JR東日本をはじめ鉄道各社は、「蓄電池で走る車両」の開発・実用化を、いま相次いで進めています。
次世代型の電車開発の狙いや期待について取材しました。
JR東日本が開発に取り組んでいる蓄電池型車両、その名も「スマート電池くん」です。
栃木県内の宇都宮線と烏山線を使って、実験が行われています。
積んである蓄電池の電力で最高時速100キロで走ることができます。
この車両は、まだ電化されていない区間を走らせる目的で、4年前から開発が行われています。
車内に積んでいるのは、電気自動車に使われているのと同じリチウムイオン蓄電池です。
開発の大きな狙いは、温暖化の原因となるCO2・二酸化炭素の削減です。
実は、JR東日本の在来線のうち、距離にしておよそ2000キロ、全体の3割あまりが電化されていません。
この非電化区間を走っているディーゼル車両の排気ガスは、JR東日本にとって大きな課題となっていますが、蓄電池型車両にすれば二酸化炭素の排出を大幅に削減できると期待されています。
この開発を担当しているのは、JR東日本環境技術研究所です。
研究所次長の神孫子博さんは、開発を命じられた当初、車に比べてはるかに重い鉄道車両を、蓄電池で動かせるのか半信半疑だったといいます。
「電池で、本当に走れる車両になるんだろうかと、不安に思いました」と、当時を率直に振り返ります。
開発にあたっての最大問題は、一度の充電で、どれだけの距離を走ることができるかでした。
長い距離を走るために大量の電池を積めば、客を乗せるスペースが狭くなります。
そのバランスをとるのに苦労したといいます。
実験を重ねた結果、20キロ程度の区間なら、座席の下に収納できる数の蓄電池で、走れることがわかり、乗客のスペースを確保できるようになりました。
さらに、電線にパンタグラフ接触させて、10分程度で、急速充電できる装置も開発し、より長い区間での運用にもめどが立ったということです。
神孫子さんは、「夏の暑い時、あるいは冬場の寒い時と、一年を通して安定して電池で走れるかという評価をやってきましたが、大丈夫だと思っています」と自信を深めています。
一方、二酸化炭素の削減以外の目的でも、蓄電池型の鉄道車両の開発が進んでいます。
鉄道に関する最先端の技術を研究開発する東京・国立市の鉄道総合技術研究所では、次世代型の蓄電池を使う路面電車型の車両を開発しています。
開発の目的の一つは、景観を邪魔しない路面電車の実現です。
鉄道総合技術研究所の小笠正道さんは、「たとえばお城がバックに見えている市街地で、路面電車の架線が景観を邪魔しているという例はよくあるかと思うんですね。
そういったところで架線を取り払うことで、景観に配慮した都市のまちづくりを進められるという観点からも、蓄電池を使う路面電車は、非常に有効な手段かなと思います」と話します。
さらに、蓄電池型車両は、トラブルに強い鉄道の実現にも役立つと期待されています。
小笠さんは、「例えば架線停電で電車が動けなくなった時に電池を積載していれば、自力で最寄りの駅まで走行し、乗客を車内に長い時間閉じ込めることから解放することができる、そういうメリットがあると考えています」ともう一つの開発の狙いを、説明します。
「スマート電池くん」の開発は、技術的には、すでに最終段階を迎えています。
また、JR東日本によりますと、路線を新たに電化するには、架線を引いたり周囲の整備をしたりと、膨大な時間とコストがかかることもあって、「蓄電池で走る車両」がそうした課題を解決する切り札になることも期待されるということです。
JR東日本では、蓄電池の性能の向上や価格の動向をにらみながら、今後、実用化に向けた準備を進めたいとしており、蓄電池型車両が実用化される日は、そう遠くないかもしれません。