〔スペシャルリポート〕ソニー<6758.T>盛衰の時:アップルの巨大な影 平井新社長の「ゲーム」の結末

2012年 03月 26日 08:19 JST
 
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 [東京 26日 ロイター] 満身創痍でステージを降りるハワード・ストリンガー氏が残した遺産は、輝きを失った「SONY」ブランドだ。空前の4年連続最終赤字を受け、ゲーム事業出身の平井一夫氏が社長兼最高経営責任者(CEO)としてこれを引き継ぐ。

 戦後復興の町工場から世界を席巻したソニー(6758.T: 株価, ニュース, レポート)は今、アップル(AAPL.O: 株価, 企業情報, レポート)やサムスン電子(005930.KS: 株価, 企業情報, レポート)の隆盛の陰で存在感を失った。iPod(アイポッド)の協業で故スティーブ・ジョブス氏から誘いを受けたのは2001年。当時ソニーの時価総額は10兆円前後を誇ったが、今や1兆円台と、海外強豪に軽く買収されるほどの水準に落ち込んだ。

 ソニー再生の道はないのか──。この問いに答えたのが久多良木健氏だった。ソニー元副社長でソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)を立ち上げた「プレイステーション(プレステ)」の生みの親。「異才」の異名を持ちながら05年に志半ばにソニー本体の取締役を退任した。だが運命は交差する。SCE後継者の平井氏が、ソニーのトップに駆け上がる。

 東京都内の住宅街でロイターの取材に応じた久多良木氏は「ゲームのルールを変えて現状をひっくり返せるチャンスはいくらでもある」と語った。アップルも90年代後半に経営危機に瀕したが、ジョブス氏の復帰を受けて見事に復活した。ソニーもアップルも人が考え付かないようなことをどこよりも早く実現して世の中を驚かせてきた。だからソニーにも次のチャンスはある――と。

 アップルの時価総額はソニーの25倍。盟主の座は入れ替わり、圧倒的な差をつけられたが、ゲームは続く。次にソニーは巻き返せるか、それとも負けを繰り返して転落を続けるか。剣が峰に立つ平井氏の課題を追った。

 <スマートテレビ戦争前夜>

 「もはやこの局面でテレビを単独で展開できると思い込まない方がいい」。ソニー首脳はロイターに対し、パナソニック(6752.T: 株価, ニュース, レポート)・シャープ(6753.T: 株価, ニュース, レポート)との「日の丸テレビ」構想に言及した。ソニーが東芝(6502.T: 株価, ニュース, レポート)と日立製作所(6501.T: 株価, ニュース, レポート)と共同で設立する中小型液晶会社「ジャパンディスプレイ」がモデルで、政府の協力を得て日本連合で韓国勢に対抗する構想が「1つのオプション」という。

 ソニーにとって再生のカギを握る中核のテレビ事業は深刻な巨額赤字に苦しむ。この8年の累積赤字は7000億円超。価格下落と競争激化で、トップメーカーのサムスン電子ですら苦しい。超円高も重荷で巨額赤字を計上するパナソニックやシャープも同じ構図だが、事業統合論が出るまでにテレビの苦境は根深い。

 ソニー単独での再建計画は昨年11月に公表済み。2年後に黒字化する目標に向けて、サムスンとの液晶合弁会社「S―LCD」の解消を決めた。米国法人ソニー・エレクトロニクス(カリフォルニア州)のフィル・モリニュー社長はロイターの電話取材で「液晶工場を持たないことは利益面で有利」と述べた。台湾勢など巨大な液晶パネルメーカーから「格安のパネルを調達できる」からだ。

 だが、サムスン側はソニーとの液晶合弁解消を受けて1つの決断に踏み切った。赤字の液晶パネル事業を分社化して有機ELパネルを製造する。これまでの液晶合弁ではソニーとの協議で工場の運営方針を決めなければならなかったが、フリーハンドを得て一気に有機ELに舵を切る。サムスンとLG電子(066570.KS: 株価, 企業情報, レポート)は今年後半にも55型の大型有機ELテレビを発売する計画だ。

 サムスンとLGが市場投入を計画する有機ELテレビの価格帯は8000―1万ドルと予想され、同サイズの液晶テレビの10倍近く。平井氏も2月9日のロイターなどとのインタビューで「あと2―3年は液晶の時代が続く」として有機ELの時代がすぐに訪れることはないとの見通しだった。

 しかし、ソニーの見方は甘いかもしれない。久多良木氏はロイターに「有機ELは大方の予想を超えて、あっという間に普及が進む可能性がある。ブラウン管が液晶に置き換わった以上のスピードで進んでいくのではないか」と述べた。その上でソニーを念頭に「日本の家電業界が、まだ2―3年は液晶でやっていけると思っているなら致命的な判断ミスになるかもしれない」と警鐘を鳴らした。

 折しもアップルがテレビ市場に参入するとささやかれ、スマートテレビ競争へ一気に火が点く情勢だ。久多良木氏は「サムスンやLGがスマートテレビへの移行に合わせて有機EL搭載で誰でも分かる差別化を打ち出そうとしているのに、日本メーカーは安く買える液晶パネルを使った従来型テレビで勝負するのでは、スマートフォン時代にフィーチャーフォン(従来型携帯)で戦うようなもの」と懸念する。

 ソニーは07年に11型の有機ELテレビを世界で初めて発売したが、大型化に乗り出すことなく生産を中止した。パネル工場を持たないソニーはディスプレイの差別化勝負を捨てたようにみえる。だが、新興国での格安テレビに走るなら「SONY」ブランドを維持するのも難しい。かつてソニーの子会社アイワ(AIWA)は、生産を人件費の安い海外に移して低価格路線を走ったが、海外メーカーの台頭でコストの優位性がたちまち消えてブランドそのものが消滅した。

 ソニーは10年10月に世界に先駆けてアンドロイドOS(基本ソフト)搭載の「グーグルテレビ」を米国で発売したが、LGやサムスンが追随してきており、アップル参入を前にスマートテレビの戦略に腰が定まらない。すでにスマートフォン市場はアップル・サムスンの2強に埋もれているが、次の時代のテレビ戦争をソニーがどう描くのか、明確な道はまだみえていない。

 <OS戦争、入り込む余地なし>

 テレビ事業の立て直しとともに平井氏に課せられているのはネットワーク戦略の結実だ。昨年4月に情報流出事件を起こすなど混乱が続いたが、同年秋には、映画・音楽・ゲームのネットサービス「ソニーエンタテインメントネットワーク(SEN)」を立ち上げた。またテレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットを重点端末に位置付けて、2月には携帯合弁ソニー・エリクソンの完全子会社化を完了した。

 だがアップルの背中は遠い。アップルのネットサービスの成功は、「アイチューンズ」をiPod(アイポッド)・iPhone(アイフォーン)・iPad(アイパッド)の端末に配信するだけでなく、「iOS」という独自OSで支配領域を確立したことにある。パソコンの世界を制したマイクロソフト(MSFT.O: 株価, 企業情報, レポート)のウィンドウズOSに続き、モバイルの世界では、アップルとグーグル(GOOG.O: 株価, 企業情報, レポート)の2強によるOS戦争の構図が完成している。

 このOS戦争にソニーは入り込む余地もなかった。むしろグーグル陣営の一員としてスマホやタブレットのほかテレビやウォークマンにもアンドロイドOSを採用。「タブレット端末はアップルに次ぐ業界2位の座につきたい」と述べるなど、ネット業界の勢力争いには参加する意欲すら示していない。

 プレステ事業の赤字を5年ぶりに解消した功績で副社長に昇格し、社長に上り詰める平井氏は、ゲーム事業の収益基盤が安定した今、世界規模でのネット業界の勢力争いに打って出るのか。2月9日のインタビューで平井氏は「プレステの事業モデルをソニー全体に広げていく。プレステはハードがソフトを強化し、ソフトがハードを強化するモデルで、それらはすべてネットワークでつながっている。ソニー全体に応用できる」とだけ述べた。

 平井氏がかつての久多良木氏のようにプレステOSを駆使して、今のアップル・グーグルのOSの牙城を攻めるシナリオは考えにくい。もはやモバイルOSの世界では2強で決着がついているからだ。ただ、このOS戦争は「端末側」の勢力争いだ。今後のクラウドコンピューティング時代では「サーバ側」でのルール構築に舞台がシフトする。すでにフェイスブックやツイッターが、端末側のOS戦争を無視して独自の支配領域を築きつつある。

 平井氏の「プレステ事業の応用モデル」の詳細は不明だが、ロイターに対して久多良木氏は、自ら立ち上げたプレステ事業について「ハードとソフトを区別して考えたことはない。一般的なハードに既存のコンテンツ群を流し込むというモデルではない。ハードもソフトも一体で生み出した」と述べた。

 

 その上で「アップルが提供しているユーザー体験もハードとソフトが不可分のもので一体だ。平井はSCEで長年しっかりとキャリアを積んできたので、ハード・ソフト一体で新しいユーザー体験をトータルで提供するビジネスをよく理解している」と期待する。果たして平井氏はクラウド時代においてネット業界の勢力図を塗り替えるだけのモデルを構築できるのだろうか。

 

 <ソニーとは何か>

 「ソニーの本業はテレビと言われるが、それはおかしい」と述べるのは前CEO兼会長の出井伸之氏だ。東京大手町で自ら創業したコンサルティング会社クオンタムリープで取材に応じた。出井氏は「日本からみればハードウェアの会社だが、テレビやビデオやオーディオの伝統的なソニーだけでない。パソコンやゲームのネットワークハードに音楽・映画・金融を加えると、それが売上の半分以上を占める。ソニーはネットワーク化の方向に進み、サービス産業を始めた会社だ」と語り、ソニーをエレクトロニクス企業と定義されることを嫌う。

 出井氏が社長に就任したのはウィンドウズ95が発売された95年。同氏は、「インターネットはビジネス界に落ちた隕石」と述べ、それまでハードウェア製品が中心だったソニーの経営をネットワークとソフトウェアの路線へと急速に舵を切った。05年の退任までの10年間で連結売

 
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