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(2)「美しい日本」学ぶ場に安倍 晋三 元首相2006年の教育基本法改正が契機となり、08年3月に中学校の武道必修化が決まった。同法の見直しを主導した自民党衆院議員の安倍晋三・元首相(57)は読売新聞のインタビューに、「法改正は伝統と文化を尊び、日本人としてのアイデンティティー(同一性、独自性)を備えた国民を育成することが目的で、私の悲願でもあった」と振り返り、「この理念を象徴する教育施策が武道の必修化だ」と力を込めた。 ――武道から学ぶものは。 武道は、一般のスポーツとは異なり、勝敗だけでない「道」がある。東京五輪(1964年)柔道無差別級金メダリストのオランダのへーシンク選手は、優勝を決めた瞬間も相手への敬意や礼を重んじ、喜びの余り駆け寄ろうとした自国関係者を制した。ロス五輪(84年)柔道同級の銀メダリストでエジプトのラシュワン選手は決勝で、山下泰裕選手の負傷した右足を攻めなかった。 立ち居振る舞いや礼儀作法、人との接し方など、武道は人格形成にも寄与する。感受性豊かな中学生にこそ、学んでほしい日本の心だ。 ――礼節の習得といった効果に期待が集まる反面、事故の発生を危惧する声もある。 戦いにルーツを持つ武道には、危険を伴う一面はある。ただ、危険だからやらせないというのではなく、相手や自分自身が傷つくかもしれない危険と向き合う中で、心身を鍛え、相手を気遣い、重んじる心構えを学ばせるべきではないか。 もちろん、実際には危険を伴う指導は避けなければいけない。授業で教える武道は勝敗や強くなることが目的ではない。 ――安全対策が不十分で、必修化は時期尚早との指摘もある。 必修化の方向性が示されてから5年。文部科学省や教育委員会には十分な準備期間があったはず。今になって安全対策が間に合わないという議論になることに、疑問を感じる。文科省と教育委員会、現場は責任を押しつけ合うのでなく、それぞれが課題解決の当事者意識を強く持ってほしい。 教育現場では、外部から人材を入れることに抵抗感を示す傾向もあるが、武道を指導できる教員を急いで養成するより、経験豊富な外部講師の確保に全力を挙げるべきだ。今からでも十分に間に合う。 ――子どもたちに伝えたいことは。 私は高校時代に授業で柔道を習った。先生は、やせっぽちで運動もそれほど得意でなかった私のような生徒にも、柔道の魅力と理念を丁寧に教えてくれた。競技や技自体の上達でなく、武道の魅力や意義に触れ、祖の時代から続く文化を受け継ぐ機会にしてほしい。 残心 あべ・しんぞう 1954年生まれ。93年に衆院議員に初当選、山口4区、6期目。自民党幹事長、内閣官房長官などを経て2006年9月、戦後最年少の52歳で第90代内閣総理大臣に就任した。「美しい日本」をスローガンにした自身の内閣では「教育再生」を最重要課題の一つに掲げ、教育の憲法と言われる教育基本法の見直しを主導。同年12月、59年ぶりに改正された同法には「道徳心」「国や郷土を愛する心」などが柱として明記されている。 (2012年3月2日 読売新聞)
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