英国人女性、ルーシー・ブラックマンさん(当時21歳)の死体遺棄事件は、警視庁麻布署捜査本部が6日、貸しビル会社代表、織原城二被告(48)を準婦女暴行致死容疑などで再逮捕したことで、真相解明に向けて最大のヤマ場を迎えた。謎の失跡から280日。捜査本部は類似事件での逮捕を繰り返し、批判の声もあったが、7度目でついに事件の「核心」へと踏み込む。
「男の客と海にドライブに行ったまま、帰ってこない」。昨年7月3日、ルーシーさんの友人が麻布署に届け出た。英国での関心の高さもあって、捜査本部は通常の家出人捜査ではなく、当初から事件に巻き込まれたことを前提にした捜査員100人の態勢を組んだ。
ルーシーさんが勤務していた東京・六本木のクラブでの聞き込みから、外国人ホステスを海に誘う不審な行動をとっていた織原容疑者が浮かんだ。さらに、ルーシーさんの友人の携帯電話に、織原容疑者が購入した携帯電話から連絡が入っていることも分かった。
「ルーシーさんの事件にかかわっているに違いない」。捜査本部が捜査を強化すると、織原容疑者の周辺には、神奈川県逗子市の所有マンションに連れ込まれ、乱暴された外国人女性が次々と浮かんだ。
捜査本部は昨年10月、カナダ人女性(当時23歳)に対する準強制わいせつ容疑で逮捕した(起訴は準婦女暴行罪)。自宅マンションなどの家宅捜索では、女性が暴行されるシーンを写したビデオテープ約100本のほか、劇薬のクロロホルムや催眠導入剤が大量に押収された。「相手には金を払っている。同意のうえだった」。織原容疑者は、容疑を否認したが、「薬品を使い、意識を喪失させることまで合意だったはずがない」というのが、捜査本部の見方だった。
捜査本部は、類似事件での逮捕を繰り返したが、織原容疑者はいずれも否認した。捜査本部は今年2月上旬、打開策として、ルーシーさんの遺体の捜索を本格化させ、織原容疑者のマンションに近い三浦市の海岸で、ルーシーさんの切断遺体を発見した。
ルーシーさんのものとみられる金髪、ルーシーさんが撮影された未現像フィルム、遺体の切断に使ったとみられる電動のこぎりの購入を示すレシート……。捜査本部は、既にルーシーさん事件と織原容疑者を結び付ける状況証拠をいくつも見つけていた。「これまでの6度の逮捕容疑も、ルーシーさんを死なせた経緯を推定させる状況証拠のようなものだ」。ある捜査員は、そう話した。
【ロンドン6日笠原敏彦】捜査の進展に、英国南部・ワイト島に住むルーシー・ブラックマンさんの父ティム・ブラックマンさん(47)は、「いずれ(ルーシーさんの殺人事件で)再逮捕されると思っていたが、驚いている」と心境を語った。ティムさんは「織原被告が容疑者であることはさまざまな証拠から間違いないと思ってきた。これほど早く逮捕するとは思わなかった」と話した。
ルーシーさんの葬儀は先月29日にロンドン近郊の教会で行われたばかり。式には約400人が参列、祭壇にルーシーさんが好きだったブルーのドレスが飾られた。ティムさん、そして、母親のジェーンさん(46)は「せめて、娘は自分の身に何が起きたかを知らず、苦痛や恐怖を感じずに死んでいったと思いたい」と胸の内を漏らした。逮捕の情報は、警視庁の逮捕直後に英国警察を通じて伝えられたという。
………………………………………………………………………………………………………
「ホンダ」「イワタ」「タナカ」……。貸しビル会社代表、織原城二容疑者(48)は、60以上の偽名を使って外国人クラブを飲み歩き、女性を連れ出しては暴行していた。彼を知る人たちの印象はバラバラで、一貫した人物像が浮かばない。
1952年8月、在日韓国人資産家の二男として生まれた。東京の有名私立高校に入学したころ、東京都世田谷区に父親が所有していた土地・家屋を相続。「キャバレーやクラブに出入りしていた」と同級生は言う。
金の使い方は派手で、「文化祭の時、ステージに立ちたくて、友人に金を渡してバンドを結成したこともあった」。美声で英語の歌をきれいな発音で歌った。
高校卒業後、約3年間米国に留学。日本国籍を取得後、82年に有名私立大学を卒業した。87年に母親が所有する大阪市北区堂島の土地を購入し、翌88年、貸しビル会社を設立した。
バブル景気に乗り、北海道から九州までの飲食店ビルを次々と買収。約20件のビルやマンションを所有するまでに事業を拡大した。貸しビル会社の男性社員(42)は、「いつもネクタイにスーツ姿で、仕事をバリバリやるタイプだった」という。
しかし、バブル崩壊のあおりを受け、大阪・堂島の再開発に失敗。総資産が約42億円あるものの、負債は80億円を超えるとされる。
その一方で、外国人女性が勤める東京・六本木のクラブに頻繁に出入りを続け、女性を海へのドライブに誘った。わいせつ行為をされたというホステスは、関係者に「英語が上手で、一見、ユーモアのセンスもある『ナイスガイ』だった」と話していたという。
■ルーシーさん事件経過と捜査の動き■
2000年
6月下旬 東京・六本木のクラブで、ルーシーさんが織原容疑者を接客
7月 1日 ルーシーさん失跡
3日 ルーシーさんの友人が捜索願を提出、捜査開始
10月12日 織原容疑者をカナダ人女性に対する準強制わいせつ容疑で逮捕
27日 準婦女暴行罪に切り替え起訴
英国人女性に対する準婦女暴行容疑で再逮捕
11月17日 準婦女暴行罪で起訴
日本人女性に対する準婦女暴行容疑で3度目の逮捕
12月 8日 準婦女暴行罪で起訴
別の日本人女性に対する準婦女暴行容疑で4度目の逮捕
14日 連続婦女暴行事件で初公判
28日 日本人女性への準婦女暴行罪で起訴
2001年
1月 4日 別の日本人女性に対する準婦女暴行傷害容疑で5度目の逮捕
25日 準婦女暴行致傷罪で起訴
26日 オーストラリア人女性に対する婦女暴行傷害容疑で6度目の逮捕
2月 9日 神奈川県三浦市の織原容疑者のマンション近くの海岸でルーシーさんの遺体発見
16日 オーストラリア人女性に対する準婦女暴行致死罪で起訴
4月 6日 ルーシーさん事件で逮捕
2010年12月8日
4月1日北リアス線田野畑~陸中野田間復旧
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。