記者の目

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記者の目:3年後のスポーツ新聞=藤山健二

 ◇情報の「質」武器に「深い」記事を

 新聞、雑誌などの活字メディアは今、かつてないほど厳しい状況に直面している。若者の活字離れ、インターネットやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)、ツイッターなどの急速な普及。当然、スポーツ新聞も例外ではない。スポーツ関連の情報を入手する唯一の手段がスポーツ新聞であった時代は終わり、多くの読者がネットメディアに流れていった。どうすれば読者に再び新聞を手に取ってもらえるのか、活字離れ世代にアピールできるのか、新聞の製作に携わるすべての人間が同じような悩みを抱えながら働いている。

 ◇速報性はTVやネットに軍配

 確かに速報性ではスポーツ新聞に勝ち目はない。その日に起きたことを翌日に紙面化する新聞はリアルタイムで試合の様子を伝えられるネットには勝てない。限られた枚数の中で一日の出来事をまとめなくてはならない以上、情報の「量」においても同じだ。しかし、一番大切な情報の中身、記事の「質」は間違いなくスポーツ新聞の方が上だ。テレビやネットの速報ではわからない舞台裏、勝負のポイント、選手の本音。スポーツに詳しい専門記者だからこそ書ける記事、撮れる写真は、他のどのメディアよりも見応えがあるはずだ。3年後でも10年後でも、スポーツ新聞が存続する限り、記事の「質」が最大の武器であることは永久に変わらないだろう。

 昔と違って今は「スポーツなら何でも好き」という読者は少なくなった。自分の好きなスポーツにしか関心がない若者が増えている。野球ファンとサッカーファンはほとんど読者層が重ならない。興味の範囲が狭くなった分、彼らはより専門的な情報を求めるようになった。だが、各スポーツから芸能、ギャンブルまであらゆる分野を扱う今のスポーツ新聞にとって、専門色を強めるのは簡単なようで難しい。しかし、「広く浅く」ではなく「広くても深い」記事を載せ続けない限り、スポーツ新聞の未来はない。業界は違うが、同じような状況に置かれている総合百貨店は売り場を改修し、魅力的な商品を次々と提供することで専門店に対抗しようとしている。スポーツ新聞も常に紙面改革を進め、より専門性の高い記事を提供すれば、今よりもっと読者を増やすことができるはずだ。

 記事の「質」で勝負するということは、必然的に速報性との決別を余儀なくされる。もちろん「新しく聞いたことを伝える」のが新聞の使命であり、試合の結果や選手の最新情報がなくては紙面は成り立たない。ただ、これまでのように臨場感を重視した原稿と大きな見出しで勝ち負けを伝える手法は徐々に減り、試合の分析や読者の「なぜ?」に答えるような記事が増えていくだろう。それにつれて取材する記者の露出も増えるに違いない。一般紙に比べてスポーツ紙には記者の署名原稿が多い。それだけ個性を発揮する場があるということだ。客観的な分析だけでなく、記者自身が自分の考えを読者にしっかりと伝えていく。当然読者からは共感と同時に批判も寄せられるだろう。スポーツ新聞を中心に自由闊達(かったつ)な論議が交わされ、新たな世論が形成されていく。スポーツ界のオピニオンリーダーになることこそが、これから目指すべき道だと思う。

 ◇地元に密着した新聞作りに活路

 更にもう一つ、スポーツ新聞にできることがある。地元に密着した新聞作りだ。すでにプロ野球やサッカーJリーグなどの本拠地周辺では、地元チームを大きく取り上げるようにしている。たとえば北海道では日本ハム、大阪は阪神、九州はソフトバンクの1面を作成している。春夏の高校野球の季節にはその地域だけの特別1面を作成することも多い。何種類もの紙面を作るのは大変な労力が必要だが、その分読者の反応は上々だ。地方でのスポーツ新聞のニーズはまだまだ強い。メジャーリーグや海外サッカー、芸能記事など「全国区」の記事とは別に、地方に密着した記事をきめ細かく配分できれば、新たな読者を獲得できるチャンスも出てくる。

 時代は予想をはるかに超えるスピードで変化し続けている。変化を恐れず果敢にチャレンジしていけば、3年後のスポーツ新聞は今よりもさらに魅力的な媒体になっているに違いない。(スポニチ編集局次長)

毎日新聞 2012年3月30日 0時24分

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