名張毒ぶどう酒事件というのをご存知でしょうか。1961年3月28日、三重県名張市葛尾の公民館で開かれた住民の懇親会で、農薬入りぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡、12人が重軽傷を負ったという事件です。

犯人として、当時35歳の奥西死刑囚が逮捕されました。最高裁(72年)で死刑が確定したのですが、現在、奥西死刑囚の第7次再審請求をして最高裁は、審理を名古屋高裁に差し戻したところです。

奥西死刑囚が無実の冤罪なのかどうかは司法の判断を見守りたいのですが、この事件で気になるのは、やはり、ぶどう酒(ワインです)に毒が盛られたとされているところです。

盛られたとされるのはニッカリンTという農薬です。奥西死刑囚が犯人とされたのは、彼が別の人の家からそのぶどう酒を運んできて、彼以外にそのぶどう酒に毒を入れる時間があった者はいないからだそうです。

問題はこのニッカリンTです。毒物と分かるように赤く着色してあるそうです。また奥西死刑囚の家から見つかったニッカリンTも赤いものだったそうです。

そしてこれを盛ったとされるワインが白ワインだったのです。奥西死刑囚は会合に集まった人に白ワインであることを見せ、それを確認した方もいるそうです。

このニッカリンTを混ぜても白ワインの色は濁らないのでしょうか?ここがこの事件の疑問点です。用意周到に計算して毒を盛るなら、赤ワインのほうがよさそうです。しかも、そもそもこの白ワインを買ったのは奥西死刑囚ではなく、彼は当日ただ運んだだけのようです。

このニッカリンTと言う農薬はだいぶ前に製造が中止されたようですが、今回最高裁が審理の差し戻しを命じたのも、どうやらこのニッカリンT(赤)が犯行に使われた毒物ではないという可能性が強まったからです。

なぜ警察・検察は事件当時ただちにニッカリンTを白ワインに入れて検証してみなかったのでしょう?異様な色とか濁りとかがつくならばいくらなんでも誰かが気づいたのではないでしょうか。おそらくそういう再現検証をしないままでここまで来たのでしょう。

もう一つ気になるのは、このワインを買ったのはそもそも奥西死刑囚ではないところです。買ってきたのは別の方です。またそれを振舞うことに決めたのも別の方です。つまり今風にいえば、料理や酒をふるまうホストは別の人だったということです。本当は、その方がいわゆるホストテイスティングをして、彼が安全だと確かめてから皆に振舞うという形にすれば、まずホストが一番最初に異変に気づいたと思います。

ホストテイスティングはただの儀礼とか味見という意味だけのものではありません。大切なお呼びしたお客さんに不快な思いをさせてはいけない。極端な場合、死なすわけにはいかない、毒見の意味も含まれているのではないでしょうか。

そういう意味で、ホストテイスティングはただのめんどうくさい儀礼のように思われますが、重要な意味があったと思うのです。ホストがまず毒見をしてみるという習慣がもし当時あれば、このような事件にはならなかったのではないかと思われるところが残念なところです。

なんとも残念な事件ですが進展を見守りたいと思います。

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