最近、金投資の注目度が高まっています。金は利子を生まない特殊な資産。金投資にはどんな意味があるのか、私たち投資家が分かっているようで分かっていない「金」について、改めて一緒に考えてみたいと思います。
まずは、金価格から
なぜかというと、もともと金は、基軸通貨であるドルが弱くなった場合にリスク回避のために買われることが多いので、「ドル安円高のときに価格が上がりやすい」のです。つまり、金価格が上がっても、円高も同時に起きてしまうため、ドル建ての取引価格ほど、円貨では金価格は上がらないということ。金価格は単にドル建ての国際価格だけを見るだけでは不十分で、為替の影響を考える必要があります。これが金投資を分かりにくくしている要因です。
意外な価格性質 イメージとの乖離に注意
具体的に「金」という資産を保有すべきか考えた場合、次の三つがメリットとして挙げられます。
【理由1・分散投資】
――債券や株式、為替などと相関が低い、あるいは逆相関がある場合には、ポートフォリオの変動リスクを下げる効果があります。
【理由2・インフレリスク対応】
――信用貨幣がハイパーインフレなどを起こしたときに、世界で埋蔵量が決まっている「金」の方が、リスクが小さくなります。
【理由3・実物資産の需要】
――金はその性質上から工業製品や宝飾製品として使われています。こうした需要が高まってきた場合に、金価格は上昇します。
これらのメリットが本当なら金を持つ価値がありますが、そうでなければ、ほかの商品に比べて手数料や保管コストが割高な金を持つ必然性は低くなります。順に見ていきましょう。
最初に【理由1・分散投資】の検証のため、ほかの金融商品との「相関係数(1に近いほど価格連動性が高い)」を計算してみました。
円ベースで各インデックス指数を比較したところ、「金と世界株式」の相関係数は0.33と低めでしたが、「金と世界債券」では0.86と強い相関が出ました。ドルベースで調べてみると「金と世界債券」は0.93とさらに連動が高くなります。また、金は分類的にコモディティーの一つですが、値動き的には異色です。「世界商品インデックス」の各商品との相関を見てみると、金とは逆に、株式との連動性が0.74と高く、債券とは0.30と低いのです。
つまり、金は投資商品としては「世界債券インデックス」にかなり近い商品特性を持っているのです。私たちが持っているイメージよりも、分散投資効果は小さいのです。【理由1】による購入動機は強くなくなってしまいました。
次に【理由2・インフレリスク対応】を検証しましょう。
私たちがインフレリスクから身を守るには、自分たちの「購買力を守る」必要があります。自分が消費する資源の比率に合わせて商品を保有する必要があるという意味です。ジム・ロジャーズ氏が作った「ロジャーズ国際コモディティ指数」はこの考え方を採用しています。他の商品インデックスの商品構成比(図表2)を見ても、エネルギーや農作物に比べ、金の割合はわずかです。インフレリスクから身を守るために一番保有すべきは、私たちが最も消費する「石油」であり金ではありません。
また、本当にインフレになったとき、金以上にほかの商品の方が上がる可能性が高いことは、これまでの相関分析や過去の価格変動幅からしても明らかです。【理由2】も消えてしまいました。
最後の【理由3・実物資産の需要】。今後の伸びはどうでしょう。
新興国中心に増えているといわれる実需ですが、世界の金消費量(図表3)を見ると、本当に伸びているのは中国ぐらいで、ほかの上位国も近年は減少傾向です。さらに、多くの国の中央銀行はいまや金本位制ではないので、経済規模が大きくなっても金の需要は増えません。将来、金本位制に戻る可能性も低いでしょう。そもそも中央銀行の役目は経済規模に合わせて柔軟に通貨を発行すること。金本位制で通貨量を制限したのが、戦前の世界デフレの原因でもありますし、その同じ
コスト的にも割高 中途半端なポジション
実際、金投資を手がける場合、現物は保管コストや手数料がかかり、債券投資よりも割高です。金ETFは手数料は割安ですが、そもそもこれまでの説明の通り、金ETFを買うくらいなら、ディフェンシブ資産としては、世界債券インデックスを、またインフレリスクをヘッジするには商品ファンドや商品インデックスを買った方が合理的です。分かりやすく身近な「金」ですが、金融商品としては意外と中途半端。ポートフォリオの中で大きく持つべきではない、というのが私の考え方です。
あの黄金の輝きの魅力につい負けてしまい、私もたくさん宝飾品としての金は持っています。しかし投資はまた別。金はあくまでも宝飾品、とした方がよさそうです。
「不安」だけで投資を決めてOK?
過去、世界動乱や金融不安が起きるたび、「有事の金」、つまり、資産の逃避先として買われる事の多かった金。今年も金価格が1オンス=1000ドル越えの局面があったが、今後はどうなるのか。