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キャンパる:インタビュー・会いたい人 立命館大4年・楠木早紀さん

=明治大・田中周菜撮影
=明治大・田中周菜撮影

 ◇「札」にささげた大学生活--競技かるた8年連続クイーン、立命館大4年・楠木早紀さん(22)

 「難波津に咲くやこの花冬ごもり今は春べと咲くやこの花」

 競技開始の合図であるこの序歌が詠まれると、畳上の競技かるたの舞台は、平安時代と時を同じにする。8年連続女子最高位クイーンの座を守り続ける一人の若き女性、楠木早紀さん。彼女はどんな女性なのか、京都まで会いに行った。【文教大・清水祐希】

 「競技かるた」とは、小倉百人一首を25枚ずつ自陣と敵陣に並べ、計50枚の札を取り合う競技。2人で対戦するこの競技は多く札を取った者が勝者ではなく、先に自陣の札25枚を無くすと勝ちとなる。1試合約90分、大会では1日7試合にもおよぶこともある。そんな普段の大会では個人戦、団体戦共に男女が関係なく対戦する。だが1月に行われる名人戦・クイーン戦は男女別で戦う。

 その女性日本一である楠木さんがかるたを始めたのは、小3の時に習い事の一つとして、いとこと共に地元大分県のかるた教室に通い始めたのがきっかけ。競技では上の句が詠まれ、下の句が書かれた札を取るので、まず100枚すべての札を覚えなければならない。

 無謀といわれながらも札を覚え、1カ月後の大分県大会決勝戦で2人は対戦し、なんと楠木さんが優勝。「勝負強さがあるのかもと、その後父と強い人の取りを研究しました」。そして中3の時に、女性最高位であるクイーン位を手に入れた。それから8年間、彼女はその地位を守り続けている。

 順調な階段を上っているかに見える楠木さんは、やはりと思わせるほどの努力家だった。立命館大学産業社会学部に在学する彼女の年間プランは「クイーン戦」が最優先。そのため、1、2年生の時間割は、水曜日と金曜日に1限から6限まで授業を詰め込む。

 「時間の許す限り」と作った時間割は、少しの余裕も許さない過酷なものになった。「テスト期間中は後悔するんです」と言った後の驚きの事実。それは「暗記が大得意」なこと。競技前に15分間の札の暗記時間があり、それを5分で覚えるという彼女。「試験中もノートのこのあたりに書いてあった」と記憶から引っ張り出し書くのだとか。

 また火曜日と木曜日は、夕方から夜10時まで立命館大学かるた会で練習を行う。ただここでは主将という立場上、どうしても自分よりチームの練習に時間を充てる。特にクイーン戦前は、自分の練習時間が少ないと感じると、大学の練習後自宅に帰り、一人で黙々と札を払う。「気づくと夜中の3時なんてことはざらですね」と笑う。家では簡易式の畳の下に防音マットを敷いて練習するが、下の住人に怒られることも。それでも住人がいないことを確認すると札を払っていたという。

 そして、クイーン戦が近づく12月は、一人で練習できる場所を借りて納得いくまでやり続ける。本番を想定してはかまを着用し、三脚を立てビデオカメラを四方に置き、動作一つずつをストイックにチェックする。「ほんまに卒業する今だから言える話なんですけど」と話す内容はどれも、クイーン位を守り続けてきた重みのあるものばかりだった。

 ◇大学院進学、競技継続に悩む

 クイーン位戦の調整が欠かせない夏の時期。この季節は毎年大きな大会が関東、関西で開催される。しかし4年生の楠木さんは昨年、小学校教員採用試験の勉強に追われていた。一日中勉強し、十分な練習をせずに大会へ。そしてその場が練習となり帰りも勉強の日々。「去年の夏ほど勉強との両立が難しいと感じた年はなかった」と語る。

 そんなこんなで迎えた今年の第56期クイーン位決定戦。相手は同じ立命館大の後輩。初めての年下の挑戦者だった。普段から同じ場で練習をしているが、戦いの場はクイーン戦でと直接は対戦してこなかった。「彼女に勝たせたいけどまだ足りない部分もあるのではと、内心複雑でした」と当時を振り返る。

 現在競技かるたは、囲碁や将棋とは違いプロの道がない。彼女はこれまで大学4年間でかるたを完結させたいと考えてきた。だがこの春、立命館大学を卒業後、福岡県の教職大学院へ進学する。残りの大学院生活2年間、競技者を続けるか否かまだ悩んでいる。今後彼女がどういった選択をするのか、直接会った記者としては静かに見守りたい。

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 ■人物略歴

 ◇くすのき・さき

 大分県出身。立命館大学産業社会学部現代社会学科子ども社会専攻4年生。クイーン戦史上最長の16戦無敗を記録し、史上最年少永世クイーンの称号を得た。現在8連覇。

毎日新聞 2012年3月30日 東京夕刊

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