2012年1月21日03時00分
国内最大の化粧品口コミサイト「@cosme(アット・コスメ)」への口コミ投稿者を、情報提供サービス会社ナビット(東京都千代田区)が報酬付きで募り、指定した商品に高い評価点をつけるようマニュアルで指示していたことがわかった。ナビットは「やらせには当たらない」としている。
舞台となった@cosmeは、化粧品を使った人が感想を投稿し、「おすすめ度」を最高7点で評価する仕組み。点数が高い商品ほどランクが上昇する。運営会社アイスタイル(東京都港区)によると、月間500万人が利用している。
ナビットが投稿者として応募した人に送付している「化粧品書込(かきこ)みマニュアル」によると、投稿者にはまず化粧品のサンプルが送られ、投稿してほしい日がメールで伝えられる。
おすすめ度は7〜5点に限定し、「2度と使わないなどというようなネガティブ(否定的)な感想は記入しないで」と指示。「私の肌にはとっても合う」「早速購入して、しっかり使ってケアしたい」といった書き込み例も掲載する一方、「仕事の内容は、他の方にはお話をしたり、ブログに内容を書き込んだりしないように」と求めていた。
ナビットは投稿1件につき250円相当のポイントを報酬として支払うと説明。投稿者がポイント還元を希望すれば、振込手数料を引いた現金が振り込まれる仕組みになっていた。
ナビットが口コミ投稿者を募った美容液は都内のメーカーの商品。メーカーは朝日新聞の取材に対し、口コミでのPRをナビットに依頼したことを認めたが、「詳しい内容は秘密保持のため言えない」とした。
ナビットは1997年創業で、東京都心部の鉄道駅の乗り換えマップを作ったことで知られる。同社管理部によると、口コミサイトへの投稿者募集は数年前に始め、@cosme以外のサイトも投稿の対象にしているという。担当者は取材に対し、「やらせにならない手法をとっているが、詳細は顧客企業との契約上の守秘義務があって答えられない」とした。
応募した西日本の女性によると、美容液のサンプルが小袋で送られてきた。通常は30ミリリットル瓶で5千円弱の商品という。女性は「サンプルをもらって口コミを投稿したことは今までもあったが、評価まで指定されたり、否定的な発言を禁じられたりしたことはなかった」と言い、「やらせに自分がかかわっていいのか不安だ」と話す。
@cosmeは、サイト上に掲げた運営方針で、メーカー関係者が作為的に投稿を促すような行為を禁止している。ただ、アイスタイルの広報担当者は「(ナビットの行為を)詳しく把握しておらず、良い悪いは判断できない」と話す。
消費者庁表示対策課は「輸入牛を国産牛と偽るなど、明らかに消費者を誤認させるような口コミなら景品表示法が禁じる不当表示になるが、今回のケースは、おすすめ度の点差が商品をどれだけ優良と誤認させるかわからない。個別の判断が必要だ」としている。(川田惇史)
■投稿集中 ランクアップ
ナビットが投稿者を募っていた都内のメーカーの美容液は2010年7月に発売された。@cosmeへの口コミ投稿は翌月から始まり、今月18日までに計233件あった。
投稿数をみると、10年12月〜11年3月と11年10月以降の二つの時期に投稿が集中している。10年11月には投稿は0件だったが、翌月は21件に増えた。11年4月には月1けた台になり9月まで続いたが、10〜12月には94件が集中していた。
評価も上がり、11年11月初旬には美容液部門の30位台後半だったのが、今月初めには10位台前半に上昇した。
11年10月以降に投稿した人の8割弱は「サンプル品を使った」としていた。サンプルを使用したとして同年12月に投稿した30代の女性は「(使った)翌日もしっとりした肌がうれしくて、化粧のりも良い気がします」と6点の評価。同じく6点と評価した20代の女性は「サンプル使用でしたが、現品を買う価値ありです!」と書き込んでいた。
■「明らかにやらせ」
広告会社やネット企業など口コミサイトの関係者でつくるWOMマーケティング協議会理事長の浜田逸郎・江戸川大教授(ネットマーケティング論)は「実際に商品を送って使わせているとはいえ、金を払って好意的な投稿をさせており、明らかにやらせだ」と指摘する。
同協議会は業界の健全成長を目指して2009年に発足。10年に公表したガイドラインでは、基本理念として「口コミは自発的なもの。金銭で生み出されない。誰からも強要されず、発信者の自由意思が尊重される」とした。
浜田さんは「組織的な口コミ投稿は許されない。投稿者も、もし他者の依頼で書き込むのなら、そのことを明示すべきだ」と指摘。ナビットやメーカー側の姿勢について「悪いことをしているとの意識はないのだろう。口コミサイトなどのソーシャルメディアを『しょせんこんなもの』と甘く見ている」と批判する。「金銭が介在するやらせの口コミが良くないことだという社会的な認識が高まってほしい」と話す。