生活習慣病などから慢性腎臓病(CKD)となる人が増えている。一度失われた腎機能は元に戻らないため、CKDにならないよう食事などの生活習慣を見直すことは非常に重要だ。先月浅草公会堂で開催された第78回日経健康セミナー21「気をつけよう!生活習慣病が引き起こす慢性腎臓病(CKD)2012 ~腎臓を護ることは命を守ることです~」(主催:日本経済新聞社、協賛:日本腎臓財団、協力:中外製薬)には多数の受講者が詰めかけ、CKDへの社会的関心の高まりがうかがえた。
腎臓は加齢により衰える臓器です。長寿社会が進むほど、腎障害や腎機能の低下により慢性腎臓病(CKD)の患者が増える傾向にあります。そのまま放置すると腎不全になり、透析療法や腎移植が必要になる場合があります。現在、日本で透析療法を受けている患者さんは約30万人で日本人の400人に1人の計算となり、世界第1位です。また、毎年3万人超が新たに透析を開始しており、70歳以上の高齢者を中心にその数は年々増加しています。
腎臓は、主に「糸球体」と呼ばれる部分で老廃物のろ過を担っています。そして糸球体に連なる「尿細管」で尿を生成し、体外に排出しています。糸球体および尿細管は1つの腎臓に約100万個あり、一度機能が損なわれると二度と修復できません。腎臓は静かな臓器ともいわれ、何も自覚症状を感じないまま悪化していくのが特徴です。
CKDの早期発見には、高血圧や頻尿、尿たんぱくなど、腎臓が出すシグナルを逃さずキャッチすることが大切です。血圧が高く、尿たんぱくが出ている状態は、息絶え絶えで今にも倒れ込みそうなマラソン選手と同じです。あるデータでは、尿たんぱくが「3+」の数値だった人の約2割、「2+」の人の約1割が20年後に透析療法に移行しているといいます。
最近では血液のクレアチニンの値から算出される推算糸球体ろ過量(eGFR)によって、腎機能をチェックできます。数値が低ければ低いほど事態は深刻です。60未満では腎臓の働きが6割以下に落ちていると考えられ、日本全国では約1000万人以上いるといわれています。医師に確認して、ご自分のeGFRの値を把握しておきたいものです。
弱った腎臓を鍛える方法はないため、できるだけ休ませるしかありません。有効な手段は減塩など日々の食事に気を付けること、そして薬の服用などによる血圧コントロールです。また、なるべく風邪やインフルエンザなどにかからないように注意して、悪化の原因を少しでも減らすことも大切です。質のいい生活を送り、腎臓を守ってほしいと思います。
それでも腎臓が衰えていくと、いずれは透析療法、または腎移植という治療を受けることになりますが、日本の透析医療は極めて高い水準を誇っています。また、腎臓が2つある理由は、そのほうが血圧の上昇を抑えつつ効率的に血液をろ過できるためですが、親族や腎臓提供者から提供を受けて腎移植を選ぶことも可能です。ご自身の望む医療を選び、前向きに治療に臨んでほしいと願っています。
腎臓は腰骨を挟んで左右に1つずつあり、そら豆のような形をしています。「サイレント・キラー(静かな殺し屋)」ともいわれ、障害を受けてもなかなか自覚症状が出にくい臓器です。年々増加しているCKDは発見や治療が遅れやすく、そのままにしておくと腎臓の機能が悪化するだけでなく、心臓病や脳卒中を引き起こす可能性も非常に高くなります。
CKDの予防と治療には、生活習慣の改善と継続が必要です。(1)禁煙はもちろんのこと、(2)週2、3回の定期的な運動を心掛けて肥満を改善し、BMI値を25未満にすること、(3)1日6グラム未満の塩分摂取量を心がけること、(4)糖分や動物性脂肪の摂取はできるだけ控えること、(5)服薬が必要な場合はきちんと飲み続けることも大切です。これらは簡単なようで、習慣化させることが非常に難しいものです。特に食事は濃い味に慣れやすく、日本人男性の塩分の標準摂取量は推奨量の2倍近くに上ります。
また、2010年の国民健康栄養調査によると、高血圧や糖尿病と診断された人のうち治療を継続しているのは6割前後、高コレステロールの人は約4割に過ぎないというデータもあります。しかし悪(あ)しき習慣も良き習慣も、同じくらい簡単に作れるといわれます。腎臓と末永く付き合うためにも、まずは最も大事な食習慣から改善してほしいと思います。
腎臓といえば「おしっこ」。尿をよく観察することが腎臓の異常の早期発見・治療につながります。尿にたんぱくが出ると尿が泡立ち、尿糖が出ると甘い、または甘酸っぱい匂いがします。細菌感染の場合は尿が濁り、腎臓が炎症を受けて出血している場合はコーラ色の黒っぽい尿が出ます。最近は洋式便器が一般的になり、洗浄剤の普及もあって尿の色や量を観察する機会が減っています。できれば尿を採取するコップなどを用意して、時々じっくり観察してほしいですね。1日の排尿の平均回数は5~7回、量は約1~2リットルほどです。いつもと違うと感じた場合には、腎臓病専門の医療機関を受診することが大切です。
腎臓病の専門医は全国に3300人ほどです。専門医が多い地域ではCKDの早期発見により、進行を遅らせることができるというデータがあります。しかし医師の数が限られること、またCKDは初期の自覚症状がないことから、やはり皆さん一人ひとりの注意が大切です。皆さんもぜひ身近な人にCKDの重要性を伝えて、一人でも多くの人の予防と早期発見、治療につなげていただきたいと願っています。