【大事なお知らせ】
サービス終了のお知らせ、データ保存のお願い(2012/3/1)
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花王DTAヒューマンスペシャル
『花王DTAヒューマンスペシャル』
背中に突き付けられたAKの銃口。
制止を促す銃の持ち主の声を無視し踵で地面を蹴り上げ爪先でくるりと回る。
銃の持ち主、初めて会った男の驚く顔。
その見開かれた目を真っ直ぐに見据えたまま、右腕の肘から先ををクン、と動かしてAKの銃身を男の身体の正中線側に薙ぎ払う。
引き金が引かれ、ワイズのすぐ脇で放たれる銃弾。けたたましい音と共に薬莢が跳ね上がり身体を叩いた。
正面から銃身を薙ぎ払い側面へ、そのまま背後へ流れる様に移動しつつ擦れ違いざまにナイフで腹を刔り、背後に立ったら腹から引き抜いたナイフを後頭部に突き刺し、腹にしたのと同じ様に手首をクイ、と捻って脊髄とその奥に在る小脳を併せて刔り抜く。
男は引き金を引くのも止め、どうと倒れ込み身体を細かく痙攣させていた。
「…ポイントα、クリア、オーバー。」
インカムのスイッチを押し管制に状況を伝える。
『了解。他ポイントも制圧完了、降下地点でピックアップする、移動を開始してくれ、オーバー。』
「了解。」
短い交信を終えナイフに付いた血と脂の汚れをズボンで拭き取りワイズは歩き出す。
また、人を殺した。
何度も何度も繰り返し、身体に染み付いた『殺す』という動作。
もう特段何も感じはしない。
初めて人を殺したのは遥か昔、その時の記憶は既に朧気だ。
人を殺したいわけじゃない。
人体のどこに刃を入れ、どういう風に抉れば綺麗にバラせるのか。
殺さずに意識を最後迄保たせ苦しみを長引かせるにはどうすれば良いのか。
頭で考えなくても身体が知っている。
どうして殺す事が『仕方無い』『どうしようもない』事になってしまったんだろう。
人を赦す、愛する、誇り高く生きる、幸せに生きる、大切なモノを護る。
赦さない、憎む、誇りの為に、幸せに生きる為に、大切なモノを護る為に、闘う、そして殺す。
『生きる為に生き物を殺して食べるのと、生きる為に人を殺すのの何が違うの?』
年齢一桁の頃のワイズが誰かに言った言葉。
その答えが欲しかった。
『違う』と、そう言って欲しかったのかも知れない。
言葉を投げつけた相手は答えに窮していたっけ、そんな事を思い出しふと小さく笑う。
「…答えは見つかりましたか?」
空を仰いで独り言ち、そして、
「……いいえ、見つかりません。出て来るのは表面的な事ばかりです。」
小さな声で自分にそう返す。
人を殺す事すらも人の抱える原罪。
何かを大切にすればする程他に狭量になっていく。
何も無かった頃には戻れない、戻せない。
自分を傷つける相手を、家族を殺した相手を、自分の信じるモノを否定する相手を、自分の大切なモノを踏み躙る相手を、『赦せ』と誰が言う資格が有るんだろう。
「…その感情の先に血で血を洗う悲劇が有るのが分かってても、それでも私は『それ』を否定は出来ません。」
煌々と照らす満月をもう一度見上げてワイズは呟く。
考えても仕方の無い事かも知れない。けれど、考える事を止めたら、放棄したら、その時自分は自分でなくなる。
考え続け殺し続け、いつかその重みで身動きがとれなくなるいつか来るその日迄。
こんな事を考えるのはこんなにも綺麗な満月の夜だからだろうか、そんな風に考え乍ら指定されたポイントへ向かって歩くワイズの動きがぴたりと止まる。
前方、視線の先に有るのはラリーの姿、合流しようと待っていたのかワイズの姿を認めて片手を挙げて小さく振っている。
「よ。どうだった?」
「何も問題ナシ。そっちは?」
「同じく。さっさと帰るべ、風呂入ってフカフカのベッドで寝たいよ、私は。」
「俺も。…お前さ、また哲学してたろ、月見上げて口ぱかーっと半開きだったぞ。みっともねえからヤメロな。」
「あ、バレたか?まあ趣味っつーか癖だ、見逃せ。」
いつもの様におどけた口調での遣り取り。その屈託の無い様には武張った出で立ちも携えた武器もそぐわない事著しい。周りには自分達が殺したかつて人間だった物体が転がり、二人はその中を笑い乍ら歩いて行く。
「…!」
「…あ。」
二人のその和やかな歩みを止めたのは背後に生じた人の気配。振り返ると、そこにはAKを携えた、年の頃十歳程の男の子が立ってこちらを見ていた。銃口はこちらに向けられている。
「…どうした、坊主、私を殺したいか?」
「ワイズ、どうする、殺すか?」
「…おい、ウチの鉄則言ってみ?」
「…『子供は殺すな』、だろ。」
「宜しい。ま、黙っとけ。どうした坊主、お前の父親が今日私が殺した中にいたんだろ?私が憎いか?だったら殺せ、ホラ。」
ワイズはラリーを制止しそう言い微笑みかけ乍ら子供に向かって歩み寄る。子供は大人とは言え女性という事に戸惑っているのか銃を抱えたまま困惑した様子だ。
「何だ、女だからって遠慮か?良くないな、今殺さないと私はまたお前の大切なものを殺すかも知れないんだぞ?」
ゆっくりと、ゆっくりと歩みを進め、ワイズは遂に子供の前に立つ。子供の構えたAKの銃口が少し腹に食い込んだ。
「…よし、じゃあこうしよう。次に私に会う時迄私を憎み続けろ。そして、私に会ったら私を殺せ。抵抗はしない、お前に殺されてやる。その代わり、それ迄他に誰も殺すな、傷付けるな。私以外を憎む暇が有るなら大事なものを全霊を懸けて護れ。お前が憎むべきは私だけだ。いいな?」
諭す様に、あやす様に、穏やかで静かなワイズの声。
それを聞いている黙ったままの子供、引き金からはいつの間にか指が外れている。
「良いか?」
相変わらず困惑した様な表情の子供を見下ろしワイズはにっこりと笑って子供の頭をそっと撫で、そのまま踵を返し無防備に背中を見せて歩き出した。
「…ったくよ…なんつー約束してんだお前は。言っとくがよ、あのガキがお前を殺そうとするなら俺は鉄則破るぜ。」
「駄目ー。…子供の『未来』ってヤツに懸けてみたくなる夜も有るさ。」
「…だと良いな。」
「…ああ。」
「帰ろうぜ。」
「だな。」
この夜に成された『約束』がいったいどんな結末を導くのか、今暫くの時を経る事になる。
『子供は決して無垢じゃない。でも、私達大人が失ってしまった『未来』が有る。勿論それには『銃を手にし人を殺す』事も『兵士を産み育てる』事も含まれてる。でも、もしかしたら違う未来も有るのかも知れない。自分が憎まれる事でその違う未来とやらを垣間見る事が出来るなら、嫌われ者冥利に尽きるってもんじゃないかな。』
~Fin~
だーかーらー。
これのどこが『ヒューマン』なんだと。
私ってこういう戦地モノしか書けないのね、知ってる事しか書けない、物書きの才能皆無さんなのね。
何でも返信でどうぞ。