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ユニバーサルサービス関連ビジネスの事例:NTC企業組合

ここでは、ユニバーサルサービス関連ビジネスを行っている事例を取り上げ、具体的にそのビジネスモデル、実績、課題などを紹介する。
障害によって電気通信サービスの利用が困難であることがある。障害に関わらず、あらゆる人が利用できるように、読み上げ機能を有した携帯電話など機器側での対応も行われている。一方、広く普及し、社会インフラの1つとなっている一般電話は、聴覚障害者が利用できないため、電話注文や宅配便での配達時間確認等の際に困っている状況がある。こうした聴覚障害及び言語障害をもった人が、電話を利用するためにオペレータが通訳するサービスが「電話リレーサービス」である。NTC企業組合※4 は、この電話リレーサービスの事業に取り組んでいる。

電話リレーサービスのイメージ

資料:NTC企業組合資料

1.ビジネス立ち上げの背景・経緯

NTC企業組合の設立者は、小さな頃からろうあの両親の手話通訳をしていた。両親は通訳者がいないと外出しないことが多かった。子どもの頃は、通訳機能を備えた機器ができると漠然と考えていたが、なかなか実現しないことから、同社を自ら設立し、通訳のコールセンター事業と電話リレーサービスを始めた。

企業組合は知事認可の法人であり、電話リレーという福祉に関わる事業活動をするうえで、株式会社やNPOにするよりも適しているとの判断がされた。同社設立後、電話リレーサービスに必要なソフトウェア開発やコンテンツ開発を行う株式会社ルークス(Loux)を設立している。システム開発及び営業をルークスが行い、コールセンター運営をNTC企業組合が担当している。

NTC企業組合の概要

社 名

NTC企業組合

設 立

平成17年4月4日

資本金

410万円

代表理事

高橋 笑利

所在地

〒990-2473
 山形県山形市松栄一丁目3番8号 201号室

事業内容

・テレビ電話手話・外国語通訳サービス
・テレビ電話リレーサービス「ドコシュワ」
・福祉機器購入サポート
・通訳、翻訳業務
・ICTバリアフリーシステムソフトウェア企画・開発

2.ビジネス概要と実績

(1)ビデオリレーサービス及び手話通訳サービス事業

NTC企業組合はコールセンターを運営し、テレビ電話を利用した手話・外国語(英語・中国語・韓国語)の通訳サービスを提供している。
NTC企業組合が提供している聴覚障害者を対象とするサービスには、ビデオリレーサービス(電話リレーサービス)と手話通訳サービスの2つがある。

<ビデオリレーサービス>
固定型のテレビ電話もしくは携帯電話のテレビ電話機能を利用して、聴覚障害者からコールセンターを呼び出し、オペレータに用件を伝え、オペレータは用件を依頼先に伝えるサービス「ドコシュワ伝言リレーサービス」である。
サービス利用料は無料。利用者からコールセンターにかかってくる通話料は、IP電話同士の通話になるので無料だが、コールセンターから依頼先の通話料は同社が負担している。

ビデオリレーサービスのイメージ

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資料:株式会社ルークス資料
http://www.loux.co.jp/service/docoshuwa.html

<手話通訳サービス>
NTTのテレビ電話サービスを利用して、聴覚障害者が店舗やホテル、公共機関、企業の窓口などに設置されたテレビ電話からコールセンターを呼び出し、利用者、受付者、通訳者の3者が同じ画面を見て通訳するサービスである。案内所等に通訳システム専用テレビ電話(128,000円)を設置する。料金は月額定額制で、テレビ電話を設置する施設から利用料を得るビジネスモデルとなっている。これまでに、行政機関(山形市役所、寒河江市役所)、調剤薬局、銀行、スーパー、ホテルに設置された例がある。

手話通訳サービスのイメージ

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資料:株式会社ルークス資料
http://www.loux.co.jp/service/index.html

手話通訳サービス料金プラン(月額、定額制)
 

9時〜22時内
8時間コース料金

9時〜22時内
フルタイムコース料金

手話

26,250円

36,750円

手話及び外国語(英語、韓国語、中国語)

57,750円

89,250円

資料:株式会社ルークス資料

ビデオリレーサービス及び手話通訳サービスの提供時間は毎日9時〜22時であり、365日サービス提供している。

ビデオリレーサービスでは障害者である利用者からは利用料をとらず、手話通訳サービス等の他事業での収益で賄うという、受益者負担にならないビジネスモデルをとっている。現在のところビデオリレーサービスの事業費として十分な収益をあげられていないのが現状である。

ビデオリレーサービスの登録ユーザーは約200世帯。利用者は山形県が中心であるが、他県にも利用者はひろがっている。ビデオリレーサービスは、平成19年2月〜9月までの8ヶ月で約2千件の利用があった。通話内容では、公共機関への問合せ、タクシーなどのサービス申込・予約、小売宅配(出前)、通信関係(携帯電話やインターネットプロバイダの契約・解約等)などが多い。

(2)手話をテーマとする携帯コンテンツ事業

携帯電話の公式サイトとして全国で初めての、手話典『Shuwaten!』(手話の辞典)という携帯コンテンツを配信している。

3000語以上の手話単語の動画を収録した手話単語辞典「手話典」、手話読み取り力が身に付く「手話検定トレーニング」、指文字ひらがな〜アルファベットまで検索できる「指文字辞典」、手話の歴史などを学べる「手話豆知識」、赤ちゃんとコミュニケーションができる「ベビーサイン」など、手話に関する情報を提供するサイトである。ホテルマンなど聴覚障害者に接する人が手話を学ぶための手話映像マニュアルも配信している。

他の携帯コンテンツと同様有料課金(月額315円)である。ドコモ、au、ソフトバンク、ウィルコムに対応している。

3.課題ほか

ビデオリレーサービスでは障害者から利用料を徴収することはしていない。掛け先になるところがサービス業や一般企業等が大部分であることから、利用者負担のビジネスモデルは厳しい。例えば、出前や通信販売の注文等でリレーサービスを利用した場合、1回の注文でリレーサービス利用料がプラスされる事は考えにくい。なお、緊急通報においても同じことが言え、障害者の負担にはならないビジネスモデルの構築が事業継続に不可欠である。ただ、利用者が限られているため、広告モデルのビジネスはなじみにくい。聴覚障害者の機器購入、やビデオリレーサービス事業に対しての行政からの補助、助成をベースとして事業運営を成り立たせている状況があるため、通年、さらには24時間通してのサービス提供が厳しくなっている。

また、ISP間、携帯電話キャリア間で電話リレーサービスを相互接続できないことが、本サービスの普及を妨げている。

サービスの多様化を進めるため、平成19年度の情報通信研究機構の助成を受け、携帯電話によるテキストリレーサービス(MMRS・モバイルメッセージリレーシステム)の開発に着手した。10名のモニターを対象に試験を重ねている。

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※4 企業組合は個人(4人以上)が組合員となって資本と労働を持ち寄り、働く場を創造するための組織。会社と同じように法人格を有する組織で、個人が集まって創業するためのものである。株式会社、有限会社と異なり出資額に特別な決まりはない。ただし、出資者の1/2以上は企業組合の仕事に従事し、従業員の1/3以上は出資者でなければならない。また、企業組合の設立に当たっては、都道府県知事の設立認可を受ける必要がある。
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