チェルノブイリ原発事故、除染の盲点
福島第一原発の事故を受け放射性物質の除染作業が本格化していますが、実はある「モノ」の存在が見落とされている可能性があります。チェルノブイリ原発事故の際、1400キロも離れた場所で除染作業をしていた作業員が相次いで7人も死亡しました。一体、何が起きていたのでしょうか。
友はもう何も語りません。
「そこに墓があります」(オットー・ツェルナーさん)
オットー・ツェルナーさん(79)。今から26年前、ある作業に従事したことで次々と仲間を失いました。この場所には同僚だったノイキルヒさんが眠ります。
「彼はがんで亡くなりました。原因は放射能です」(オットー・ツェルナーさん)
1986年4月、旧ソ連のチェルノブイリで起きた原発事故。破壊された原子炉から大量に放出された放射性物質は周辺の国々を汚染しました。この時、放射性物質を運んだのは風や雲だけではありませんでした。
「東ドイツからの車両は全て徹底的にチェックされます」(ドイツのTVニュース 1986年5月)
事故の直後、原発から1400キロほど離れた東西ドイツ国境の様子。多くのトラックが足止めされています。当時、ウクライナや東欧から農産物など安い物資が西ドイツに運ばれていました。しかし、西ドイツは放射能汚染を恐れ東側からの入国を拒否、車両が列を成しました。そこで、東ドイツ政府はツェルナーさんら運送公社の職員8人に「トラックの除染」を命じたのです。
「ガイガーカウンターを渡されて私たちが放射線量を測定するよう指示された。測定器はけたたましい音を鳴り響かせていたが、耐えられずに除染作業中は音を消していた」(トラックの除染に当たったオットー・ツェルナーさん)
すでに放射性物質に汚染されていたトラック。しかし、作業員たちはマスクなどで防護もせず、モップを使い除染の作業をこなしました。その数は100〜200台に上るといいます。
任務は洗車だけではありませんでした。エンジンに送る空気をろ過する「エアフィルター」の交換です。このフィルターにはほこりや細かいちりなどが付着します。
「フィルターも放射能に汚染されていた。外から空気を吸い込むので放射能がたまる。外側よりフィルターの方が汚染されていた」(オットー・ツェルナーさん)
除染作業は2か月で終わりましたが、3年後に悲劇が始まります。まず、フィルターを交換していた作業員が肺がんで死亡しました。まだ30代でした。10年のうちに除染の作業員8人中6人が亡くなりました。全てがんでした。
作業員の死亡と放射性物質の因果関係はあるのか・・・そもそもトラックはどれほど汚染されていたのか・・・ある場所に原発事故後の記録が残っていました。当時、トラックは国境にほど近い東ドイツのサービスエリアにも集められていました。そして、交換されたエアフィルターは倉庫に保管されていたといいます。山積みになっていたというエアフィルター。扉の前で、東ドイツ政府の命令を受けた放射線の専門家たちが線量を測定していました。
「倉庫の入り口で測定したところ、毎時20ミリシーベルトの放射線量を記録した」
Q.1時間あたり?
「そう、1時間あたり。とても高い数値です」(マクデブルク大学病院 トリーネ教授)
当時のメモが残っています。2レントゲン、つまり20ミリシーベルト。これは国際的な基準で原発作業員が年間で許容される被ばく量に相当、それを1時間で浴びてしまう計算です。
「この線量を一度に浴びると遺伝子に異常を起こすおそれがある。すぐではないが、3〜4年後に甲状腺がんを発症するおそれも出てくる」(マクデブルク大学病院 トリーネ教授)
その後、ツェルナーさんと一緒に除染に当たっていたノイキルヒさんも直腸がんと前立腺がんを相次いで発症して亡くなりました。除染に当たった作業員8人のうち7人ががんで死亡したことになります。
「私は日本でも被害者が出るのではと不安を感じている。大量の放射線を浴びれば病気になり、がんで苦しんで死ぬことにもなる。そう考えただけでも気が重くなる」(除染作業に当たったオットー・ツェルナーさん)
原発事故の現場から遠く離れた場所で起きた「被ばく」をどうとらえるのか・・・警鐘が鳴らされています。
ツェルナーさんの上司のノイキルヒさん。彼が2つのがんを同時期に発症したのは事故から9年後の1995年でした。ノイキルヒさんは「除染中の放射線が原因」として補償を求め、裁判所に訴えます。そして98年、裁判所は「放射線ががんのリスクを高めた」などとして一度は労災を認めました。ノイキルヒさんはドイツで初めてチェルノブイリ事故の被害者となったのです。ところが、ノイキルヒさんの死後、2001年に一転して2審が1審判決を棄却。その理由は学問的に「放射線の量ががんを発症するには十分と言えない」というもので、放射線被ばくをめぐる裁判の難しさを浮き彫りにしています。(28日22:15)
この記事の関連ニュース
活断層の連動、8原発で再検討指示(28日 22:21)
原発事故の混乱、東電のキーマン証言(28日 20:26)
東電値上げ、関東知事会が中止要請(28日 21:01)
旧避難準備区域で母子死亡、孤立死か(27日)
福島第一原発2号機、内部映像公開(27日)
横浜市、東電に計14億円の賠償請求(27日)
高校教科書、防災教育を意識(27日)
茨城独自、15種の魚水揚げ自粛(27日)
東電の企業向け値上げ、一部据え置き(27日)
東電、8千億円規模の追加支援申請へ(27日)
核サミット「原子力安全へ取り組み」(27日)
2号機の格納容器、水位は約60センチ(26日)
福島・川内村、村で役場業務再開(26日)
東電の全原発停止、国内稼働1基に(26日)
東電の全原発停止、料金値上げに波及も(26日)
柏崎刈羽原発停止、稼働原発国内1基に(26日)
経団連会長、節電「産業界に大きな負担」(26日)
東電に電気料金値上げ見直し要請(26日)
18歳の米少年、被災地を歩き映画制作(25日)
川内村、元の役場再開へ引っ越し作業(24日)
大飯原発ストレステスト、安全委が了承(23日)
班目委員長「総合的な安全評価を」(23日)
川内村、原発事故が分断した卒業式(23日)
東電・勝俣会長の後任人事が難航(23日)
2号機、温度計設置へロボット調査(22日)
TOPICS
JNN 三陸臨時支局 アーカイブ 再起に向けた歩みを伝え続けて
TBSニュースバード「3分11秒のメッセージ」
福島第一原発情報カメラ
大震災関連ニュース
社会保障と税の一体改革
今日のマーケット情報
TBS報道コラム
今日のお天気
iPad&iPhoneアプリケーション「TBSライフ」
バーチャルなリビングルームには毎日かかせない情報や機能が溢れています。アラームで朝起きて、最新のニュース番組やお天気をチェック!
2012年3月28日(水)のニュース一覧
社会
子宮頸がんワクチン、助成期限迫る
郵便物未配達、支店長が発覚恐れ処分
オリンパス旧経営陣らを追起訴
バレエ菅井円加さん、文科大臣賞受賞
東金女児殺害、懲役15年確定へ
本木さん、中島さんへの訴え取り下げ
厚年基金の運用担当、9割が“素人”
空き地に遺体、たき火燃え移ったか
産業スパイか、不正取得1万件超
孤立死対策に個人情報保護法の壁
介護福祉士、外国人合格率は38%
オリンパス株主が集団提訴
水道メーター盗難相次ぐ、被害130個
活断層の連動、8原発で再検討指示
女子高生ら50人につば、教諭を処分
上野動物園のパンダ、再び公開
十勝岳連峰で2人遭難、1人は死亡
設計図面盗んだ疑いで中国国籍の男逮捕
神奈川県警の警部補逮捕、窃盗未遂容疑
「津波警報」テスト段階の設定で誤作動か
復興支援要請、都内の企業へ説明会
皇太子さま、こども達の発明展を見学
政治
経済
東電値上げ、関東知事会が中止要請
日産、ルノー車輸入販売で新会社設立
ソニー、シャープ合弁に追加出資せず
AIJ社長、参院委も4月3日招致
民放連・井上次期会長が初会見
消費増税、財務相「党の意思を尊重」
ガソリン157.6円、6週連続値上がり
「BRZ」、2か月で受注3500台超
電気自動車、充電1回で350キロ走る
国際
チェルノブイリ原発事故、除染の盲点
韓国で東北PRのCM放送始まる
シリア、「停戦」受け入れも衝突続く
中国、シリアの仲介受け入れを歓迎
南北スーダン、国境付近で衝突続く
米大使、MLBの被災地支援に感謝
アップルCEO、中国副首相に直談判
AKB48、ワシントン桜祭りで公演
北朝鮮核、監視要員派遣に「時間かかる」
桜寄贈100周年、米大統領夫人が植樹
核安保サミット、共同声明採択し閉幕
マイクロチップ入り制服で「生徒監視」
米・ジョージア州でぬかるみの男性救助
機長がパニックに、「撃ち落とされる」