【萬物相】飢餓と独裁政権

 1942年末、インドのベンガル地方の水田でカビを原因とする病気がまん延し、さらに台風や高潮まで重なって、稲作が全滅した。凶作のたびにコメを輸入していたビルマ(現ミャンマー)も日本に占領されていたため、穀物を輸入する道が閉ざされた。ベンガル地方は翌年、史上最悪の大飢饉(ききん)に見舞われた。少なくとも150万人、最大で400万人が犠牲になったと推定されている。人々は生ごみを奪い合うためけんかした。骨と皮だけになった高齢者たちは道端で死んでいった。

 その現場に、アマルティア・センという9歳の少年がいた。センは大きなショックを受け、その後貧困や飢餓についての研究に没頭し、1998年にノーベル経済学賞を受賞した。センは「当時、インド全体では食糧が不足していなかったが、植民地支配していた英国が適切な措置を怠った」と指摘した。その上で「民主主義がうまく機能している国では飢餓は発生しない」という結論を下した。抑圧的な権力や誤った政策が、自然災害よりも恐ろしい災厄というわけだ。

 1930年代初め、ウクライナで発生した大飢饉がその代表的なケースだ。スターリンが率いるソ連共産党は、農地を国有化する集団農場政策にウクライナの農民たちが反発したため、食糧はもとより種まで奪った。ウクライナの人々は食糧を求めてほかの地域に移住することもできなかった。その結果、500万-1000万人が命を落とした。50年代末の中国の大躍進運動や、90年代半ばの北朝鮮の「苦難の行軍」、2000年代初めにジンバブエで起こった大飢饉も、独裁政権が引き起こした惨劇だった。

 保健社会研究院は、北朝鮮の9歳以下の子どもたちの2人に1人(220万人)が栄養不足により成長が阻害されている、という報告書を発表した。このうち1万8000人は生命の危機にさらされるほどの栄養失調の状態にあるという。金正日(キム・ジョンイル)総書記の死後、新たな指導者となった金正恩(キム・ジョンウン)氏や指導者層は皆、ぶくぶくと太っている。北朝鮮の権力者たちは栄養が過剰な状態にある一方、子どもや農民たちは200万-300万人が餓死する「苦難の行軍」が現在も続いている。

 北朝鮮は今年、故・金日成(キム・イルソン)主席の生誕100周年記念行事や、長距離ミサイル(北朝鮮は人工衛星と主張)「光明星3号」の発射に、30億ドル(約2500億円)近くもの金を使う見通しだという。それだけの金があれば、現時点で475万トンのコメを輸入できる。食糧難を一気に解決し、数万人の子どもたちの命を救うことが可能だ。北朝鮮は3代世襲体制を維持するための展示や宣伝、ミサイルや核兵器の開発に没頭する一方、子どもたちの命には見向きもしない。凶作よりも恐ろしいのは、理性を失った独裁政権だ。今の北朝鮮は「苛政猛於虎(過酷な政治はトラよりも恐ろしい)」という孔子の言葉そのままの状態だ。

金基天(キム・ギチョン)論説委員
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