ウランと酸素原子で構成された球状クラスタ。今回の研究では、海水中において、このクラスタが水に溶けた状態または微粒子の状態で安定的に存在できることが示されている (Credit: Ginger Sigmon, University of Notre Dame)
カリフォルニア大学デービス校とノートルダム大学の研究チームが、海水による核燃料の腐食についての新たな知見を報告しています。それによると、腐食によって生成されるウラン化合物は水に溶けやすくなり、または微粒子状になって、通常のウランよりも広範囲に拡散する可能性があるとのことです。
2011年3月に起きた福島原発事故の際、日本が核燃料の冷却に海水を使用したことは、より深刻な事態を回避するため、恐らくその時点で最善の対応だったとカリフォルニア大セラミック・地球環境材料化学教授 Alexandra Navrotsky氏は言います。
ただし、Navrotsky氏らのその後の研究で分かってきたのは、核燃料が海水によって腐食することで生成されるウラン化合物が、水に溶けた状態または非常に小さな粒子状になって広範囲に広がる可能性があるということです。
「この現象は以前は考慮されることがなかったものです。これによって腐食の速度がどの程度増すのかは分かっていませんが、今後検討されなければならない問題ではあります」とNavrotsky氏。なお、同氏の知る限り、原発から遠く離れた場所までウランによる汚染が及んでいるとする根拠はないとしています。
核燃料棒内のウランは、非常に水に溶けにくい化学組成を持っています。しかし、ウランが酸化してできる酸化ウラン(VI)については、この限りではありません。水が放射線を受け、強力な酸化剤である過酸化水素に変わる場合には、ウランの酸化反応は促進されます。
共同研究者であるノートルダム大の土木工学・地質学教授 Peter Burns氏は、先行する研究において過酸化ウランの球状クラスタを作製しています。この球状クラスは水溶性であり、また固体としても存在できるものです。そして今回の研究は、ナトリウムのようなアルカリ金属イオンが存在する条件下(例えば海水の中)では、酸化剤が除去された場合でも、この球状クラスタが溶液中または微粒子の状態で安定して存続することを示しているといいます。
つまり、海水に接触した燃料棒の表面でこのクラスタが形成された可能性があり、それが拡散し、過酸化物でない通常のウランに戻るまでの数か月から数年にわたって環境中に残存、海底に沈降する可能性があるということです。Navrotsky氏は、過酸化ウラン・クラスタの環境中での分解がどれくらいの速さで行われるかに関するデータはないとしています。
(発表資料)http://bit.ly/wVMDX2