編集局 整理部 大越優樹 2009年入社 工学系研究科修了

信念を胸に 後世に誇れる紙面を作る

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「アタマ(トップ記事)変えだっ!」。デスクの指示が飛んだ。2010年4月10日深夜。「タイ政府、デモ隊を強制排除」「双方が衝突、けが人多数の模様」。刻々と入ってくる最新の情報。そして「日本人カメラマンが死亡した」というニュースが飛び込んできた。私に残された時間は1時間。その間に、いったん仕上げた紙面を一から作り変えなければならない。
整理部の記者はニュースの重要性を判断し、的確な見出しをつけながら、読みやすくレイアウトし紙面を作り上げるのが仕事だ。この作業を1日に数回繰り返す。新聞は毎日、決まった時間に読者に届かなくてはいけないため、配達に時間がかかる地域には早く新聞を送り出す必要がある。だから配布する地域に応じて時間を設定し、最新のニュースを盛り込みながら紙面を作り直していく。
タイの反政府デモはこの日の夕方時点では、大きな進展がないというのが現地からの情報だったため、早い版では小さく扱っていた。しかし、突然起こった日本人カメラマンの死亡。ニュースの重要度は一気に高くなり、最終版で国際面のトップ記事にすることにした。一番大きな記事の見出しは特に高い精度が求められる。もちろんそれ以外の記事も全部、編集し直しだ。冷や汗が出る。「ん〜、的確な見出しがつかない」「臨場感のある紙面にするには…」。まさに時間との戦いだ。それでも何とか締め切り時間内に仕上げることができた。「よしOK」。さっきまでカリカリしていた整理部デスクが認めてくれた。国際部のデスクも「お疲れさんでした」と言ってくれた。こんな日は、仕事が終わった後の達成感は格別だ。
誰がどの紙面を担当するかは前もって決まっている。だから私のような入社3年目の若手でも、この日のような大きなニュースを担当することもある。仕事中は必死だし、デスクや先輩から怒鳴られたりもするが、日経新聞のうちの丸々1ページの編集を任されている醍醐味は何物にもかえがたい。しかも見出しは紙面の中で最初に読まれるものだ。良い原稿でも見出しが分かりにくければ、読んでもらえなくなってしまうので責任は重大だ。同じ国際面でも若手が作る日も先輩が作る日もあるが、読者からすれば誰が作ろうと日経新聞には変わらない。若手だからという言い訳は許されない。
紙面を全面組み替えすることを決めたとき、その1週間前にデスクから言われた言葉を思い出した。「俺たちは歴史書を作っているんだという自覚を忘れるな」。ともすれば忘れがちなこの信念を胸に、読者に喜ばれる、後世に誇れる紙面を作っていきたい。作った紙面はその日の記録となり、永遠に保存されるのだから。

ある日のスケジュール

10:30 起床。朝食をとりつつ、自宅で朝刊各紙をチェック。自分の担当に関わるものは念入りに。二度寝には注意。
16:00 出社。夕刊各紙や通信社の記事をチェック。出稿予定を確認して、大まかな紙面イメージを考える。
18:30 原稿が出始めるので、ひたすら読んで、見出しを考える。見出しの大きさは原稿の重要度をもとに決める。
20:45 最初の版の締め切り15分前。集中度合いは最高潮。残り時間が15分しかないことに冷や汗をかく時もしばしば。
21:20 次以降の版をより良い紙面にするため、見出しやレイアウトが適切か再度検討。新たなニュースが入ってくることも。
1:40 最終版校了。1日の仕事を終えてホッと一息。
2:20 退社。電車はもちろんないので、タクシーで。満員電車に巻き込まれず、ゆったりと帰れるのは少しお得な気分。
4:00 就寝。光で目が覚めないようカーテンはしっかり閉める。寝る前に本を読みたい時もあれば、もう活字を見たくない時も。

いいじゃん、NIKKEI

若手にも重要な仕事を任せてくれる。配属直後、「2週間後には紙面を丸々1ページ担当してもらうから」と言われた時は耳を疑った。自分が作った紙面を読んでいる人を電車で見かけると、「それ、俺が作ったんです」と言いたくなる。

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