太平洋岸の多くの発電所が被災した東北電力。2012年3月期は創立以来最大となる2500億円の連結最終赤字となる見通しだ。被災地での電力の安定供給に向けどう経営を立て直すのか。海輪誠社長に聞いた。
東北電力の海輪誠社長(8日午後、仙台市青葉区)
――今夏の電力需給の見通しは。
「電力需要は過去の猛暑に記録した1490万キロワットを軸に精査をしている。被災地の復興スピードと節電の効果を見極めないといけない。供給力は緊急設置電源を導入し、合計90万キロワット程度が新たな戦力になる。常磐共同火力勿来発電所の6号機も運転を再開する」
「昨年は北海道電力と東京電力から融通をお願いしたが、今年はぎりぎり自前でいけると思う。今夏は全体の設備能力の4分の3まで回復する」
――原子力発電所の再稼働の見通しは。
「東通原発は震災による設備被害がなかった。安全対策工事も緊急的なものは済んだ。ストレステスト(耐性調査)の1次評価結果を早く国の審査のテーブルに載せて頂き、地元に早くお話ししたい。地元の村や県からも安全さえ確認できればと言ってもらっている」
「女川原発は復旧工事を一生懸命やっている。(原発の揺れの想定値である)基準地震動を一部の地域で超えたため、自主的に耐震強化工事の準備に取りかかる。これにめどがついた段階でストレステストに移行する。東通と比べると半年以上遅れている」
――収支改善にどう取り組む。
「過去最大の赤字の要因は、まず震災で設備の修繕費や新規の投資が増えたこと、もう1つはコストの低い原発や石炭を使う火力発電所が一挙に失われたことだ。原発の再稼働は不透明だが、原町火力発電所や相馬共同火力発電新地発電所が復旧すると石炭のウエートが上がって燃料費を削減でき展望が開けてくる」
――料金引き上げの可能性は。
「被災地の経済復興のために現時点では回避したい。安い電力の安定供給が企業を引き留める要因になる。そちらを最優先で考え、効率化と内部留保を活用して何とか耐えていく」
――2013年3月期の業績の見通しは。
「落ちるところまで落ちた今期よりは回復するが、一気に配当に必要な利益が回復できるとは見通しにくい。早期回復に向け原町火力発電所の復旧工程を前倒しする。(13年夏までの復旧予定を公表しているが)13年3月期中の再開をターゲットに社内で詰めの検討をしている」
――来期は最終黒字は確保できそうか。
「全く業績の見通しが立たない状況でコメントできない。厳しいことは厳しい。効率化もさらに深掘りしたい」
――来期は約1200億円の社債償還を迎える。起債の計画は。
「2日に総額600億円の社債の募集を開始できたことは非常に明るい材料だ。来期の社債発行は(600億円より)もう少し拡大したい。償還分ぐらいは社債で置き換えるところまで行ければいいが、起債環境と利益計画を見ながら決める。個人向け社債もできれば出したい。業績がどの程度のスピードで復活するかを示せれば起債環境が整う」
――福島県南相馬市と浪江町が2016年度着工予定の「浪江・小高原子力発電所」の建設中止を求めている。
「厳しいという思いはある。地元の意向は重要な要素だ。原発は地域の理解がなければ成り立たない。国のエネルギー政策もこれからの論議で、総合的に判断するにはもう少し時間がかかる」
――発送電分離についてどう考えるか。
「目的がいまひとつ明確になっていない。地域間の広域ネットワークをつくるため、電力供給の新規参入を増やすため、再生可能エネルギーを進めるため、と大きく3つの議論があるが、それぞれが発送電を分離すれば答えになるのかは吟味しないといけない」
「デメリットもある。大災害時に目的意識の共有や情報連携がしにくくなる。中長期の投資も難しくなり、供給責任が果たせなくなるという疑念がある。供給力が大幅に不足するなかで発送電を分離すれば(経済原則から)逆に料金が上がることになる。時期的にもいま発送電分離というのは厳しい」
(聞き手は仙台支局・村松洋兵、甲原潤之介)
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