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2012年3月30日(金)付

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外国人介護士―施設の負担を減らそう

インドネシアとフィリピンとの経済連携協定(EPA)で来日し、全国の福祉施設で働いていた36人が介護福祉士の国家試験に合格した。4年前の協定発効とともに来日し、受験資格を[記事全文]

自衛隊判決―市民を見張る考え違い

自衛隊のイラク派遣に反対する市民活動を自衛隊が監視していた問題で、仙台地裁は「正当な目的や必要性がないのに、個人情報を集めて保有した」と述べ、国に賠償を命じた。個人には[記事全文]

外国人介護士―施設の負担を減らそう

 インドネシアとフィリピンとの経済連携協定(EPA)で来日し、全国の福祉施設で働いていた36人が介護福祉士の国家試験に合格した。

 4年前の協定発効とともに来日し、受験資格を得る3年以上の実習を経た若者たちにとって初めての挑戦だった。

 合格率は38%。同じEPAでの看護師試験を受けた外国人の合格率11%よりは高いが、日本人合格率(64%)に比べれば、低すぎる。

 介護現場でリーダー役となる介護福祉士は高齢化社会で大事な役割を担う。外国人であっても有能な人材は大切にしたい。

 彼らは現地の看護学校などを卒業しており、一定の専門知識はある。ネックになるのはやはり日本語の能力だ。

 現場の声を受け、政府は改善に取り組んできた。国家試験で「褥瘡(じょくそう)」といった難解な漢字にルビを振り、来日前の日本語研修を拡充した。4年前にはその制度がなかったので、今回の不合格者のうち、一定水準の人には滞在期間の1年延長を認め、来年、再挑戦できるようにした。

 だが、外国から希望者を受け入れ、現場で日本語教育を担ってきた施設側の負担感は今も解消されていない。

 受け入れ施設数を見ると、ピークだった09年に比べて昨年は約3分の1に減った。大量の不合格者が出る看護師の受け入れ施設数も、やはり大幅に減っている。

 受け入れ施設がなくては、日本で働く夢はかなえられない。介護の場合、インドネシアからの入国者は09年の189人が昨年は58人に、フィリピンからも同期間に190人から61人に減った。このままでは先細りだ。

 制度を生かすには、施設の負担を減らすとともに、合格率を上げることが重要だ。政府は夜間勤務の介護報酬への加算を、実習中の外国人にも認める方針だ。漢字のルビ振りの拡大や試験時間の大幅延長など、実効ある対応を急いでほしい。

 介護現場の人手不足は深刻だ。介護職員はいま140万人だが、厚生労働省の試算によると、2025年には230万人前後の働き手が必要になる。EPAの人材流入で日本人の職場が奪われ、待遇が悪化するというのは杞憂(きゆう)にすぎない。

 日本人だけでなく、外国人にも加わってもらおう。今年からベトナムでも介護・看護人材の事前研修が始まる。インドやタイからも要望がある。

 無用な障壁をなくし、アジアにケア人材の門戸を広げたい。

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自衛隊判決―市民を見張る考え違い

 自衛隊のイラク派遣に反対する市民活動を自衛隊が監視していた問題で、仙台地裁は「正当な目的や必要性がないのに、個人情報を集めて保有した」と述べ、国に賠償を命じた。

 個人には「自分の情報をコントロールする権利」がある。それを侵したとの判断である。

 法律に明文のさだめがなく、判例上も確立したとはいえない権利を積極的にとらえ、行政機関の無軌道な情報収集に歯どめをかけた意義は大きい。

 一方で、この考えがひとり歩きすると、逆に国民の知る権利をそこなうことも考えられる。どう調整をはかるか、今回の判決も材料にしながら議論を深めていく必要がある。

 自衛隊がしたことの違法性ははっきりしたが、賠償が認められたのは、たまたま明るみに出た文書に所属政党などが書いてあった共産党議員ら5人にとどまった。個人情報が載っていなかった約100人の原告はすべて請求を退けられた。

 原告側は「監視されると、活動への参加をためらうことになり、表現の自由の萎縮をもたらす」とも主張したが、地裁は取りあわなかった。

 結果として、論点は個人情報の扱いの当否にしぼられてしまい、問題の本質に迫る内容になったとは言いがたい。判決にも大きな疑問が残った。

 それにしても、裁判で国側の姿勢は驚くべきものだった。

 まず、証拠として提出された文書が自衛隊のものかどうか、肯定も否定もしない姿勢を貫いた。「公務に関する秘密を明らかにすることになり、ひいては国の安全保障に影響を及ぼす」という言い分だ。

 そして、市民は情報収集されているのを知らなかったのだから、表現の自由が萎縮することもありえないと主張した。

 開き直りと言うほかない。誰のために自衛隊はあるのか。

 折しも政府は、国の安全などにかかわる情報を守るとして、違反者に重罰を科す秘密保全法の制定を検討している。

 だが、主権者である国民を敵対する存在とみなし、説明を拒み続ける組織や政府に、そのような強い権限を与えたらどうなるか。暮らしや人権がおびやかされる方向に流れるとみるのが自然だろう。

 市民監視が発覚したのは5年前だ。その後、政権は交代したが何の検証もなく、法廷での主張もそのままだった。問題意識の低さが見てとれる。

 政治がしっかりリードし、自衛隊に潜む危うい体質を変えてゆく。それが文民統制である。

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