文章のご指摘がありましたらご指摘ください。
そして注意点が1つ。
前にも書きましたがIF要素ありの無印ですので、その点をご注意ください。
小学生編(前期)
挿入話 δ月ε日前日 プレシア・テスタロッサ
次元と次元の狭間を漂う巨大な庭園があった。
禍々しい雰囲気を纏うその凶悪な外装を見た人間ならば、殆んどが邪悪な存在が住む要塞としか思わないであろう。それほどまでにその庭園は強大で、鈍重で、人世から隔離された異端の気配を放っていた。
庭園は次元の狭間を漂っているだけのようで確かな目的の惑星へと、巨大な体を主が命じるままの進路へと動かす。自分が辿るであろう運命を知りながらも主の命に従う庭園は禍々しくもさながら王に誓いを立てた騎士、飼い主に付き従う忠犬を思わせた。
主の命を遂行していた庭園は唐突に動きを止め、次なる命令が来るまで主を待つ。その庭園――時の庭園は己の中にある居住区で眠りにつく主が再び活動を始めるまで、ただただ次元の狭間に身を委ね静かに己の数少ないであろう時を受け入れ続けていた。
時の庭園の主である魔女は夢を見ていた。なんてことはない、見ることを望みながらも魘されてしまう幸せな時が綴られた悪夢だ。
もう戻らない悲しい記憶、もう自分が迎えることはないであろう楽しい記憶、そして目的が果たせたら1度だけ訪れるだろう幸せの記憶。そんな悲しくて、楽しくて、幸せな悪夢を魔女は見ていた。
そしていつも通りの絶望と虚無感を最後に魔女は夢から醒める。余りにもいつも通り過ぎて悪夢の最後にいつしか慣れてしまい、何回も見た娘の死の瞬間はなりたりたくもないのに魔女の心を鈍くさせてしまっていた。
「ごめんなさいね、アリシア。貴方の死に際に鈍感になってしまった私は親失格かしら? ……いえ、その前に人間失格ね」
魔女は自分が眠っていたイスの前に置かれている机の上の写真立てを手に取ると自嘲するように笑う。写真には魔女と金髪の少女が笑顔で小高い丘の上に写っていた。
魔女はこの場にいる誰でもなく、死した少女が写る写真に向かって宣言するように、懇願するように呟く。
「私の悪夢をもう少しで終わらせるから、代わりにお願いした通り見守って上げてね」
26年付き合った悪夢との別れを今亡き少女に誓い、魔女は写真を机に戻す。そして魔女は庭園の玉座へ向かいその時が来るまで待つ、何分でも、何十分でも、何時間でも。波乱を起こすために協力者からの連絡を待ちづけた。
そして待ち続けた協力者からの連絡が入る。
『ご機嫌いかがかな、プレシア?』
「貴方の声を聞いた瞬間に機嫌が良くなった、って言って欲しのかしら? ジェイル、私の機嫌なんかどうでも良いの。ジュエルシードについての報告をささっとして頂戴」
プレシアの眼前にモニターが展開し、そこに白衣を着た紫髪の男を映し出す。ジェイルと呼ばれた男はなにが可笑しいのかプレシアと呼んだ魔女を見ては、狂気を孕んだ薄ら笑いを絶やさず浮かべ、プレシアの辛辣な返しにジェイルは苦笑する。
ファーストネームで呼び合う間柄でありながら、2人の仲はけして良好とは言えない。と言うのもプレシアはジェイルと言う男があまり好きではなかった。
好かない理由は自分の同族と言うこともあるが、単に2人は利害関係で慣れ合っているのだ。だからそれ以上である個人の領域には入り込んで欲しいと思わない。
そのことが分かっていてなのか、ジェイルは苦笑していた。
『君は相変わらずだね。事を性急に求めてしまう、故に何回も失敗を犯してしまったのではないのかい? 元とはいえ科学者ならば過程を急いではいけないことくらい分かっ――』
「ジェイル、今すぐ本題を話しなさい。さもないと契約を放り出して貴方の研究所で貴方自慢の娘たちと殺し合いをしなければならなくなるわ」
ジェイルが踏んだプレシアの地雷。それに対してプレシアは感情を持たない物体ですら底冷えさせるような冷たい声でジェイルへ警告を送る。だが警告された当の本人は何事もなかったように、プレシアへ狂気を孕んだ微笑みを能面のように張りつけたまま向けていた。
悪人ですら身を縮ませるような言葉にジェイルがなにも感じないのは、狂気を纏った狂人の証しなのかもしれない。事実ジェイルは警告されたにも関わらず、本題から逸れた会話を再び話し始める。
『これはこれは失礼した。だが私が伝えたいことぐらい理解して貰いたいものだ。短気は損気、急がば回れと言う言葉もある。あまり性急に結果を求めるのならば二の舞を踏んでしまうから気をつけてことを運んで欲しいと言う私の心遣いを理解して貰いたいものだ』
ジェイルの白々しさがにじみ出る気遣いの言葉をプレシアは鼻で笑う。
「なにが気遣いなのかしら。互いに心配するような仲でもないのに、貴方は単に私で人間観察をしたいだけでしょ」
『これはこれは悲しいことを言ってくれるじゃないか。私が放った雛型を君は求めて彼女を造ったんだ、言うなれば私と君は彼女を挟めば父と母という間柄だ。
……クク、口にしてきづいたが、言葉にしてみると実に愉快で滑稽で馬鹿馬鹿しい発言をしてしまった』
「自覚しているならさっきのセクハラ発言は無かったことにしてあげるわ。もう警告はしないわよ、すぐに本題を話しなさい」
自分でした発言の何が面白かったのか笑うジェイルをプレシアは忌々しげに睨みつけた。
流石にこれ以上プレシアをからかうのは拙いと思ったのか、ジェイルは笑うのをやめてようやく本題を切りだす。
『君が舞台に選んだ地球の時間で明日の午前4時、ジュエルシードの運送艦が地球の真上にある次元艦航路を通る。仕掛けるならその時だ』
「そう、ありがとう。それじゃあお別れねジェイル。F計画の研究資料のボックスを開けるパスワードは決行日前日に送るわ、それまでの期間は契約の保障期間よ。想定外の事態があったら対処しなさい」
呆気ない別れの言葉と抜け目のなく事態に対しての保険を張るプレシアに、ジェイルはプレシアが協力要請のために接触してきた日のことを思い出し、顔から消した笑顔を再び顔に張り付けた。
『自分勝手な女だよ君は。数ヶ月前に私の研究所にデバイス片手に殴りこんできたことを思い出す。迎撃した娘たちを傷つけもせずに完封して、協力を迫ってくる女など君くらいじゃないのかい?』
「貴方の娘を傷つけなかったのは協力を要請することに対しての誠意よ。それに私だけじゃないと思うわ、私と同じ立場にある母親なら誰だって同じことができると思うわ」
『女は恐いという言葉の意味を今しがた理解した。確かに女の誰もが君のように狂える可能性を秘めているのなら女という生物は恐ろしい生き物だ』
「狂人の貴方に言われたくないわ。それに私のどこが狂ってるですって? 訂正して貰えないかしら、私は悪人なったと自覚しているわ、それでも狂人になった覚えは――」
『君は十分狂人という言葉に値する人間だ。プレシア・テスタロッサ』
狂人から狂っていると言われたことに反論したプレシアだが、ジェイルはその反論を遮ってプレシアが狂人であると断言する。ジェイルの顔は珍しく真剣そのもので、狂気を孕んだ薄ら笑いも消えていた。
だからなのかプレシアもモニター越しのジェイルを凝視し、根拠を上げてみろと言わんばかりに表情を不快に歪めてジェイルを睨みつける。
表情に込められた意味を理解したジェイルは淡々と説明をし始めた。
『君は娘の人生――あぁ間違えた訂正しよう、自己満足だ、それと不特定多数の命を天秤にかけて己の感情を選んだ。命を失うわけでもないのに、後戻りできないわけでもないのに、他に道はある筈なのに、君は自分の感情に従い行動に移そうとしている。これを狂人と言わないならば是非ご教授願いたいものだね。
個人ではなく君は世界を敵に回して『娘のため』という自己満足を満たそうとしている。本意で、自分勝手のために、その娘の思いを知らないのに一方的に決断して世界を敵に回しているんだよ、プレシア』
ジェイルという男は基本的に人の心を理解できない。そういう風に作られてしまったから。だが人間の在り方というものなら数少ない範囲限定で理解できる。自分と在り方が似ているのならばジェイルは人の在り方を理解できた。
そして自分のために世界を敵に回そうと考えそれだけではなく実行に移す精神を持っている人間は確かに狂人と言えるだろう。“誰か”のために人間が行動しようする感情も、自分がその“誰か”のためにと望む末に行動することだ。
そしてプレシアにも他に選択肢はある。
世界を天秤にかける必要もない選択が。
だが世界を天秤にかけた方が効率がいいからその選択を選んだ。ただそれだけが世界を巻き込む動機だった。
「――ふふ……、確かに狂ってるわね」
ジェイルは何も言わず沈黙を貫く。
プレシアがジェイルの指摘を自覚したということ自体には興味など一切抱いていない。肝心なのはプレシアが自覚してこれからどうしようとするのか、生命操作に長けた科学者はそれを観察して見極めたかった。
もしも開き直るだけなら観察する価値などなく自分を分析するのと変わらない。そうなったら早急に契約を破棄するだけだ。
プレシアに要求した報酬は確かに魅力的なものではあるが、待てば手に入るであろう代物だ。だからプレシア自体に観察する価値がなければジェイルにとって協力関係を結ぶメリットは薄かった。
だがこの魔女はそんな狂人の思惑を知ってか知らずか、ジェイルの期待を越えた答えを出した。
「ジェイル。前に聞いたことがあったわよね、貴方はなにをもって利用されるために刷り込まれた夢に向って行こうと決めたのかって」
『確かにそんなこともあったね』
己の開発コードである『無限の欲望』の矛先になるように刷り込まれた夢。その夢のことに対してプレシアに問われた時のことを思い出しジェイルは笑う。
(馬鹿馬鹿しいことを言ったものだ。『私には信じられるものはそれしかない、故に私は己の欲望と夢にただ忠実であるだけだ。だから私は彼らに付き従っている』か……)
そう言った時の年齢は10代後半、その言葉は約20年程前に言った戯言で、そのころにはジェイルが造った娘たちもまだ生まれていなかった。ただ己の創造主に従い楽しい研究を繰り返す毎日、だが確かに原初の願いが消えてしまいそうな日々の中で、自分という確固たる自我をなくさない為に到った考えだった気もする。
『黒歴史、もしくは反抗期の子供の戯言だと思ってくれると嬉しいのだが』
「あら、そんなこと言っても実際はあの脳味噌たちの鳥籠から出ようとしてるじゃない」
『それは言わないでもらいたいね。しかし私の創造主のことを知って計画した君は何を考えているのか理解できないよ』
「彼らに加担する人間も一部だけでしょ。話を戻すわ、つまり私が目的に突き進むのはそういうことよ」
脈絡ない言葉にジェイルは眉をひそめた。プレシアが何を言おうとしているのかいまいち理解できなかったからだ。
そんな風に難題を前に解答を導こうとしているジェイルにプレシアは答えを突きつけた。
「私にはその目的に向かって突き進むだけの理由がある。狂っていようが私が信じるものは何も変わらない。
貴方と一緒よ、反吐が出そうだけどね……。私はただ私の信念に忠実なだけ。自己満足って言ったわね? 確かにそのとおりね。だからこそ自己満足を突き通してやるわ、私の目的を叶えるために」
『ハハ、アハハ……ハハハハハハ!!』
プレシアの答えを聞き終えたジェイルは意識せずに笑っていた。モニター越しなのに玉座中に満たされるその笑い声、それは歓喜の笑い。
実に滑稽で、惨めで、愚直で、純粋なプレシアの決意。滑稽にも魔女にはふさわしくないありふれた言葉を並べ、惨めにも自己満足だと認め、自分の信じたものを信じる愚直さ、だがそれゆえにプレシアの決意は純粋な思いからくるものだと狂人ですら理解できた。
『なるほどなるほど、君が世界を敵に回してでも突き進もうとする原動力はそれか!?
実に実に、馬鹿馬鹿しく、愚かしくて私には理解できないよ。君がそこまで堕ちてなお、君の信念とやらに忠実になる理由とは何なんだろうね。私と環境が違い常識人だった筈なのに、なぜ自分の信じるもののために己の全てをかなぐり捨てて世界を敵に回すのか!? 興味深いよ、プレシア――ハハハハハハハハハ!!』
「不快なくらいにうるさいわ、興奮するのは勝手だけど耳障りだから黙りなさい」
研究意欲に火がついた狂人の歓喜にプレシアが口を閉じるように促すも、それでもジェイルの笑い声はまだ玉座に響き続ける。
しばらくしてジェイルは感情を抑制させることができたのか、笑うのをやめプレシアとモニター越しに向き合う。金色の瞳を爛々と輝かせてジェイルはプレシアへと語り始める。
『悪かったね、君の答えが私の予想以上に面白いものだったからついつい感情を昂ぶらせて抑えられなかった』
「頭がおかしいとは思ってはいたけどそれに加えて情緒不安定な人間だったの。良い精神科を紹介しましょうか?」
『私が精神科に診察されたら精神科医が逃げ出したくなるだろうから断るよ。あと狂人に分類される君には精神科を紹介しようかなどと言われたくないよ、プレシア。ククッ――ハハハハハハ!!
それじゃあ、私は失礼するよ。根が真面目の正義の味方な狂った創造主たちに勘付かれると面倒になるからね』
いつもの下らない言いあいを終え、最後に『君に幸運が訪れるように祈っているよ』そう言ってジェイルは通信を絶つ。
通信が途切れ静寂が訪れた玉座でプレシアはなにもない天井を見て呟く。
「幸運が1度でも向かってくれたのならこんなところまで私は――」
プレシアはそう言いかけて口を閉じた。プレシア・テスタロッサという人間の人生は世間一般で言う勝ち組ではあっても、決して幸せと言える人生は歩んできていない奪われる側の人間だ。
下を見ればそれこそ自分より不幸な人生を歩んでいる人間も居るが、上を見上げれば幸せな人間が不幸な人生を歩んでいる人間より多いと言える。
だがそれでも歩んできた人生は不幸だけではなかった。女としての幸せを掴んだし、母にもなった。
だからその先の言葉を噤む。数少ない幸せでもその幸せをプレシアは無かったことにしたくなかったから。
「幸運は私よりも――――に寄越すべきね……」
だから自分の人生を嘆く代わりに自分の娘に幸運が訪れるようにと願った。プレシアが世界を敵に回してでも果たそうとする目的はそれだからだ。
プレシアが玉座室のモニターを開くとそこから青い惑星が見えた。
その惑星は災厄を魔女が降り注げる予定の波乱を起こすための舞台。
「下準備は済ませてるの、ちゃんと私が書いた脚本通りに動いて頂戴」
静止した従者の庭園と同様に、魔女は瞳を閉じ再び眠りの世界で時が訪れるのを静かに待ち始めた。
魔女が向う先は終わり。されど客観的に見れば、希望に満ちて見えるであろう魔法少女の物語。
脚本家は魔女、役者は舞台に住むすべての人間と一部の異端の来訪者。
正史から違った望んだ未来を掴むための終わりと希望の物語――リリカルマジカル始まります――
プレシアさんとスカさんの共闘と言うオワタ状態から始まります。
しかしスカさんはプレシアさんの万が一の保険なので原作の事件にはあまり関わりません。
けど微妙に原作本編からずれた所で関わり、A.sへの布石になる微妙に重要な立ち位置です。
ジュエルシードはこの作品ではプレシアさんがスカさんの協力の元、故意で落としています。
最後に。プレシアさんの目的は原作とは違い、そこら辺りがジュエルシード運送艦撃墜に繋がっています。
欲しけりゃ、運送艦に出向いて奪えば良いわけですからね。
あとまことに勝手ながら2~3ヵ月ほど更新を休ませて頂きます。
多分次回の更新はキャラクターまとめと本編開始から始まると思います。
感想などの返信はさせていただきますので、お気軽にどうぞ。
ここから作者の呟きなので、無視しても構いません。
やはりスカさんは素晴らしいわ。書いてて楽しかった……。
自分が好きなリリカル五大キャラの1人なだけはある。
狂人キャラは書いてて楽しかったです。
ただ自分の文章力のせいで魅力が出せなかったのが……。
うまく、狂気を表現できなかったorz
それではまた次回の更新でお会いしましょう。
ではm(__)ノシ
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