「児玉博の「見えざる構図」」

政界フィクサーと検察人事

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2008年12月26日(金)

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 「東京地検特捜部は21日、政界や電力業界などに幅広い人脈を持ち、フィクサーともいわれる都内の元会社役員が経営に関与していた会社数社を外国為替及び外国貿易法(外為法)違反の疑いで捜索した」

 西松建設元役員による業務上横領に絡む裏金疑惑で朝日新聞朝刊がこう伝えたのは11月22日のことだった。匿名ながら「フィクサー」と形容された人物の名は白川司郎。一般にはほとんど知られてはいないが永田町では知らぬ者がいないといわれる人物である。

 2年前にも白川は朝日新聞に登場している。やはりその時も「政財界、電力業界などに幅広い人脈を持つフィクサー」と表現されていた。

 2年前といえば、政界への波及は必至といわれた中堅ゼネコン「水谷建設」の脱税事件が山場に差し掛かろうとしていた時であった。

 当時、特捜部は、
(1)福島県知事ルート
(2)福島第二原発ルート
(3)元三重県知事ルート

 など複数の捜査対象を捜査、そのために全国から応援検事を呼び集め特捜部の総力をあげての捜査に着手していた。

 その中でも福島第二原発にまつわる疑惑は“脈あり”とされていたルートであった。疑惑は原発の取水口の土砂運搬工事を巡るものだった。工事を受注したのは前田建設工業。その下請けが水谷建設。その水谷建設は十数社に孫受けさせ、そのうちの1社が白川が実質的にオーナーを務めていた会社だったのである。

 しかも、水谷建設からリベートと認定された金額だけでも2億4000万円が支払われているのだから特捜部ならずともその理由に関心が向けられるのは当然であった。

 白川はどのようにして朝日新聞が表現するところの「フィクサー」となったのだろうか。

 小柄ながらがっちりとした体型。伸ばしたもみ上げに、大きな声で話す白川はそれだけでも特徴的な男だ。大学卒業後、日立製作所からサラリーマン生活を始めた白川だったが、およそ3年で退職、自ら「九十九産業」を興したのは26歳の時だった。

 白川が電力業界へ食い込むきっかけとなったのは40歳の時に設立した「日本安全保障警備」であった。青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設の警備を目的に作られた会社であった。

 これと並行するように政界への足がかりもつかむ。契機となったのは警察官僚から政界へ転進した亀井静香であった。亀井と白川の実兄とは東大同期生。徒手空拳で政界に進出した亀井を白川の実兄は支え、また弟司郎も実業界の1人として金銭面で全面的に支援をした。こうして白川と亀井との密接な関係が紡がれていった。

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著者プロフィール

児玉 博(こだま・ひろし)

ノンフィクションライター。1959年生まれ。主な著書に『降臨―楽天・三木谷浩史の真実』『幻想曲 孫正義とソフトバンクの過去・今・未来』(共に日経BP社刊)などがある。



このコラムについて

児玉博の「見えざる構図」

ニュースの背後では何が起きているのか。事件の裏側には必ず錯綜する人脈、金脈などが存在する。このコラムでは日本を揺るがすニュースについて、気鋭のノンフィクションライターが、その「見えざる構図」を明らかにする。

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