5回、スリヤン・ソールンビサイ(左)を攻める佐藤洋太=後楽園ホールで(北村彰撮影)
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◇WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチ
WBC世界スーパーフライ級タイトルマッチは、同級4位の佐藤洋太(27)=協栄=が王者スリヤン・ソールンビサイ(23)=タイ=に3−0の判定勝ちし、世界初挑戦で王座奪取に成功した。佐藤は3回に2度のダウンを奪うなど、踊るようなボクシングで終始優勢に進めた。名門・協栄ジムは、坂田健史以来12人目の世界王者誕生となった。日本のジムに所属する男子の現役世界王者は史上最多の9人となった。今後は4月4日に正規王者との統一戦を控えるWBA休養王者・清水智信(金子)との団体統一戦、さらには元同門の亀田3兄弟が絡んでくることも予想され、この階級は佐藤を軸に戦いが展開される。
涙が止まらない。勝利の瞬間、佐藤は天を仰いで号泣した。
「何も覚えてない。無心で戦えた。練習通りの自分が自然に出た」
踊るようなボクシングだった。18センチ長いリーチを生かした。3回、右拳をグルグル回す幻惑殺法から右ストレートを当てダウンを奪った。さらに、右の連打で2度目のダウン。その後もゾンビのように猛追したスリヤンを振り切った。
東京都内のガソリンスタンドでアルバイトをして生活費を稼ぐ。朝6時に起きて家を出る。昼すぎまで勤めて公園を10キロ走る。その後、保育園に5歳の長男・洋人(ひろと)くんを迎えに行く。ジムワーク前の癒やしのひとときだ。
先日の保育園、洋人くんが給食時間に「パパ、勝てるかなあ」とつぶやき、はしを置いた。減量のためキャベツばかり食べてやせていくパパのことが心配になったらしい。担任からこの話を聞いたパパは「ますます負けられない」と奮い立った。世界戦を視野に日本王者ベルトを返上するとき、「返さないで」と号泣した長男を、これ以上泣かせるわけにはいかなかった。
2006年5月、プロ10戦目の試合で判定勝ちした後、意識を失い病院送りになった。金平会長に1年間の休養を言い渡された。その間に結婚、子供も生まれた。パパになって負け知らずの17戦無敗。リングシューズに長男と2歳の桜人(さくと)くんの名前。心の支えだった。
器用貧乏。中学時代はバスケットボールと駅伝をやった。不良デビューもしたが、先輩にボコられた。「見返してやる」と高校でボクシングを始めた。全国大会で好成績を残し、東北学院大学にもスポーツ推薦で入学。しかし、「プロで自由にやりたい」と半年で退学。どこか中途半端な自分。プロで日本王者になっても心の渇きは癒やせなかった。「お金じゃない」。誇れる何かがほしかった。
「WBA、WBO、IBFも統一して、最強になりたい」。正真正銘の最強パパへ、佐藤の新たな挑戦が始まる。 (竹下陽二)
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