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たぶんこれが、最終投稿です。
稚拙ながら、書いてみたバトルを楽しんでいただければ幸いです。
小学生編(前期)
挿入話 δ月σ日 高町なのは2
『Wooooooo!!』

 なのはが想像した痛みはいつまで経っても訪れない。だが痛みの代わりに耳へ突き刺さった怪物の汚らしい叫び、そして顔に感じる正体不明の暖かい毛むくじゃら、右手には先程受け取ったレイジングハートの硬い無機物の感触、そして自分が地面で仰向けになっていることだけはなにも見えない現状でも理解することはできた。
 もぞもぞと顔の上で動く毛むくじゃらがこそばゆい。顔に乗っかる物体を手で退けると薄暗い夜空と赤い月が目に入りこみ、まだ事態が安堵出来る状況でないことを認識する。

『Aaaaaaa!!』

 真っ先になのはが視線を向けたのは、地獄の怨嗟のような声で哮る怪物だ。だがその姿は異端の存在である怪物としても異様としか言えない姿に変わり果てていた。
 胴体から生えているコンクリートの柱、よく見ればその柱は怪物をグロテスクな姿で地面に縫い付けれている。
 だがそれでも怪物が弱った様子は無く、抜け出そうと足掻くたびに彼を構成している体の一部が粘液の肉として削げ落ち、分離した黒い液体はそれ自体がまるで別の生物ように蠢きながらゆっくりとなのはの元へ向かう。
 その情景を見たなのはは薄気味悪さから鳥肌が立ち、怪物が自分を殺す気でいると知る。

「ここに居るのは危ない、早く怪物から距離を置いて!!」

 人によっては吐き気を催す惨状に思考停止していたなのはだが、見当たらなかった筈のフェレットの声が聞こえたことを切っ掛けに停滞した思考が再び動き出す。聞こえた声を頼りに音源を辿っていくと、自分の左手で背中を掴まれたフェレットが、どうにか降りようと地面につかない足を必死に前後に振っていた。
 なにこれ、かわいい。などと思いながらもこの地獄のような光景が広がる場所から逃げるため、180度回転し逃げ道を確保する。振り返ると折れた電柱が視界に入り、怪物になにが刺さっていたのかを理解し、なのはは左手に掴んだフェレットをそのままに綺麗なフォームで全力疾走でその場から逃げ出した。



「はぁ、はぁ……。フェレットさん大丈夫?」

「特に怪我とかはしてませんので大丈夫です。……背中が痛いの以外は」

 数百メートルほど走った十字路で左手から解放されたフェレットはなのはに聞こえない声量で呟き、全力疾走の際に振り回された疲労からなのは同様に一息ついた。幸いなところ怪物はフェレットが知る限りもっともマシなケースであり、あの障害をすぐに取り払えることはできない。
 簡単に振り払えそうに思えるが、体の中心を貫くコンクリートの柱は重しとしても十分で、怪物には工夫して抜く程の頭も存在していない。 
 だからと言って油断が出来ないのも現状である。

「あなたの方こそ大丈夫ですか……えっと」

 だが、一息は点ける時間的余裕は稼げた筈なので、今の内に自分が出来ることは済ませておこうと考え、なのはに話しかけたフェレットだがお互い自己紹介すら澄ませずにいたことを此処に至ってようやく気がつく。

「なのは、高町なのはだよ」

「なのはさんの方は怪我は?」

 大丈夫と言って、なのははフェレットを撫でる。

「私を助けてくれたのはフェレットさんだよね、ありがとう。……そうだ名前はなんて言うの?」

 要求して名乗って貰っておきながら、自らは名乗り忘れたことを、気が効かないと思いいつ、そのことをなのはに言われてからフェレットも自己紹介、そして義務を果たしただけで無暗に感謝される訳にはいかないので、自分の彼女に対する責任を確かにする言葉を名乗りに続けて言葉にする。

「ユーノ・スクライアです。助けた件に関しては、そもそも僕が無責任になのはさんを巻き込んでしまったことが原因ですので……」

「なのは」

「へ?」

 自分が負ったなのはに対する責任確認の言葉を遮り、いきなり自分の名前を口にしたなのはの行動に、ユーノはなのはの意図することが分からずポカンとした。

「親しい人たちは私のことをなのはって呼ぶからユーノ君もそう呼んで。あ、なのちゃんでも良いよ、幼なじみのえい君とそのお父さんは私のことなのちゃんって呼ぶから。あと苦手だから敬語はなしでね」

「……じゃあ、なのはって呼ばせて貰います」

 戸惑い気味のユーノに名前を呼ばれなのは笑顔で頷いた。自分が感謝される謂れなどないことをなのはに伝えたかったユーノは、話を途中で切られてしまい、なのはにそのことをどう伝えようか困ってしまった。こちらか振る話としては不自然であり、ぶっちゃけタイミングが失われてしまったためまた次の機会を待つしかない。
 どうしようかと考えて、ユーノは事態が相変わらず緊急事態だったことを思い出す。

(緊張感が欠けすぎだろ、僕は!?)

 それはなのはの方にも言えることだったが、彼女はもともと無関係だった人間。安堵感の延長線で緊張を緩めるのも止むなしなので、少なくとも自分だけでも気を張っていなければならないのに、と己を戒めた。
 2度に渡って危機を乗り越えてしまったのが、安堵し過ぎている原因なのだろうとユーノは考える。実戦経験の無い身で異形の怪物を2度も切れ抜けてしまったため、もし再び襲われても3度目もあると油断してしいるのだろうと。なのはが車で突撃しようなどと笑顔で突拍子もないことを言ったことも少なからず原因なのかもしれないと、一端思考を終えた後でユーノは付け足した。

 それにしても、とユーノは付け足したなのはの言動を思い返す。
 一般人が怪物を倒す選択肢として考えれば数少ない手段の中で、考えられない手でもないかとも思うも、それでもあまりにも常識はずれな思考回路だ。そもそも一般人はこの状況下でそんな結論は思いつけないし、思いつけても普通はリスクが高すぎて実行に移そうなど思わない。
 ぶちゃけ、少し頭おかしいんじゃね? と思わずにはいられなかった。

 なのはの顔をちらりと横から見れば、どうしたのと問いたげにユーノを見返してきた。思考回路がまともだろうかなどと考えていることは見抜かれてはいないだろう。

(まぁ、あの状況じゃ他に有効な手段が有った訳じゃないから、豪胆な子なら実行に移そうとするかもしれないけど……)

 その点を考慮してもなのはの行動は、男らし過ぎると言うか、リスクに対する頭の螺子が数本外れてそうとか、思考回路がまともな繋がり方をしてなさそうとか、豪胆の一言で現すには行き過ぎた言動だったとユーノは思う。やはり、人より勇ましい女の子では説明できないなぁ、とユーノは締めくくりこれ以上思考を割くのを止めた。

 事態を進めるために、怪物の横槍によって妨害されてしまった話を再び、なのはに振ろうとユーノはなのはに向き直る。だがそこでなのはの顔を改めて見直し、ふと違和感を抱いた。
 一見先程までと変わらないように見えるが、若干表情が強張っているようにユーノは感じる。そして思い返す、自分がなのはを助けた理由を。

「さっき震えていたみたいだけど大丈夫?」

 指摘されたなのはの表情が固まる。ユーノは触れてほしくなかったところなのか、と考えつつも恐怖を抱えたままではなのは本人に悪影響を及ぼすことは分かり切っているのであえて、察しつつもなのはの返答を待ってから踏み込むことにした。この状況、下手しなくともなのはの命に関わる問題となる。
 巻き込んだ責任としてユーノはなのはを生かして彼女がいた世界に返す義務を感じていた。故に余計なことであってもこの場では、相手の心情は無視すると決断する。

「あ、あははは……。生きて帰るために頑張って恐怖心とか捨てたつもりだったけど、捨て切れてなかったみたい……。やっぱり、死ぬのってとんでもなく恐いんだね。
 死ぬかもしれない恐さをあそこまで身近に感じるとなにも出来なかった」

 恐怖を思い出し、なのはの体が再び恐怖で震えた。だが、なのはすぐに(かぶり)を振って恐怖を払う。
 その様を見ていたユーノは申し訳なさそうにだが、言葉を紡ぎ出す。

「……そうだね。なのは、さっき言ったよね。力が欲しいって……、それは何で?」

 時間はない、だが確かに僅かな猶予はある。先程は緊急事態だから、この問答を飛ばしたが力を渡すつもりのユーノとしては僅かな時間があるのならば答えて貰いたい。
 だが、なのはは沈黙した。それは彼女にとって知られて欲しくない、自分だけが知っていれば秘め事なのだろうとユーノは考える。
 だが答えて貰わなけらばならない。力を渡す身として、高町なのはという人間のあり方を疑問に思ったからには答えを出して欲いと彼は思う。先程は人に頼りたくないと力を欲する理由は言ったが、それが『なぜ』なのかは答えて貰っていない。
 故に、

「君が無理やり恐怖を振り払うのも、それが原因?」

 余計なことだが踏みこむ。巻き込んでしまったが故の責任を果たすため、身勝手な理屈と思いながらも彼女が望む形での責任を取る最適な方法を選択する。
 他の手段はもしかしたらあるのかもしれない。けれども、ユーノには思いつけなかった。
 だから、自分でも嫌な選択を己に架す。だが、もしかしたら嫌な手段だったから思いつたのかもしれないとユーノは思った。

(自分が間違いって認識してから、卑屈になった気がするもんなぁ)

 少なくとも自分としては正しいと思ったしたことが、間違いなのだと他人指摘された訳でもなく自分で気がついたのもあるのだろう。他人に指摘された場合、指摘した人物ユーノの一から十の行いをすべて見ているわけでもないから、間違いを全てを指摘できないだろう。だが、自分で気がついた場合は今回だけではなく、過去に類似した行動も間違いだと思えてくる。
 そういうのを考えると若干だが昔の自分に対して自己嫌悪も抱くし、卑屈にもなりたくなる。

 ユーノがなのはの顔を見れば、ユーノの言葉が図星を突いたのか驚きが浮かび上がっていた。それから一息の間を置き、なのはが言葉を紡ぎ出す。

「ユーノ君、何でそんなことを今聞くの? あの怪物を倒す方法があるなら先に、そっちの問題を片づけるべきじゃない?」

「少なくともあと2、3分の時間は稼げると思うから、それまでには終わらせるよ」

 なのはの言葉を最後まで聞いて、真っ先にユーノは迫りくる危険に対しての返答をした。そして、なのはが問いかけた疑問の内、本題の方へ移る。

「なのはは言ったよね。僕が抱えている問題を解決してあげたいって」

「へ……?」

 一瞬戸惑いを見せたなのはは数秒ほど思考し、そのことを思い出したように頷く。だがなのはの表情には、なぜそれが自分の問いに対しての返答として、ユーノが口にしたのが理解できないのか、困惑の表情が彩られた。
 なのははおかしいことを言った訳ではない。他人(ひと)が聞けばお節介だが心根が優しい少女なのだろうと思うだろう。そしてユーノ自身もその言葉自体は頼れる人間が居ない状況でとてもありがたく感じるモノだとおもっていた。
 だが、巻き込んだ人間としては『ありがたい』の一言だけで済ませて良い筈がない。様は言い方を変えれば、こちらの事情を理解しないまま介入してくると、巻き込まれただけの外部の人間が言うのだ。

「なんでそんなことが言えたの、普通は君みたいな女の子はあんな目に会えば怖くて言えないよ。それだけじゃない、さっきまで恐怖で震えていたのに今は怪物に立ち向かおうとしている。
 僕は、君と言う人間がどんな考えを元にそんな強い意思を持っているのか、どうしてそんな君が力を欲しいと言ったのか理解できない。人に頼りたくないの一念でそこまで至れるとは僕には思えないんだ」

 ユーノが抱えている事態の危険性を確認すらせずに、なのは手助けすると発言した。想像できない訳ではなかっただろう、ユーノはそう考える。
 なのはとユーノが出会った段階で既に怪物との邂逅は済んでいた。なのはほど賢しい少女が怪物と自分の関連性がないとは思わないだろう。だからこそ問うのだ危険が分かって、なぜ首を突っ込む発言が出来たのか。日常に回帰したいと自分に言っていた少女が、なぜ危険に関わろうとするのか。



 ユーノの問いに対して、

「……私が負けず嫌いだからじゃ――」

 駄目かな、そうなのはは答えようとしたが、ユーノの真剣な顔が視界に入ると偽りの言葉を閉じ込め、顔を伏せた。路面しか見ないなのはの視界の端で僅かに映るユーノが頷く、納得できないと。
 だがなのはにとって、その本心を晒したことは誰にもない。否、それだけではない。その決意は誰かに晒せばかつての弱い自分に戻る気がして、誰にも言えないモノだった。誰かに頼ったから起きた結果がかつての幼なじみの負傷なのだと、理由などないが少なくともなのはだけはそう思っている。
 誰も自分を責めなかった。その時のことを知る者は3人しか居ないからだ。内の1人は刑務所に服役し、もう1人は自分、そしてその時のなのはよりも事態を知っているであろう衛はそのことに関しては何も言わない。

 責めてもらった方がまだ楽だったのかもしれない、だが彼は優しいから責めてくれない。その優しさはその時に始まったことではなく、不意に見せる気まぐれなモノでもなかった。昔から理不尽に怒りをぶつけようが、うっとおしいくらいについて回ろうが、勉学の面で迷惑を掛けても、いつも苦笑いしながらそれらを赦してくれる。
 普通なら怒るようなことを含めてたぶんそれらが全部彼にとっては楽しいことで日々そうで会って欲しいと望んでいるのだろうとなのはは思う。カレンダーに記される月火水木金土日、四季に至る全てが衛にとっては楽しいもので、それはこれから先の未来も何ら変わることはないのだ。

 だがそれは――とっても自分勝手でずるいよ……。なのははかつてそう思った。
 衛を知る何人がその本質を知るだろうかと考え、きっと自分を含めてそう多くはないと自負ではなく事実としてそう思う。人として当たり前過ぎる程の衛の望みは誰もが持っているもので、実のところそれはとても稀有なモノだからだ。
 彼が望む本質は不変だ。だから何も変わらないでいて欲しいと思い、自ら何かを変えようなどとは思うことはない。例外こそあれど、良くも悪くも身を任せる性質で流れに逆らわずに受け止める。
 それはなのはたちとの関係にも言えることで、なのはがずるいと思うのはきっとそう考えているであろう衛が自分たちへの態度などを絶対に変えないことに言えた。

(なのに……私の手なんて引いてたんだよね)

 それは彼がいつまで自分を庇護下に置くと言うことであり、対等に歩みたいと思うなのはにとっては嫌な考え方としか思えない。それでも、対等だと思っていた頃はそんな彼でいいと思っていた辺りがなのはが自分を嫌悪する理由の1つだ。

(私もえい君のことは言えないよね)

 しかし手を引かれていることを自覚したから、嫌悪を抱いただけではなく、なのはは今のままでは自分は駄目なんだと知ることが出来たとも思う。衛の全てを肯定していた昔の自分だとも思っていない。
 だから変えようと思って努力している。だがその中核にあるのはやはり衛でそれはこれからも変わることはない。
 そう、そんな彼女だから、彼が高町なのはの行動の中核である限り自分は何でもできるとすら感じていた。それが実感なのか錯覚なのかは分からなかったが、そう思えるだけでなのはが決意するに十分足り得る。故になのは踏み出す。

「ユーノ君が抱えてる問題はあんな怪物を相手にすることで間違いないよね」

 刻々と問答を終わらせなければならない期限が近付く。恐らく残り数十秒もないだろう。怪物の咆哮がなのはの正面、ユーノの背中の遠くから聞こえた。

「うん、正確にはこの町に散らばった、あの怪物の核であるジュエルシードの封印だよ」

 なのははその言葉で確信した。自分に手を出す理由がある、中途半端ではなく無理矢理でも介入したい理由があるのだ。 
 あんな怪物たちが海鳴市に現れるなら、大切な人たちが傷つくかもしれない、その人たちが住むこの町が荒らされるかもしれない、何より衛が首を突っ込んで怪我するかもしれない。衛の性分だと事態を知ったら他人の気持ちを考えないで絶対に首を出すと断言できる。何しろ前科があるのだ。
 少しは勝手に守られる人間の気持ちも考えろ鈍感と言いたい位、衛はやる時は自分勝手にしてくれる。いざとなったら人知れず命を簡単に掛けて守ろうとする馬鹿が居るから、守られる自分も命を掛けてその馬鹿に知られず守ろうと思う。

「戦う理由はあるよ。海鳴市に居るみんなをジュエルシードの脅威から守りたいそれじゃ駄目かな?」

 ユーノは少し思考し、

「駄目じゃないけど、僕の質問の本質には答えて貰えないか……」

 困ったように笑い、身を翻す。ユーノが振り返り視線を向けた場所、なのはから見てもユーノから見ても正面に当たる赤い闇に閉ざされた先だ。そこから空気を脅えさせる怪物の哮りは、先程よりも周囲を威圧する荒々しい咆哮になっていた。
 しばらくすると咆哮が止み、ずぶりと肉から何かが抜ける嫌な音が辺りに響く。

「もうそろそろ来るね。
 ……なのはが首を突っ込みたい理由は分かった。多分もう君の意思を曲げるのは無理だろうから、最後に2つだけ言わせて。
 ――後悔しない?」

「うん」

 なのはは即答した。
 何かがぶつかった後、ゆっくりと何かを引きずるような音が闇の先から聞こえる。それはゆっくりだが、確かに少しづつ速度が上がって行きなのはたちの方へと近づいてくる。

「そっか。じゃあ僕は君がこれから後悔するかもしれないことがあったら、傍に居て支えるから迷いたい時は迷って。
 巻き込んだからには、君の思いが中途半端にならないように、君が望むように徹底的に巻き込む。それが――僕の責任の取り方だから」

 ユーノの後ろに居たなのはがユーノに並び立ち、コンクリート同士が擦れ合う音が不気味に聞こえてくる闇を見て言う。

「うん。これからよろしくね、ユーノ君」

 対等の場所に並ぶ2人、闇から見て左に位置するユーノがゆっくりと言葉にする。

「レイジグンハート、マスター権限譲渡、現使用者ユーノ・スクライアから現所持者高町なのはへ」
『マスター権限譲渡命令確認。――音声認識完了しました。マスター権限の譲渡先確認中――』

 なのはが持つレイジングハートがユーノの言葉を認識し、赤い玉体を発光させながら忠実に命令をこなして行く。
 1つの作業フェイズが移行する度にご丁寧に音声で現状のフェイズを述べて行き、数十は存在する作業フェイズを終わらせ10秒もせずに最終フェイズへとレイジングハートは移行した。
 そして、最終フェイズ――

『――マスター、お名前を』

 マスター権限の譲渡は、新たに変わったマスターの名前登録と音声認識を終えて終了となる。

「高町なのはだよ。これからよろしくね」

『名前登録、高町なのは――完了。
 音声認識完了。
 前マスターのマスター権限消去完了。
 命令された全作業行程(フェイズ)の終了を確認。これよりマスター権限譲渡終了します。
 ――遅れましたが、よろしくお願いしますマスター。ユーノも相変わらずよろしくお願いします』

 存在しない口を動かす代わりに、赤い光を点滅させながらレイジングハートは遅れた挨拶を交わす。その間にも闇の奥から聞こえてくる物を引きずる音は少しずつ大きく、その音を更に早くしていきなのはたちとの接触まで秒刻みの刻限が迫り始める。

「こんな状況で言うのもなんなんだけど、私はなにすれば良いか具体的に聞いてないんだけど……」

「まずはセットアップって言って、後はレイジングハートが教えてくれるからそれに従って」

 ユーノの言葉に頷いき、レイジングハートを握りしめ自分を奮い立たせるように、いつもより少しだけ深く息を吸って溜め、

「レイジングハート、セットアップ!」

『stand by ready. set up.』

 言葉にするとレイジングハートが機械的な声でそれに続く言葉を紡ぐ。

 次の瞬間、薄暗い赤一色だった住宅街に天井にまで届かんばかりの桃色の柱が灯台のように立ち上がり、辺りを照らし上げた。



 不気味に染まる赤い闇の中、『ソレ』は地面からコンクリートの柱を胴体から生やし生物なら確実に死んでいる状況であるにもかかわらず、粘液状の体液を辺りに撒き散らしながら蠢いていた。
 『ソレ』は体の中心に背中から突き刺さったコンクリートを己の不気味な巨腕で引き抜こうと、手探りでもがきながら嗤う。
 『ソレ』にとって今揺らいでいる、先程逃げられた獲物たちの恐怖が、迷いが、信念が、決意が、嫌悪感が、未来への希望が、ありとあらゆる感情の揺らぎが『ソレ』を構成する身体を作り上げるモノになり、『ソレ』は紛い物の歓喜に打ち震えて住宅街全てに届くであろう咆哮を洩らす。

「Wooooo!!」

 紛い物の感情を持つ『ソレ』は、人の業――感情が形を成したモノだった。初めは核たるジュエルシードに集う残留思念の感情は小さな喜び、もしくは純粋な感謝の感情だったのかもしれない。
 だがその集った感情にいつしか悲しみや猜疑心や怒りや嫉妬、そういう負の感情が『掛け合い』性質が『正』から『負』へと反転した。再び反転すれば負の性質から逃れることはできたのかもしれないが、『ソレ』の原型になった核は『正』を掛け合わせ、『負』は付け足すに止め、結果として『ソレ』と言う怪物が誕生した。

 故に人の感情が揺らぐ度に『ソレ』は怪物らしく、進化し生物の形から離れて行く。不形定な肉体でありながらも四肢とある程度の胴体で辛うじて獣と言える身体の造形を保っていられたが、感情の揺らぎを『ソレ』が感じ取る度に己の肉体としていき、獣としての形が崩れ益々怪物染みた造形へと変異していく。
 背中の中央、丁度両腕の間に当たる位置に太さ1メートル、長さ3メートルはあるかと言う巨大な5本目の腕が生えてくる。対となる6本目は生えず、代わりに5本目の腕の掌には、掌を覆うように存在する大きな目玉が1つ。
 自然界では大よそあり得ない奇数の腕を持つ怪物は、5本目の腕でしきりに視界の届かない背に目をやり、己に刺さるコンクリートを認識すると掌の瞼を閉じて柱を握りしめゆっくりと己に突き刺さる物を抜いて行く。

 辺りに不快な音が響き、コンクリートの柱が刺さっていた背中から黒い粘液状の体液を辺りに撒き散らし、抜けた勢いで空を切ったコンクリートの柱が民家の塀に激突し外壁を削る。怪物は匂いから己を覗き込んでいるであろう得者たちを覗き返しながら鈍い走駆を始め、まるで己に貸した枷を外して行くように緩やかにスピードを上げて得者たちへ向かって行く。コンクリートの柱は地面に端を擦りつけ走るとその音が怪物の近づく証明になり、恐怖を与えることが出来る。だから怪物は得者に自らが近づくのを知らせながら走ることにした。
 だが怪物が走る中でも得者たちの感情は恐怖を感じるどころか昂ぶっていくのを感じた。その昂ぶりがなんと言うモノなのかを怪物は知らない。だがそれは走り続ける己の体を更に作り変えて、さらなる怪物へと進化させる。

 一本道の住宅路を駆け抜けて行くとそれが見えてきた。得者だ。怪物が知らない感情の昂ぶり、それが額に3つ目の瞳を作り上げ暗闇で遠くを視認できる異常な視力を与え、先程まではなかった知力を得るに至った。
 2匹とも逃げもせず、怪物へ立ち向かおうと300メートル先の十字路で何かを握りしめ立ち塞がるようにこちらを待ちうけている。接触まで5秒も掛からない。
 これから獲物を蹂躙することに歓喜の感情が自分を打ち震わせそうになるも、浮ついた感情を四肢で感じる地面の感触を認識することで怪物の理性を繋ぎ止める。獲物を貪り食うまでは理性を保とうと言う保身の心が本能に動く己を戒める。

 接触までの秒刻みカウントダウンが始まり、段々と四肢に力が入り地面を駆ける度に地面を抉り怪物は歩みを進める。
 だが何事もおきないかと思われたが2のカウントが迫った時、突然得者に異常が起きる。

「レイジングハート、セットアップ!」

『Stanb by ready. set up.』

 風に乗って聞こえてきた少女の声と機械的な女性の音声。次の瞬間、得者の1つである少女を中心に溢れ出す膨大な量の魔力を感じた。
 魔力――この世を構成する元素の1つである魔力素を人間が自身の臓器たるリンカーコアに吸収し、扱うエネルギーであり怪物の核であるジュエルシードも魔力素を魔力へと変換させることが出来る。そのエネルギーは一言で言えば万能なモノと言える。人体の治療、特性次第だが発火現象に自身へ影響しない帯電、人の身だけでは不可能だが異形の形成に世界規模の厄災をも招ける。
 そんな力を幼い少女が己の身から、人としては最上に近い量を放出させている。その魔力は少女を取り込み天まで届く持ち主の色である桃色の巨大な柱を立ち上がらせていた。

 疼く。滾る。光を見た怪物は己の内側から感じるそれらに歓喜して、更に力強く地面を踏み締める。更に早く、一刻でも早くあの光の渦中に踏み込みたいと。怪物が駆け抜けた後には巨大なクレータが作られ、迸る破壊衝動は少女へと向かい――、

「Wooooo!!」

 怪物と少女は接触した。



 先ず先手を打ったのは、襲う側である怪物だった。先程生えた5本目の腕に掴まれたコンクリートの柱をなのはに対して遠慮なく横に振りかぶる。
 振りかぶられた巨大な柱は空を切り裂き、目標への障害となった電柱と民家の塀をついでに砕くと辺りにコンクリートの欠片が散逸し、怪物の肉体に突き刺さったがそんな事を気にする素振りすら見せず、怪物は強大な塊をなのはにぶつける。
 手応えを感じ次なる獲物である、なのはの傍らにいるユーノに目を向けようとした時、遅れてやってきた違和感に標的を逸らすのを止める。

 怪物がコンクリートを振るった場所を見れば、そこには傷1つ付かずに健在であるなのはが居た。だがなにも変わらないなのはだがその服装だけは先ほど怪物が襲った時とはまたく違うものを纏っている。
 白をイメージさせる衣装だった。黒いインナーを着衣し、白のロングスカートを履いている。左手には上部に赤い宝玉を嵌め込んだ機械的な杖を持ち、ツーテルだった髪をポニーテールに束ね睨みつけてくるなのはを怪物は見る。双眸をなのはから逸らさず、掌の眼で視界を見ると不自然な方向へと軌道を逸らされたのか赤い空が見える。
 何かで軌道を逸らされたことを理解しながらも、握りしめているコンクリートの柱を今度は振り降ろし、同時に怪物は右前脚でなのはを払い飛ばすように左へ薙ぎ払った。

「woooooo!!」

 攻撃を振るうと衝動が高ぶり、叫びが漏れだす。先ほどまでなら怪物は抑えようとしたかもしれないが、もう抑える必要も己の欲望を留めない理由など存在しない。だから全力で怪物は吼え、それに応じ気合の入った攻撃の速度と威力は先ほどとは比べようがないほど増すこととなる。
 そして縦と横から襲い来る攻撃になのはが下した判断は受け止めることだった。その場に2本の足で踏み止まり、攻撃が自分に当たる直前のタイミングを計る。

「レイジングハート!」

『portection.』

 攻撃が当たる寸前、攻撃が届いた範囲に丁度なのはを守る桃色の防壁が現れ怪物の攻撃を弾き飛ばす。タイミングを計られ右前足と背中の腕を弾き飛ばされた勢いは怪物の巨体を揺らがせ隙が作られる。そこになのはが握る杖――レイジングハートを向け、魔法発動のプロセスである『コマンド』が唱えられた。

「ディバインシュート」

 コマンドが唱えられたと同時にデバイスであるレイジングハートが魔法を認証し、魔法の処理を終えて発動する。
 現れたのは使用者の魔力色である桃色をした数cm程の光球。それが4つなのはの周りを漂い、一瞬の間をおいてその全弾が地面踏まず不安定になっている右側から、空を穿ちながら怪物の顎へ襲いかかり、体勢を崩しかけていた体を支え切れず大きな音を立てながら怪物は倒れ伏した。
 なのはが緊張の連続で乱れた呼気を整える。そこに杖に嵌った玉石を点滅させたレイジングハートが話しかけてきた。

『マスター上空へ逃げてください』
「いきなりどうしたのレイジングハート?」

 レイジングハートは何回か光を点滅させて、言葉を探すようにしてから発言する。

『マスターは空戦魔導士の適性があるようです。ですので地上で戦うよりも空戦を強いた方が有利です』

「けどユーノくんはどうするの。空を飛べないんじゃ――」

 言いかけて辺りを見渡すとユーノがその場に居なくなっていることになのはが気がつく。

『ユーノは自分が現状戦力外だと認識しています。賢明な彼なら私たちの足手まといならないように身を振る心得くらいは持っています』

「うん、それじゃあ――……どうやって飛ぶの?」

『――私がサポートしますので覚えてください』

 言うとなのはの体が空を舞い始めた。だが、慣れない浮遊の感覚に戸惑いバランス感を掴めずにいるが、そんなことはお構いなしにレイジングハートは飛翔魔法を使用し更に上空へとなのはの体を持ち上げる。

「レイジングハート降ろしてよ!」

『断わります。早く感覚を掴んでください、今のマスターに制御を任せるととんでもないことになりますので寄越せません』

「レイジングハートが無理やり空に飛ばすからでしょ!?」

『自由になりたければ、とっと覚えてください。敵も待ってくれませんよ』

「私思うんだけど、レジングハートって意外とスパルタだよね!」

『余裕がありませんので。相手の初激でリアクターパージを使ったんです。最初の攻撃で最終防衛機構を使わないとならなかったのは状況としては最悪ですよ。どんだけ余裕こいてたんですか』

「余裕こいてなんかないよ!」

 地表から高度30メートルの地点でそんなやり取りをしながらも、なのはが感覚を掴もうとしていると背面から不意になのはへ近づいてくるものを感じて振り返る。
 目を懲らすと見えてきたそれは地上から飛んでくるコンクリートの柱だった。それは投げ槍のように弧を描きながら音の壁に届く速さで、なのはよりも上へ昇りきるとあとはこちら目掛けて重力の加速を経て音速で落ちてくる。
 なのはが判断するには秒を要した。レイジングハートはなのはへ飛翔魔法の制御を明け渡し、受け取ったなのはが右へ避ける。コンクリートの柱はなのはを通り過ぎ民家の屋根へと落ちて行き、寸前で直撃を免れたかのように思えたが、

『Aaaaaaaaa!!』

 耳を刺す咆哮がどこからか聞こえ、抜け切らない警戒心が更に強まる。
 なのはとレイジングハートが警戒を抱くも、それは怪物らしく常識を打ち破る場所から現れた。
 民家の屋根、それもコンクリートの柱の落下地点だ。完全に不意を突かれた位置であり、なのはもレイジングハートも怪物に知性というものが存在しない前提で考えていたため、避けられることを計算して動くことを考えず、落下地点の確認をしなかった。故に不意を突かれる形となり気づくことができなかった。
 怪物は己の方へ落下してくるコンクリートの柱を、背中の腕で落下してくる先端を掴むと自分を中心に弧を描き柱を投擲する。力を受け止められながらも円を描き力を逃がすことのないように受け流し射出された柱は、先ほどまでの力を失うことなく更に怪物が改めて投擲した力も加わり音の壁を超え、空気を蹂躙しながらなのはに襲いかかる。
 そして怪物はコンクリートの柱の投擲と同時になのはのいる空へと前へ跳躍する。怪物が跳び上がると同時に飛翔の際に4本の足に込められた力に耐えきれず、怪物の進行の反対方向に屋根と2階部分が吹き飛び、隣の民家へ激突し家の外装と一部の壁に穴を空けた。

 先になのはへ牙を剥いたのは、怪物が投擲したコンクリートの柱だった。音の壁を超えた速度の数倍で向かい来るそれに人間のなのはは気がつかなかった。否、熟練の戦士ならば経験から来る感で身を捻るなりして、襲い来るものを確認せずに回避行動をとったのだろう。事実、コンクリートの柱は空を穿つ早さこそとてつもないものだが空中でコントロールされているわけではなく、軌道さえ分かれば避けること自体は造作もないことだった。
 だがなのはに経験を持ち合わせていない以上、それら一連の判断を数瞬で終えて行動に移すことはできない。先ほどの回避は速度が音速を僅かに超えたスピードだったことと、判断までに上昇を得てからの落下の猶予、そして何よりも攻撃に気付くことが出来たからだ。

 故に、なのはの足りないものをレイジングハートが補う。

『マスター。防御の後に来る追撃が来る可能性がありますので、警戒することを忘れず振り返って防御を』

 レイジングハートは内蔵のレーダーでなのは空間把握能力が接近を気付くよりも早く、自分たちに迫る物を把握し指示を出す。
 言われた通りに振り返ると視界の片隅でこちらに上昇している塊が見える。それが何かをなのはは理解し、空中で踏ん張りを利かせて来るであろう衝撃に備えた。そして凄まじい速さで上昇しきると音の壁を越えた数倍の速度で落下してくる。
 視界に落下する物を見た直後、襲いかかってきた衝撃がなのはの体を軋ませた。周囲にレイジングハートが展開したプロテクションがなのはを守るも、勢いを得て強力な投げ槍と化したコンクリートの柱が纏う力は、本来『弾く』ことを重点におかれたプロテクションの防御膜と拮抗するまでに届き、まともに食らえば即死を逃れらないことを容易に想像させた。
 少しずつプロテクションが軋み、防御膜に罅が入り始める。更に初めての空戦ということもあって、なのはは空での踏ん張り方が分からず、このまま現状を維持しよとすると防御自体に成功しようとも体をその場に留めることができず逆に自分自身が反発して吹き飛ばされる。

「あーもう!! レイジングハートどうにかすることはできないの!? このままじゃ……」

『――火事場の馬鹿力くらいしか現状の打開策はありませんね。マスター才能は変態的にありますけど、ぶっちゃけ今は弱いですし』

「今の言葉カチンときた。弱くて当たり前だよ!? 私、魔法使うの初めてなんだよ!!」

『だからこその馬鹿力です。どうにかしたいのならがんばって絞り出してください』

 やれば良いんでしょ!! となのはは叫ぶと、同時に自分の奥底から魔力を絞り出して放出していく。加減などなく溢れだす魔力は本来は単体では意味を成さないはずだが、高密度となりなのはの周りで陽炎のように景色を揺らすと、拮抗していたコンクリートの柱がそれに影響され軌道をほんの僅かに下に逸らした。
 次の瞬間、真正面からぶつかり合っていたため軌道が逸れた方向に弾かれて跳んでいき、そのコンクリートはなのはの真下に広がる公道のど真ん中に突き刺さり大地を割る。

「Aaaaaa!!」

 柱の軌道逸らすと、間を置かずに現れたのは先ほど民家を踏み台に跳躍してなのはの飛行する空中へ身を届かせた怪物だ。
 怪物は大木のように巨大な両前足を交差させるように振りかぶり、なのはを守る分厚い防御膜ごと押し潰すように桃色のプロテクションを掴むと怪力を発揮し圧力を掛け始める。なのはを守る防御膜は最初こそ抵抗こそしたが、弾き返すことができずに怪物の圧力を全体で受け止めることになる。

『――マスター、プロテクションが割られる前に怪物の懐を潜って逃げてください!!』

 最初に危険性に気が付いたのはなのはのサポートに回っているレイジングハートだった。プロテクションは弾くことで、その本領を発揮する防御魔法である。なのはの強大な魔力で作られた堅牢なそれは、熟練の魔導士でも破ることは易くはなく全力でかかっても割れない者すらいるだろう。だが、それは人間に限った話であり、目の前にいる怪物は人外だからこそ成せるとんでもない力技で、効率良く防御膜に守られているなのはごと砕く方法を持ち合わせていた。
 それは怪物が持つ巨腕で防御膜ごとなのはを握り絞めてしまうという怪物らしい人間にはできない力技だ。プロテクションは物理攻撃を弾くことに特化した防御魔法であり、防御力はそう硬くない魔法である。怪物の攻撃が物理を主だった存在だったため多用したが、本来の魔導士戦は射撃魔法を防ぐことに長けているラウンドシールドの方が防御魔法としては硬く優先される。『弾く』ことで戦場でのアドバンテージを得られるが、それほどに空戦魔導士は硬い防御魔法の方が優位なのである。
 それは空戦魔導士――特にミットチルダ魔導士は魔力=戦闘時に重要な能力の大半であり、そこに才能の要素が加わる。技術といっても要るモノは専科の専門技術と空中における空間把握能力ぐらいであり、近接戦における読み合いや相手との距離の把握はあまり重要ではない。もちろん、近接戦特化や万能型も存在しているので例外こそある。
 だがなのははミットチルダ魔導士の中で中距離センターバックのポジションを担う砲撃魔導士適性の持ち主であり、接近戦をする機会は少なく自身を鍛えるより砲撃の技術を研鑽した方が戦果に続く。故に体は基本的に体力こそ必要だが、瞬発力や反射神経は近接特化の魔導士に比べると見劣りする。
 なのはは更に言い加えると、いきなり戦場に立たされた存在だ。普通なら行われている基礎鍛錬を行わず、持ち前の膨大な魔力と天才的な魔導士の才能で有利に立ちなんとか戦状を維持してきた。だからこのように砲撃魔導士としての弱点を簡単に突かれてしまい、詰まされてしまう。

 なのはがプロテクションを割られる前に離脱を図るも、怪物は両前足で強固に防御膜を掴んでぶら下がる形でなのはに張り付いて引き剥がすことができない。引き剥がすための攻撃を取ろうにも防御魔法に魔力を集中させている状況では行うことができず、その一方でプロテクションは怪物の怪力に絞めつけられて少しづつ小さな罅を生やしていく。

『マスター賭けごとをしたことはありますか?』

 完全に手詰まりの状況でそう作戦を提案したのはレイジングハートだ。話を持ちかけられたなのはは一瞬なにかを考え、それからレイジングハートに応答する。

「したことはないよ。こんな状況だったら賭けをするのもいい気はする、他にいい案なんてないからね」

 困ったような苦笑いを浮かべて笑い、なのはは私からも聞きたいことがあるとレイジングハートに問う。

「私も1個怪物を倒す方法を思いついたんだけどこれやるって言ったら、無茶苦茶なことでも付き合ってくれる? レイジングハートの協力が必要なんだ」

『――内容次第ということで』

 レイジングハートは何度か自身である杖に嵌まった玉石を点滅させしばらく間を置いてから答えるも、なのはが、

「その時になったら付き合わざる得ないよね」

 という言葉を聞き諦める。そして同時にとんでもない少女をマスターにさせられたものだと今更ながら考えるも、思考処理は玉石の点滅で分かるのでなのはには何かを考えていることがお見通しであった。だからレイジングハートは生還したらユーノに文句を言うことを決めた。
 そうは決意したものの思考していることすらばれて、機械らしくなく憂いの気持ちを感じてしまう。その擬似的な気持ち誤魔化すように、

『そろそろです、タイミングを合わせてください』

「レイジングハートもお願いね」

 この状況を切り抜けることを考える。成功率は30%もないと出ているはずなのに不思議と失敗する可能性を微塵も考えなかった。不思議と少女と一緒なら切り抜けられる気すら、レイジングハートは感じる。少々、自分勝手に意思を通そうとするところはあるが、まぁそれは子供だからそういうところは少なからずあるのだろう。そう信じたかったためレイジングハートは己の記憶領域に無理やりそう刷り込んだ。世の中機械だろうと諦めは肝心だと言うことをレイジングハートは知っている。

「Gaaaaa!!」

 外周が皹だらけになり何時瓦解してもおかしくないなのはを守る防御膜へ怪物は更に力を加えて止めを刺しに来た。力の加圧と共に怪物から咆哮が漏れ出し、至近距離から聞いているなのははそれを耳障りに思いながらも逆転のチャンスを掛けたタイミングをレイジングハートと共に計る。そして――、
 桃色の防御膜が儚い魔力の飛沫となり崩れ、怪物の巨腕がなのはへと迫る秒に満たない時間――待ち望んだタイミングが訪れる。

 怪物の巨大な両前足の掌がなのはを握りしめた。確かに感じる人間を手に納めた感触を感じ、そのままなのはを握りつぶすために力を込める。そうすれば、そうすれば人間の少女のミンチとなった肉塊が、己の掌の中で出来あがっている。その筈だった。

「Aaaaaaaaaaaa!!」

 怪物は咆哮した。欲望を満たした満足からではない。
 なぜそうなったのか怪物には理解できなかった、肉塊を作り上げている筈の両前足は消滅した。そして襲い来る前足部分の腕を失った虚無感、空を留まる支えを失い落下していく己の肉体。肉塊にしたはずの少女は健在で、杖を左手で構え臨戦態勢でいる。
 怪物の咆哮、それは未だに満たされることのない欲望、そして己の奇をなんども突いて苦汁を舐めさせられ我慢ならずに上げた悲観の叫びだった。

 なのはが怪物の腕を消滅させた方法――それは至ってシンプルなものであり、バリアジャケットを構成する魔力を瞬間的に開放し更に自らの魔力を放出出来る限り出しきると言う、単純でありながら本人に一定の魔力の才覚がなければ成し遂げることができない荒技だ。本来は拘束時にバリアジャケットの魔力を全て解き放ち拘束から逃れるジャケットパージと言う魔導師の行う技能だが、今回の場合握りしめられていたため拘束から状態から弾き飛ばす技では足りなかった。そこでレイジングハートが考えたのが本人の魔力を、バリアジャケットから瞬間開放する魔力に上乗せして拘束からの『解放』ではなく、拘束している元凶を『消し飛ばす』方法だった。

 発想も技事態も単純だが賭けになる要素は多数存在した。先ずは瞬間的に開放される魔力にタイミングよく魔力を上乗せできるかどうかという点。次になのは自身の魔力の瞬間放出量、例え魔力に上乗せできてもなのはの膨大な魔力を注げなければ意味はない。
 そしてその衝撃が怪物に通じるかどうか、弾き飛ばすだけでは状況を打開することは無理だとレイジングハートは判断していた。弾かれた場合、怪物の両腕は吹き飛ばされるであろう。だが怪物には5本目の腕を持ちそれでなのはにしがみついてくる筈だ。魔力の上乗せに集中したなのはがすぐに回避動作に移ることも魔力を行使することも不可能となり故に掴まれた場合、今度こそ怪物の両の掌でなのはが肉塊にされるだろう。
 だから、レイジングハートは賭けたのだ。なのはの膨大な魔力で怪物の両腕が消し飛ぶことを。賭けをする需要は可能性こそ低いが多大に存在したからだ。
 怪物の体を構成しているものは思念体である。思念体とは本来、存在不確かなほどに認識不可能なモノであり物理干渉不可能だが、それは魔力により肉を得て怪物の形を成した。普通の肉体ならばレイジングハートの賭けは成立しなかっただろう。だが魔力同士はぶつかり合い反発すれば、最終的に弱い方が霧散し消える。怪物の両腕は魔力同士のぶつかり合いに置いて、密度がなのはの瞬間開放した魔力よりも少なかったため消し飛んだのだ。

 だが怪物も何もせずに落下をすることを受け入れず、なのはを殺すための次なる方法をすぐに叩きだす。背中から生える腕を伸ばしまだ動くことができずにいるなのはのスカート部分を掴むと、なのはを支点に自らの巨体を持ち上げる。

「ぐっ……!!」

 怪物が自身を持ち上げた時に加えられた力で支点となったなのはの体が沈んでいく。それでもなのはは墜落だけはしないように歯を食いしばり、飛行魔法の魔力の維持だけはした。結果として墜落だけは逃れることができたが怪物に移動を妨害され、更に上空を取られると言う状況だ。
 なのはは頭上から滴り落ちてきた透明の生温かい粘液を頭から被り、上方になのはが目を向けるとそこには深い深淵が存在した。本来なら目に入る筈の夜の帳ではなく、それは怪物が大きく開口した口腔だ。なのはをそのまま食い殺すべく口を開き、狙いを定めていた。
 回避手段をなのはが考えるも、怪物はこちらを掴んでおり逃してはくれない。飛行魔法による回避を行うには、移動を据えて作られた飛行魔法の初速はたかが知れていて、命は助かっても確実に体の一部を持っていかれることが容易に想像がつく。

『マスター、後ろへ飛び退いて下さい!!』

 後ろへ飛び退く。簡単な指示のようで、なのはは一瞬考えた。ここは空中だ。飛行することは叶っても空中で地上のように飛び退くなどと、脚に地が着いていることを大前提する行動は不可能である。だがなのはは、一瞬だけ迷った者の足に力を込めて後ろへ跳躍した。
 飛び退くことに成功したなのはが見たのは、丁度目の前で重力に身を任せて落下していく怪物の戸惑いの驚愕し呆然としている表情と、その怪物の5本目の腕には桃色の魔力の残滓。更に何故かやたらと下半身がすうすうすると感じ、本人は気がつかなかったが脚部に桃色の小さな羽根が生えていた。なのはが望んだ機会が訪れたことを認識し気になることを無視して行動へ移る。

 なのはが最初にしたことは空中を蹴り上げてからの飛翔魔法で怪物の下を不意を取る形で位置取りすることだった。空中を蹴ることで初速を得るとなのはは飛翔魔法の制御を行い凄まじい速さで飛行して、落下中の怪物の懐へ潜り込んだ。そして左手に持つレイジングハートを握り締め、怪物の腹部を貫こうと腕を引き力を込める。

 しかし、なのはが行った一連の行動に、怪物は生存本能が全身で警鐘を鳴らし強烈な危機感が全身を巡る。これを食らったら自分の生は終わりだと、本来は抱かない未知の感覚に支配された怪物が防衛行動へと移った。背中の腕でなのはを弾き飛ばそうと腕を伸縮自在に伸ばし、なのはの元へと己の腕を急がせる。
 怪物の巨腕は凄まじい速度でなのはの元へ届き、レイジングハートが怪物の腹部を貫く寸前でなのはの体に触れた。

 弾き飛ばされる時に襲い来るであろう衝撃に身を構え、手放してしまわないように胴体を貫きにかかったレイジングハートの矛先を止めるなのはだったが、衝撃が来ると思われる瞬間になっても衝撃は訪れない。
 怪物の腕が緑色の魔力の鎖に拘束されているのなのはは見た。怪物の本体の方を見れば、懐に潜り込んだため全身こそ確認できないが腹にも怪物を拘束する鎖の一部が見える。

「Aaaaaaaa!!」

 怪物が雄叫びを上げ、拘束する鎖を破壊しようと全力で暴れるが強固な魔力で編み込まれた鎖は、怪物の最後の抵抗を受け止めこれ以上の暴力が振りまかれないように空中に縛り付ける。だが少しずつだがきしむ音が響き始め、怪物の拘束は長くは持たないだろう。
 だが、なのはが怪物に止めを刺すには十分すぎる時間を魔力の鎖は作り上げた。

「ありがとう、ユーノ君十分すぎるくらい助かったよ!」

 自分を助けてくれたであろう人物に礼を言い、なのはは足を踏ん張りレイジングハートを1度手の中で旋回させ怪物の腹部へ深く突き刺した。レイジングハートを突き刺した腹部からは重油のような悪臭を放つ液体が染み出し、なのはの顔に掛かる。鼻を突く悪臭と液体の嫌悪感を無視し、怪物を殺すためになのは次の段階に移った。

「レイジングハート、私の魔力を流し込むから思いっきりその子の中に放出させて!!」

『本当に無茶苦茶やってくれますね、ここまでくれば付き合わないと逆に私たちがやられてしまうんでしょうね』

 口では文句を言いつつも、レイジングハートもなのはに付き合い流し込まれる魔力を怪物の中に無理やり押し流して行く。体を構成する物質が魔力である怪物は、許容量を大幅に超えた外部から流されてくる魔力に悲鳴を上げる。
 電柱に胴体を貫かれた時も、コンクリートの散弾を浴びた時も、腕を吹き飛ばされた時すら感じなかったモノ――内側から全身を蝕む激痛を感じて怪物は苦痛と言うモノを知った。どれだけ喚いても、足掻いても、痛みを拒んでも己の体内に流される膨大な魔力は処理することが出来ず、怪物の巨体が膨張していく。あり得ない姿ではあったが一応生き物としての形を持っていた肉体が醜い肉風船のように膨らんでいき、体の造形を崩しながらも膨張は留まらず元々巨体だったが倍までには巨大化し拘束する鎖が体を締め付ける。

「Aaaaaaaa――!!」

 痛みから逃れるために暴れようとしても鎖が肉に食い込み暴れることすら許さず、魔力の鎖は怪物の体が膨らむ度にますます強く肉へと食い込み痛みとは別の苦しみを与えた。怪物の中で2つの苦しみが30秒ほど続き、怪物の肉体はとうとう自身の中でオーバーロードする魔力に耐えることが出来ず身に留まっていた魔力を噴き出しながら爆ぜた。
 魔力で構成されていた怪物の体は爆発と同時に無に帰る。正確には魔力が形成される以前の魔力素の状態へ。怪物の至近距離に居たはなのはは噴射する大量の魔力に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるすれすれのところで留まった。
 吹き飛ばされたショックで平衡感覚にダメージを受けたなのはが上を見ると、怪物の居た場所、グラつく視界の中で青色の宝石――ジュエルシードが現れたの見た。

「目的達成!!」

 平衡感覚が狂ったせいでふらふらと蝶のように上下に揺れながらも飛行し、淡く輝き魔力を辺りに撒き散らす青い宝石をなのはは手にした。

『マスター、ジュエルシードが未だに起動状態です。今すぐ封印を』

「――封印ってどうやれば良いの?」

 なのはの言葉にレイジングハートが絶句し、怪物の中に突っ込まれたため黒く汚れてしまった玉石を点滅させた。
 それを見たなのはが青筋を立て、レイジングハートを眼の前に持って来て睨みつけると文句を口にし始める。

「やり方教えて貰ってないのに分かる訳ないよ!!」

『普通、呪文は心の中に思い浮かぶんですが』

 正確に言うと、レイジングハートがなのはの求める物に応じる形で条件に合致する魔法をプログラミングするのだが、なのはは核の封印に関してユーノが言及していたことを忘れ怪物は魔力でごり押しすることしか思考していなかったため、魔法を作ろうとすると多大な破壊を及ぼす魔法――砲撃や適性がない筈の広域魔法などとにかく攻撃的な物しか思い浮かべていなかった。

「……電波でも受信するの?」

『どうやらマスターの心は濁っているようですね。封印に関して聞いていた筈なのに、執拗な攻撃に走るとは』

「あ……、そう言えばユーノ君封印がどうとか言ってたけど……。それって倒してからじゃないと駄目なんじゃないの?」

『いえ、別に倒す必要はありません。倒す必要があるとしても体を塵以下にするってどんだけ脳筋なんですか、マスター』

「じゃあ、できる時に教えてくれれば良かったんじゃないの!?」

『その時になったら付き合わざる得ないよね』

「うぐっ!?」

 レイジングハートの意思を無視して強行したことを突かれると痛いらしくなのはは一瞬押し黙るが、すぐに「全力でお話だよ!!」とどちらに非があるかを徹底討論しようとレイジングハートに舌戦を仕掛けた。
 勝負を仕掛けられたレイジングハートとしては、面倒ではあるモノのこれから相棒となるなのはの人となりを知るには良い機会なので受け立つつもりでいる。だがそれよりも、先に優先しなければならないことがある。

『マスター、先に封印をするべきかと』

「……そうだね」

 明らかに不満な顔をするなのはだが、目的を果たしていな時点で討論を始める気はない。大人しく引き下がり、下に居るであろうユーノへ封印を任せることにした。平衡感覚が完全に回復してないせいで目を回しそうになるほど視界がぶれているが、そんな状態でもすぐに見つかる位置にユーノは居た。
 地面に刺さった巨大な柱のすぐ根元で座り空を仰いでいたが、なのはが見ていることに気がつくと顔を向けてすぐに真っ赤になって逸らす。その様になのはが疑問を持ちながら下降していくと、ユーノが慌てだし今度は両前足で器用に自身の視界を塞ぐ。

「なのは、なんて格好してるの!? 早く隠すかバリアジャケットの解除をして!」

 地面に到着すると電柱に手を触れ、浮遊の感覚が抜けずグラつく体を支えるなのははユーノが何で赤面しているのか分からず首を傾げると、横からレイジングハートが、

『ユーノは下半身を気にしているんです』

 とユーノの心情を代弁する。なのはは疑問に思いながらも戦闘中に下半身が一瞬寒くなったことを思い出しまさかと思いながら見ると、案の定なかった。バリアジャケットのスカートがである。
 代わりに外気に晒されているのは薄い桃色をした可愛らしいパンツ。そう、男子禁制の秘密の花園、もしくは魔性の逆三角形、魅惑のトライアングル地帯として有名であり、一部では神が如き崇拝対象となっているPANTUである。
 それがチラリズムの欠片もなく、パンモロすら越え、もはや見せパンの如くなのはの下半身で存在感を放つ。更に先程、浴びた怪物の体液が顔で粘液を引いていて、ぶっちゃけ犯罪的にエロい。黒が白なら完全にアウトである。

「…………レイジングハート、これは何?」

『パンモロですね。公然猥褻物陳列とも言えます』

 間が生まれた。ユーノはひたすら声を掛けられるまで目を塞いでいるつもりだが、間が怖すぎて様子を伺いたくなる。だがそんなことすればなのはのパンツは当然視界に入るため、ぶっちゃけ見たいが理性を保った。

「どうして私のパンツはこんなにも自由なんだろうね」

『マスターの質問はとても哲学的ですね。その問いの理由は――マスターが自分自身で見つけるものです』

 なのはの中の何かがキレかけたが、何とか怒りに身を任せることなく耐え抜く。今回のような煽りは、生まれた時からの幼なじみである衛から散々受けるので踏みとどまることには慣れている。だが後で覚えていろとなのはは思いながら、バリアジャケットを解除する。
 純白の戦闘服から、いつもの服とミニスカート、左手首には使い込まれたヘアゴム。髪の毛はポニーテールからツーテールへ変わり、重油のような粘液は消え去るが僅かに匂いだけは残った。レイジングハートも待機状態の玉石へと戻るが、粘液自体が消えても僅かな匂いだけは残ったままだった。

「ユーノ君、気を遣ってくれてありがとう。顔上げて大丈夫だよ」

「あ、うん」

 ユーノが内心でドキドキしながらも両目を塞ぐ前足をどけて顔を上げると、普段着のなのはが瞳に映る。当たり前だがスカートを履いている。心の中で少しばかり残念に思いながらもなのはからジュエルシードを受け取り、封印処理を行う。
 ジュエルシードの封印と同時に空が赤から黒へと変わり、街灯に灯が点き夜道を照らしだした。なのはがようやく現実に戻れたことに安堵の吐息を吐くも、耳に突き刺さる絶叫にびくりと身を震わせる。

「なんじゃ、こりゃあー!!」

 叫び声がする方を見ると、それは住宅街の住人だった。怪物が空中に飛び出す際に思い切り屋根を蹴り飛ばし、2階部分をごっそり吹き飛ばされた家の持ち主だ。ちなみに隣の家は損害を受けているが、家族旅行の最中のため持ち主が絶叫を上げることはなかった。

「つうか隣の中庭にある瓦礫って俺の家か!? 保険降りるのこれ!? じいさん家は俺が弁償しなきゃいけないのか!? ローンが後20年は残ってるのに!」

「あなた、なに叫んでるの。ご近所迷惑――、あなた……なにをやったのかとっと吐きなさい」

「いや俺じゃないから、信じてくれ!! それより警察……いや保険会社に――」

「話を誤魔化すな。10分前まで2階があったのになんでお隣さんに、突撃してるのよ」

「嫁になりたかったからダイナミック突撃したのかもな」

「んな訳あるか!!」

 旦那の方は我が家の突然の惨状に若干現実逃避していた。

「ユーノ君私たちここに居るの拙くないかな……」

『もしかしなくても拙いです』

 ユーノの代わりにレイジングハートが答えるが、なのはは無視しユーノを見る。ユーノは冷や汗を掻きながら全力で頭を上下に振って、状況のヤバさをなのはへ伝える。
 なのははうんと頷くと、速攻でユーノを抱きかかえて全力疾走を始めた。遠くの方から聞こえてくるパトカーのサイレンにとても嫌な汗を掻きながらなのはは全力でその場から逃走した。


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