米国の反原発派原子力技術者、アーニー・ガンダーセンさんが、著書『福島第一原発--真相と展望』(岡崎玲子訳、集英社新書)の刊行に合わせて来日した。東京電力福島第1原発の事故前に、同型原子炉の事故の可能性を指摘していたガンダーセンさんに聞いた。【鈴木英生】
ガンダーセンさんは大学院修了後、エンジニアとして原子炉の設計や運用に携わり、米エネルギー省の原子炉廃炉手引き書の作成にも関与。1990年、当時の勤務先で放射性物質が一般の金庫に収納されていることを内部告発した結果、原子力業界から追い出された。現在は原発についての調査分析、訴訟や公聴会での発言などをしている。
東日本大震災の直前、妻に米スリーマイル島原発事故(79年)のような事故が再びあるかを問われ、「GE(ゼネラル・エレクトリック)のマーク1で起きるだろう」と答えていた。この型の欠陥は、さまざまに指摘されてきたからだ。マーク1は、まさに福島第1原発で使われていた原子炉である。
また、福島第1原発事故の1週間後、CNNテレビに出演した際は「核燃料の7~8割がメルトダウン(炉心溶融)しており、チェルノブイリと同レベルの事故だ」と語った。本書でもその主張を詳細に展開している。
最近気になるのは、同原発で汚染冷却水を濾過(ろか)するフィルターの処理という。頻繁に交換するため、「既にアメフト場一杯分の汚染フィルターがたまったと聞きます。汚染フィルターは燃やすわけにもいかない。今後、20年ほどは冷却が必要なはずですから、汚染フィルターは増え続ける」
事故処理には数十年かかるとされる。「スリーマイルの場合は事故後1年で、電力会社の経営陣が原発内部に入って安全性を宣伝しました。さて、東電の社長も同じことができるだろうか……」
作業員の健康管理も問題だ。米国でも日本でも現場では、立場の弱い労働者が働いている。「長く現場で働くほど収益は上がりますが、健康リスクも高くなる。米国では以前、許容被曝(ひばく)量を超えた労働者が、偽名で繰り返し現場に入っていました。米国の場合、最近はテロ対策で作業員の身分確認がしっかりしていますが、日本ではどうか」と危ぶむ。
本書はマーク1型原子炉の危険性を強調するあまり、「安全性さえ高めれば原発を維持できる」とも読まれかねない。実際には「安全な原発も、安価な原発もつくることはできます。ただし、安全と安価が両立する原発はつくれない」が持論だ。「再生可能エネルギーによる発電の方が、徐々に原発より安価になる。古い原発は、浜岡原発の1号炉、2号炉のように、補修するより廃炉にした方が安くなっていく」。そもそも原発は、ビジネスとして成立しなくなりつつあるというわけだ。
それでも、プルトニウムを過程で製造できる核燃料サイクルは、潜在的な核兵器開発能力につながるからこそ安全保障上、必要だ、という声もある。「その考え方も分かるが、プルトニウム抽出に、あんな大がかりなシステムはいらない。いずれにせよ、非経済的で実現不可能な計画は、早く止めた方がいいのです」
毎日新聞 2012年3月12日 東京夕刊
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