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小学生編(前期)
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∀月Ω日

 世にもインパクトが強いものを見た場合、人は脳裏からその光景が離れることがないのだと、今日『アレ』を見たことによって知ってしまった……。

 今日は三人とも塾で一人で帰路についたが、そこでふとリニスがアルバイトの面接に行った日に今度遊びに来ると良いと言って渡してくれた手書きの地図を思い出し、今日はリニスがバイトの日だったし行ってみることにした。
 その店は商店街の通りを抜けた先の、東京のビル程ではないがそれなりに高いビルが群像している海鳴中心部にある、カラフルな看板が目立つ店で『喫茶店 猫萌え天国』と書かれていた。ちなみにこれで、二ゃん二ゃんパラダイスと読むらしい。

 猫萌え天国で真っ先に思い浮かんで来たのは、すずちゃんの家で繰り広げられている猫屋敷だ。アレはまさしく二ゃん二ゃんパラダイスと言えよう。猫嫌いと猫アレルギーの人が行ったら天国が反転して地獄になるけどね。

 入ってみると出迎えたのはスカートの丈が長いエプロンドレスを着た秋葉原にいるメイドさんとは違った、所謂ヴィクトリアンメイドと呼ばれるメイドさんだった。ただし一つだけ違うところがあり、頭部のホワイトブリムに着いていたのはレースのカチューシャやキャップではなく、猫耳のカチューシャであった。
 猫耳メイドさんですね、分かります。そして、成る程と父さんが母さんにボコられた理由が分かった。

 店内には猫がぐだーとしており、動物移送用の籠を持った人や俺や父さんと同じ匂いがする人までおり客層はかなりカオスなことになっていた。なにしろニューハーフの人達まで居たのだからカオス以外の何で表現が出来ると言うのか。

 お客様はお一人ですか?と店員さんが小学生の俺が一人でこのカオスな店に来たことを気に留めないところを見ると、このカオスな客層の中には恐らく小学生も入っているのだろう。本当に……カオス過ぎる…。

 注文がお決まりになったら店員にお申し付け下さいと、満面の営業スマイルで店員さんが去った後メニューを開いてみると、意外な事にも料金設定はかなり親切なもので学生でも気軽に来れる料金設定だった。
 店員の格好こそは猫耳メイドだが、メイド喫茶と言うわけではないらしい。どちらかと言うと猫専用のメニューが書かれていることから、良くテレビで取り上げられる動物も一緒に連れてきて良いと言う、動物喫茶なのだろう。店内の客層はカオスだけど。

 当たり前の様にチョコレートパフェに決定し、店員さんに注文をする為に近くに居た店員さんを呼んだら、リニスだった。ちょっとだけ驚いた顔をしてから直ぐに笑顔で、注文は何しますかと聞いてきた。
 なんと言うか違和感がリニスの猫耳メイドにはまったく感じられなかった。猫耳は自前だし家でも家政婦みたいな事をやってるから当たり前って言えば当たり前なのだが。

 その後だ、文頭に書いた未だに脳裏から離れない『アレ』を見たのは……チョコレートパフェをその人が持ってきた時だった……。
 チョコレートパフェを持ってきたのは、顔に無数のキズが覆い、身長は優に二メートルを越え、その巨体はまるで鎧を着込んだのではないかと思ってしまう程に無骨で壮大さ感じる筋肉を持つ男だった。
 角刈りにされている頭部からは男らしさが滲み出ており、ジムにでも居たら間違いなくボディビルダーだと思うだろう、

――猫耳メイドの格好さえしていなければの話だが。

 目の前に大好物があるにも関わらず、俺の頬は盛大に引きつり俺は思わず彼から目を逸らしてしまった。いや……、別にニューハーフとかに偏見はないつもりだが、いくらなんでも二メートルを越えの身長を持つボディビルダーみたいな体型の大男がヴィクトリアン型とは言えメイド服を着て猫耳カチューシャを装着していたら誰だって目を逸らしたくなる、間違いない!
 目を逸らした視界の端に写ったリニスが客にその猫耳の再現度高いね―!と言われて、「自前です」と営業スマイルの元に受け流してるのを見てカッけーなぁと現実逃避をしていたら、ボディビルダーの人が大変お待たせしましたと言ったので、チョコレートパフェを置いて去ったかと思ったらジーッと俺の事を見ててかなり恐かった。

 空気に耐えきれず、何か俺に用ですか?と聞いたら「奴に似ていると思ってな」と、思ったらよりもずっと渋くてカッコいい声でそう言われた。奴と言うのは間違いなく、父さんの事だろう。
 父さんとリニスから俺のことは聞いたらしい、そして面接した日にリニスに是非店に遊びに来るように頼んだのがこの人だったのだ。
 父さんとは母さんと知り合う前からの知り合いで、互いに十五年前のとある戦場で共闘したのが付き合いの始まりだったと言う。ところでせんじょうって何? 僕、子供だからわからなーい。

 蛇足だが士郎さんや桃子さんとも同じく、海鳴市で経営しているため時々互いに会うため面識はあるらしい。

 時間にして会話をしたのは二分くらいだったと思うが、「仕事が残っているのでコレで失礼する、今度来たときサービスさせて貰おう、友達とでも一緒に来るが良い」と言って去ろうとした。
 名前を訊いていないことを思い出し、名前を聞いてみたところ、「名乗る程の名ではない、マスターとでも呼んでくれ」と言って去っていった。俺は背中で語るマスターの姿を、カッコいいと思っていた、

――猫耳メイドの格好さえしていなければの話だが。

P.S 父さんにマスターが何故猫耳メイドの姿をしているのか訊いてみたところ、マスターは異常な程の猫好きで店にいた猫の九割はマスターが養っており、部屋は猫関連のヌイグルミや道具で溢れているとのこと。そしてその好き加減は自身が猫になりたいと願う程で、そのため猫耳メイドの格好なのだと。ちなみに『猫萌え天国』はマスターの夢の体現なんだと父さんが言っていた。

 ちなみにチョコレートパフェは桃子さんの作ったチョコレートパフェとほぼ同等と言える美味しさだった。だけど、もし行くとしてもなのちゃん達は連れてはいけない……、理由は書くまでもないだろう。あのインパクトはヤバイ。



∀月Х日

 今日は念願の終業式で、一学期が終了して明日から夏休みだぜ! キャッホー!

 朝っぱらから終業式で行われた校長の長話は軽くぶっ倒れそうだった。と言うか貧血で倒れたり夏の熱気にやられて保健室送りになった生徒が何人か居た。
 もうね、夏の校長の長話は凶器認定しても良いんじゃないかと思ったよ、人が倒れる音ってなまなましくて結構びっくりするものなんだよな……。

 大掃除はかなりの気合いを入れており、明日に控えた十数年振りの夏休みにテンションがだだ上がりの俺が先導して、無意味に教室掃除でリーダーシップを発揮したところ床が光るほど綺麗になった。担任の先生が恐らく、俺のテンションの高さを見て引きつって居たが気にしない。

 成績表は帰りのホームルームが終わってから互いに見せあった、ただし先生のコメント欄は見せ合わなかったけど。
 俺は当然ながらオール五で、なのちゃんは算数と音楽は五、国語と体育が残念な結果であとは三と四がちらほらしていた。あーちゃんは算数と体育が四で後は全部五。すずちゃんは四と五だらけの成績だった当たり前だが体育と音楽は五だ。
 あーちゃんだけは時々授業中に寝ているのに好成績の俺に不満があったらしく、ちょっとだけ睨まれた。

 取りあえず今日は宿題の五分の一は終わらせたので来週までには夏休みの宿題を終わらせて、残りの夏休み優雅に過ごそうと思う。ビバ夏休み!


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