【原発崩壊】小児甲状腺がんの恐怖…隠された現実

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2012.03.19


昨年3月14日に爆発し、激しく壊れた福島第1原発3号機【拡大】

 自然界での小児甲状腺がんの発症率は50万人に1人、あるいは100万人に1人といわれている。1986年にチェルノブイリ事故を起こした旧ソ連のベラルーシやウクライナでは、放射性物質による住民への健康被害の追跡調査を続けている。

 結果、事故後4年目の1990年前後から若年層を中心に健康被害が増加し、2000年頃までには、汚染地域に住む子供たちの小児甲状腺がんの割合が、1万人に1人まで高まってしまった。

 「さらに高まったという報告もあるが、私には分からない。ただ、他の地域との比較から増えただけことは確実だろう」

 2月、ルクセンブルクで開かれた「オーフス会議」の会場で、ベラルーシの科学者は私にこう語った。

 果たして、1万人に1人という数字は、社会にどのような結果をもたらしたか。

 「政府は変わらないよ。だけど、被害者からすればもちろん大きな意味を持つ」

 確かに「1万人」が分母であるならば、政府などからすれば、9999人は健常ではないか、ということになるが、逆に子供を持つ母親からすれば、確率が100倍に増えたではないか、ということになる。

 それが放射能事故のもたらした社会の「分断」の現実である。

 「放射能の問題は、本当に限りないのです」

 こう語るのは、チェルノブイリこども基金の創設者のひとりで、20年以上現地での取材調査を行ってきたフォトグラファーの広河隆一氏だ。

 「当時、安全だといわれて移り住んだ低線量地域から次々と放射能由来と思われる健康被害が見つかっているのです」

 小児甲状腺がんは、放射線由来の可能性があると、唯一、国際的にも認められた病気である。

 だが、実際は甲状腺よりも早く症状が表れるのは別の病気だ。心筋梗塞や血液異常については、被ばくと関連して、発症の確率が高まっている。だが、どの国でも、その因果関係は認められていない。

 「週刊文春」(3月1日号)では、おしどりマコ氏が小児甲状腺がんの可能性を指摘している。チェルノブイリの現実を知る者で、その記事を否定できる者はいないだろう。

 ところが、日本のパワーエリートたちは、そうした福島の現実に目を背けるばかりか、情報隠蔽に走るほどだ。

 子供たちの未来を奪う権利は誰一人持ち合わせない。しかし、あの原発事故ではそうした真実すら犠牲になっているのである。

 「福島に幸あれ」

 私は、福島の地で心からそれを願うだけである。=おわり

 ■うえすぎ・たかし メディアカンパニー「NO BORDER」代表、元ジャーナリスト。1968年、福岡県生まれ。テレビ局、衆院議員秘書、米紙東京支局記者などを経て、フリージャーナリストに。政治やメディア、震災・原発事故、ゴルフなどをテーマに活躍した。著書に「官邸崩壊」(新潮社)、共著に「報道災害【原発編】事実を伝えないメディアの大罪」(幻冬舎新書)など。社団法人自由報道協会代表。

 

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