川口マーン惠美「シュトゥットガルト通信」

日本の学生にこれから日本を世界で発展させていくために必要な能力が培われていないのは、就職活動の在り方のせい?
インターン経験が物を言うドイツ

2012年03月30日(金) 川口マーン惠美
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大学生も皆、インターンという名の修行に励んでいる〔PHOTO〕gettyimages

 長女がまたインターン(職業実習)を始めた。これで5度目だ。今回は渋谷にあるドイツ企業で半年間。学生としての籍はベルリン自由大学に置いてある。

 つまり、もう24歳なのに、まだ大学の学士課程さえ卒業していない。いい加減にしてほしいと思うが、彼女の友達を見渡しても、男も女もまだ一人として就職している人間はいない。ドイツの大学生の平均年齢はどんどん上がる一方で、この子たちがお金を稼いでくれるのは、いったいいつのことだろうかとうんざりだ。

 しかし、文句を言いかける私に向かって長女は、「ママ、ちゃんとしたインターンをいくつか経験していないと、今どき、どこにも就職はできないのよ」と断固たる口調。「理系は学生が足りないから売り手市場だけど、日本学なんて勉強した人は、とてもヤバいの」だそうだ。そう言われてみれば、源氏物語など読めても、たしかにあまり就職の役には立ちそうにはない。

 ただ、この調子だと、結婚年齢は上がり、出産年齢も上がる(結婚も出産も、万が一すればの話だが)。ドイツでは、これから順次、年金支給年齢が67歳に引き上げられるが、働き始めるのがどんどん遅くなるなら、せめて67歳まで働かないと、年金を支払う人がいなくなるだろう。

 日本の企業は、企業のカラーに染めやすいよう、なるべく白紙の、いろいろな意味で未経験の若者を取りたがると聞いた。それに比べてドイツの企業は、社会的能力があり、即戦力になる人間を求めている。

 つまり、「私はこんなことが出来る」と言えなければ、就職は難しい。元々ドイツの職人の世界には、徒弟制度という修行の伝統がある。それが今では他の職種にも拡大し、大学生も皆、インターンという名の修行に励んでいるわけだ。そして、最終的に、そのインターン経験に物を言わせて就職先を探す。

 つまり、良い企業に就職しようと思っている学生が、良い企業でなるべく多くインターン経験を積もうと励むのは、道理に適っている。インターン先で書いてもらった査定内容は信ぴょう性が高く、重視される。

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