは逆に、「ある基準よりレベルの低い音はノイズとみなしてレベルをぐんと下げてしまう」というものです。これにより、ノイズはゼロに、小さい音は大きく、大きい音は抑えて万々歳。

……とはいきません。レベルの低いノイズだけの部分はカットされますが、原音に乗っかっているノイズは原音とともに残るのです。発音時と無音時のレベル差がはっきりしている音源、たとえば多くのポピュラー音楽などは、ノイズは原音に隠れて気にならなくなることが多いようです。しかし、人の話す言葉はそうはいきません。ノイズは声には紛れにくいのです。無音→突然声と共にサーッというノイズ→無音。このくり返し。これならば定常的にノイズがあった方がかえって聴きやすいぐらいです。結論をいうと、声を録る時はとにかくノイズを拾わないように努めノイズゲートは使わない、ということですね。

朗読でのコンプレッサーの使用

朗読というのはわりと坦々と読まれることが多いので、一般的には音量差は少ないと言えるでしょう。ただ、読み方や作品によっては必要になるでしょう。作品の解釈にもよりますが、たとえば叫ぶようなセリフがある場合。そのセリフの部分だけ音が割れてしまったり聴いている人がびっくりしないように、コンプレッサーでレベルを抑える必要があります。これも、前述のとおり、朗読者の技術で音量差を抑えつつ表現の強弱をつけられればそれに越したことはありません。

また、音量差は少なくても、声の繊細な部分をしっかり聴かせたい場合はコンプレッサーを使ってもいいかもしれません。

さらに、ボロ隠しにも効果があります。発声が不安定な場合に平均化して聴きやすくなる場合があります。発声の安定性は個人差か大きいですが、私は朗読にも、コンプレッサーは基本かけたほうがいいと思います。


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2010年06月08日

我が宅録システム

私の録音環境が変りました。おそらくこれが決定版になるはずです。結論から紹介しますと、デジタルレコーダーを介して録音と編集の工程を分けるというもの。機器構成は以下のとおりです。

我が宅のシステム構成

品名メーカー型名購入価格備考
マイクRODENT1-A15,800円コンデンサー
オーディオインターフェイスZOOMH4n24,000円ハンディ
レコーダー
ヘッドホンSONYMDR-CD900ST17,000円
マイクケーブル--0円NT1-A付属
マイクスタンドTAMAMS2056,500円ブーム型
ポップガード--0円NT1-A付属
合計63,300円

ざっとこんな感じです。ここに至るまでの話しを順を追ってご紹介していきます。

今までの環境

ダイナミックマイク-オーディオインターフェイス

朗読の録音をする以前にもともと所有していた機器構成です。SC-D70というのは、オーディオインターフェイス機能を持ったMIDI音源です。

旧機器構成(SM58・SC-D70)

USBコンデンサーマイク

それなりの音質で手軽にコンデンサーマイクで収録したいと思い、USB.008を購入しました。

旧機器構成(USB008)
音質には満足でしたが、上質のサンプルを録音する上でいくつかの問題がありました。

  • モニターの遅延問題
  • PCのファンの騒音

◇モニターの遅延問題

モニターの遅延はUSB.008を使う以上、対策困難でした。USB.008を改造してヘッドホンを直接つなげられるようにしようかとも思いましたが、音質低下と引替えになりそうなのでやめました。結局、USB.008は捨てて新たにコンデンサーマイクとオーディオインターフェイスを購入するしかないとの結論に達しました。ちなみに、所有しているSC-D70はファンタム給電ができないのでコンデンサーマイクは繋げられません。
この時点で候補に挙がった機器はNT1-AとX2uです。

◇PCのファンの騒音

PCのファンの騒音がなかなかすごい。これをどうするか。「気にしない」という選択肢もありましたが、マイクをはじめどんどん性能の良い環境にして行こうという流れの中で、無視できないものになっていきました。
対策としてまず考えられるのは、マイクとPCとを隔離するということです。しかし、我が家はワンルーム。隔離できる部屋はユニットバスしかありません。録音の度毎にPCをユニットバスに設置し直すのは手間が掛るし、ユニットバスにマイクを設置すると反響対策に苦労するはずです。なので、隔離案は却下です。
次に考えたのは、騒音を元から緩和しようという事です。PCの周りを吸音材で囲みました。これはかなり効果はありましたが、あまりに大きい騒音は消えはしませんでした。
ただ、マイク周辺を吸音材で囲むなどの対策はPCファン以外の騒音軽減にも効果があることが分ったので、いずれ役立てようと考えています。

結論

PCのファンの騒音をマイクが拾わないようにするには、PCを止めるしかないとの結論に達しました。つまり、PC以外の機器で録音すると言うことです。この時点で、以前から調べて目を付けていたH4nの採用が決まりました。また、最近私がライブ朗読を記録に残そうと考え始めていることも、ハンディデジタルレコーダーの採用につながりました。

新しい環境での録音・編集工程

録音

録音時にはPCの電源を落として、H4nの録音機能で録音します。ちなみに、H4nにはMTRモードというのがあり、あらかじめBGM等を別トラックに入れておいて、それに合せて声を録るということも可能です。

我が宅のシステム構成(録音時)

編集

録音が終ったらPCを立ち上げて、H4nに録音した音声データをPCに読み込み、編集します。

我が宅のシステム構成(編集時)

機器の評価

NT1-A、H4n共に素晴らしいです。H4nは内蔵マイクの性能がかなり良いです。しかし、NT1-Aを繋げるとさらに高音質で、相対的にH4nの内蔵マイクが劣って感じられました。上を知ってしまった故の不幸であって、内蔵マイクだけでも充分かもしれません。ただ、見た目の問題はあります。ごっつい機械に向って声を発するのは、私には違和感があります。


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2012年03月02日

ノイズ対策

朗読者がいくら素晴らしい音声を発しても、余計な音が混じってしまっては良い録音物にはなりません。雑音は極力ゼロに近づけたいです。とは言っても雑音にもいろいろ種類があります。

  • 音源が発する音
  • 環境音
  • 録音機器が発する音
  • 録音機器に乗っかる電気的・電磁的ノイズ
以下、詳しく説明していきます。

音源が発する音

朗読の場合、音源は朗読者です。その朗読者が出す音というと、強い息を発してマイクに当ててしまうポップ音、発語する時に口から「ネチャ」「ピチャ」っと出るリップノイズ、原稿をめくるときのペーパーノイズブレス音衣服が擦れる音腹が鳴る音などです。

これらを防ぐ方法は基本的には「気を付ける」です。しかし厄介なものもあります。息が原因のものはほとんど癖ですから、違った種類の息遣いが出来るように訓練が必要でしょう。まあ、ポップガード付けてもポップ音が出るようだとかなり重症ですが。
また、リップノイズも意識してもなかなか防げません。私も苦労しています。録った後で一個一個消したりもします。その場での対策としては口中がネバ着くような飲食物を避け、出ちゃったらやり直すぐらいしかないでしょうが、長期的にはノイズが出にくい発語をマスターすべきでしょう。

環境音

音源以外が発する音です。以下、個別に述べます。

エアコン

これは録音時にエアコンを止めるしかありません。真夏などは、録音停止したらガァーっと冷やして、録音ボタン押す直前に止める、の繰り返しになりますね。

冷蔵庫

コンプレッサー(エフェクターのではありません。念のため)が作動している時にブーンという音がします。機種や距離によっては無視できない雑音になります。電源を切るわけにもいきませんから、音がし始めたらあきらめて録音を停止するしかないでしょうか。

時計

カチカチ音がするアナログ時計は別の部屋や布団の中に閉じ込めましょう。

外部の音

自動車、電車、飛行機、犬、靴音、など一時的なものは消えるまで待つしかありません。
隣人が頻繁に音を発している場合は、出かける時間帯を把握してその時間帯をねらうか、「うるせぇ!」と怒鳴り込むか、にっこり笑ってお願いするか、さもなくば引っ越すしかありません。

録音機器が発する音

自宅録音ですと録音機器というのはパソコンでしょうか。機種によってはファンやハードディスクの回転音が無視できないほどに聞こえます。デスクトップよりはノートの方が断然いいです。私の場合はデスクトップPCのノイズが致命的だったので録音時はPCを使わずに一旦デジタルレコーダーに録音するようにしました。このあたりのノイズはマイクの性能によってかなり違います。コンデンサーマイクだとファンの音はかなり真面目に拾ってくれます。

機器が発するといえば、操作音も見逃せ聞き逃せません。録音開始あるいは停止時のマウスクリックやキー押下の音は録音ソフトの仕組みによっては入ってしまう場合があります。これは後から消すしかないですね。

録音機器に乗っかる電気的・電磁的ノイズ

電源にノイズが乗っていたり、アナログ回路がPCの何らかの信号の影響を受けたり、遠くにある思いもよらぬ機器の電磁波がマイクの回線に乗ったり、いろいろなことが起こり得るらしいです。詳しくは分かりませんが。電源ノイズの場合は、フィルター付きのテーブルタップから供給するとか、ケーブルにフェライト・コアを付けるとか。フェライト・コアはマイクケーブルにも有効です。PC内部で拾わないようにするにはオーディオインターフェイスでデジタル化して入力すれば大丈夫。

雑音を相対的に軽減する

雑音というのはこちらの都合に関係なく決まったの音量でマイクに向かってきます。それに対し、録りたい音声の音量はある程度は調整できます。つまり、音声をより大きな音で拾ってやるほど、雑音のレベルは相対的に低くなります。マイクとの距離は近い方がいい、声量は多い方がいい、ということです。ただし、音質や表現の質が変わってきますから難しいところではあります。

また、マイクの向きも影響します。マイクには指向性がありますから、雑音源と反対方向にマイクを向けるだけで軽減できます。

まとめ

自宅録音では、自分の都合ではどうにもならない要因が多く、雑音源が去るのを期待するしかない場合が多いのです。手軽に済まそうとすれば仕方のないことなのかも知れません。ただ、雑音には敏感であって欲しいです。雑音の多い録音物の一番の原因は、録音した人の無頓着かも知れません。

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