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【放送芸能】

東京シティ・フィル 初代音楽監督に 指揮者・宮本文昭の覚悟

 世界的なオーボエ奏者として活躍し、5年前、惜しまれながら演奏活動から退いた宮本文昭。以来、指揮者としての実績を着実に積み上げ、4月、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団(東京都江東区)の初代音楽監督に就任する。「指揮者に真っ向勝負を挑めるオーケストラに育てたい」と意気込み、3年の任期を終えたら指揮者も“卒業”する完全燃焼の覚悟で臨む。 (安田信博)

 一度でも演奏会に足を運べば、宮本が異色の指揮者であることが分かる。力感あふれる指揮を終えて指揮台を降りると、オーケストラの輪の中に入り団員らと一緒に拍手に応える。カーテンコールでも指揮台には上らず、オケの各パートを回って労をねぎらい、輪から抜けることはない。

 根底にあるのは、演奏家としての長年の経験だ。「指揮者はオーケストラに助けてもらう場面がいくつもあり、オケがなければ演奏も成立しない。だから感謝しなければいけないのに、“自分がえらい”と勘違いする指揮者が多すぎます」。指揮者も「音の一員」であり、ひとりだけ前に出たくはない−この精神を体現したのが冒頭の光景である。

 長く在籍したドイツのオケ時代から、指揮者に“モノ言う”演奏家として鳴らし、納得がいくまで徹底的に議論。格好をつけることに腐心し内実の伴わない指揮者はすぐに見破り、たじたじさせた。

 今回就任する音楽監督は、楽団の総合プロデューサー的な存在。ソリストや曲目の選定も大きな役目だ。自らも指揮する一方、尾高忠明、広上淳一、秋山和慶、佐渡裕らの著名指揮者を客演に迎える。「個性豊かな指揮者の意図を受け入れながら、自分たちの主張もしっかりする。間口の広さと積極性を兼ね備えたオケに育てることが音楽監督としての一番の目標です」

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 鉱石ラジオでジャズやポップスに親しむ少年だった。十三歳で転機が訪れる。テノール歌手の父が出演したN響「第九演奏会」(東京・日比谷公会堂)。舞台から「神々しい光がさすような衝撃」を受け、クラシックの道を志した。「音の一員」に加わることができれば、楽器は何でもよかった。住んでいた都営アパートで練習ができて、値段も張らないもの。たどりついたのがオーボエだった。

 高い技巧と情感豊かな音色。オーボエ奏者としての活動に潔く終止符を打ったのは、新しい形で音楽にかかわってみたいという貪欲さゆえで、新たな挑戦でもある。

 初めから指揮者を念頭に置いていたわけではない。しかし、引退発表後、指揮の依頼が引きも切らず、「今までとは違った感覚で、音楽全体にかかわることができる喜びを知った」と明かす。オーボエという単一の音からではなく、たくさんの音を同時に鳴らす立場から音楽に加わることで、音楽全体を俯瞰(ふかん)できるようになったという。

 初めて指揮台に立ったのは、引退前年。アクシデントによる公演直前での代役だった。手ほどきを受けた小澤征爾の助言を胸に深く刻んでいる。「演奏家はみんな、音、出したいんだよ。それを解き放ってやればいい」

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 音楽監督への正式就任を待たずに、演奏会の宣伝やスポンサー探しに奔走している。木管楽器を中心にオーディションで“新しい血”の導入も図る。

 四月に開く就任披露演奏会。新たな門出にふさわしい威風堂々たるワーグナー「ニュルンベルクのマイスタージンガー」前奏曲で幕を開け、欧州で「めでたい調」とされる「ニ長調」のブラームス「交響曲第二番」で締めくくる。

 間にはさむのはモーツァルトが亡くなる年に作った「ピアノ協奏曲第二十七番」。ドイツ留学時代、テレビで巨匠ウィルヘルム・ケンプの演奏を聴いた。「弾むようなリズムの中にも、そこはかとない寂しさを感じた」という第三楽章の冒頭。衝撃と興奮で体がのけぞり、ソファから転げ落ちたというエピソードが残る思い出深い曲である。ソリストには「音楽家としても人間としても大ファン」の小山実稚恵を迎え、自身の門出に花を添える。

 ※就任披露演奏会は東京・初台の東京オペラシティコンサートホールで四月十八日午後七時開演。(電)03・5624・4002。

 ●みやもと・ふみあき 1949年11月3日、東京生まれ。指揮者、東京音楽大教授。桐朋女子高校音楽科(共学)卒業後に18歳でドイツ留学。フランクフルト、ケルンの両放送交響楽団、サイトウ・キネン・オーケストラなどで首席オーボエ奏者を歴任。NHK連続テレビ小説「あすか」のテーマ曲「風笛」の演奏でも評判を呼ぶ。自らプロデュースして率いる弦楽アンサンブル「オーケストラMAP’S」の初CDを28日に発売。バイオリニストの宮本笑里(えみり)は次女。

 

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