牛の生レバー(肝臓)の規制を検討している厚生労働省薬事・食品衛生審議会の部会は30日、「現時点では生レバーを安全に食べる対策は見いだせていない」として、飲食店などでの提供を禁じるべきだとの意見をまとめた。内閣府食品安全委員会への諮問・答申などを経て正式決定するが、厚労省は食中毒の危険性が高まる夏までに食品衛生法に規格基準を設け、生食を禁止する方針。
厚労省は富山県などで昨春発生した焼き肉店の集団食中毒事件を受け、ユッケなど生食用牛肉(内臓を除く)の衛生基準を昨年10月に厳格化。さらに98~10年までに116件(患者数785人)の食中毒が報告された牛の生レバーについても規制を検討するため実態調査を行った。
その結果、重い食中毒を起こす恐れのある病原性大腸菌O157が牛の肝臓内部から初めて確認された。生レバーによるO157の食中毒はこれまでもあったが、腸管にいた菌が食肉処理の過程で表面に付着したと考えられていた。
部会では食肉業界から「食の好みは個人の自由」「どうすれば衛生的に食べられるかという視点で議論してほしい」などの意見も出ていたが、「現時点では加熱殺菌以外に安全性を確保できない」との結論に至った。
厚労省によると、違反者には2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科せられることもあるという。【佐々木洋】
「衛生面には気をつけてきたが、国に禁止されたら従うしかない」。東京都台東区東上野で約60年営業している老舗焼き肉店の男性店主(45)が嘆く。
同店では、厚生労働省が飲食店に牛の生レバーの提供自粛を要請した昨年7月以降も「人気が高い」とレバ刺しをメニューに残した。最近は提供する店が少ないため「レバ刺しが食べられると聞いたが本当か」と問い合わせを受けるという。店主は「子供とお年寄りには出さず、食中毒に気をつけてきた。ユッケは昨年から中止。もう生肉は出さないだろう」と残念がる。
「人気メニュー、レバ刺しあります!」。同区内の別の焼き肉店では店の入り口にビラを張って客寄せしている。女性店主は「色や粘りを見れば、肉の傷み具合は分かる。まじめにやっている店まで規制されるのは納得がいかない」と憤る。常連客の多くがレバ刺しを注文し、欠かせない人気商品という。女性は「禁止されても、店と客の自己責任で提供したい」と声を潜める。
一方、全国消費者団体連絡会の阿南久事務局長は「国の提供自粛要請後も生レバーの食中毒が4件報告されているのは見過ごせない」と禁止に賛成する。焼き肉料理の歴史をたどった「日本焼肉物語」の著書がある宮塚利雄・山梨学院大教授は「塩とごま油をつけて食べるレバ刺しの食感は最高だが、食の安全の観点から規制はやむを得ない」と話した。【佐々木洋】
毎日新聞 2012年3月31日 東京朝刊
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