第4話「Aito/まごころを君に」
星の明かりすらない漆黒の闇が世界を支配している夜。だが、そんな闇を裂く二つの影――。ヴィスタ林道を疾走しているそれは、真っ直ぐジェニス王立学園に向かっている。
「うーん。やっぱり、夜風は気持ち良いと思わないかい?」
艶やかな長い金色の髪を風に乗せる長身の男。オリビエ=レンハイムは、後ろに続く彼の従者を一瞥し言う。
「全く! なんで貴様はこんな非常識な時間に突然縁談相手の顔が見たくなったとか言い出すのだ!?」
金色の髪のすぐ後ろに付いている影――鋭い黒い双眸と、無秩序に切られた短髪を持つ男は、不機嫌な表情で声をあげる。
「こんな時間じゃなければ、ルーアンを抜けられないだろう? 闇に溶けてこそ真のお忍びの旅ってわけさ。それに、僕の可愛い未来の花嫁の寝顔が見られるかもしれない」
「貴様の悪趣味につべこべ文句を言うつもりはないが、お目付け役の俺の身にもなってもらおうか。なんで俺まで貴様に付き合って、こんなことを……」
「ははは、ミュラー。僕の夢を知ってるかい?」
「知るか」
「いつの日か、婚約者と君が僕を巡って争う。そして僕はこう言うんだ。愛は姫に……そしてまごころを君に」
と言って、オリビエはミュラーにウィンクする。
「気色悪いわっ!」
「……なら、愛とまごころを君に。 欲張りなミューラー君」
オリビエは無遠慮に微笑んで、大げさなリアクションで言う。
「そういう問題かっ」
「結局、君は妬いているのだろう? 恥ずかしがらずに言ってくれたまえよ」
ニコニコとした言葉の暴力は続く。
「貴様をここで殺ったら、誰か俺を攻める事ができると思うか?」
決して微笑みを絶やさないオリビエに、ミュラーは真顔で言う。二人の間の温度は悲劇的なまでに違っていた。はっきりと青筋を浮かべるミュラーの言葉を軽く肩を竦めて受け流すとオリビエは続ける。
「僕は思うんだ」
「死後の世界をか?」
「もし……縁談相手が僕と合わなければ、君と結婚してもいいって」
そう言って、オリビエは走っているミューラーに抱きついた。
「くっ……は、放せっ!」
ヨシュアは、突然ホテルの部屋に飛び込んできたロボット“ぱてる”の手のひらに握られてもがいていた。ヨシュアは苦痛の表情を浮かべて、渾身の力で自分を掴んでいる鋼鉄の手を押し広げようとするが、それはビクとも動かない。
「ヨシュアさん!」
「ヨシュア!」
二人の少女は、愛するものの危機を察知して、互いに身構える。
クローゼは、素早くパジャマの上にコートを羽織る。そして部屋の壁に装飾品として飾れていた剣の柄に手を伸ばす。
一方のエステルは、ぱてるが突っ込んできた際に崩れ落ちた天蓋の下敷きになって、依然もごもごと芋虫のように体をくねらせている。
刹那、その二人の少女の視線に込められた強烈な敵意をぱてるが察知する。ヨシュアの耳を撫でる何かの機械が稼動する音――。それに少年は戦慄を覚える。
「やめろ、その二人に手を出すな!」
ヨシュアは目を見開いて叫ぶ、その言葉の隅々に滲むのは――殺意。
だが、そんなヨシュアの叫びも虚しく、ぱてるは準備していた兵器を起動した。
クルクルクルクル
「……」
安っぽい効果音。3人の視点が集中した先――ぱてるの両目。それがスロットマシーンのように回転しているのだ。
カチーン
そして――その両目は『ハートマーク』で止まる。
「……」
――どこか気まずい無言の時間が流れた。
「あ、あれ?どうしちゃったのかな……」
「どうしたの?」
一方、中等部の天才少女二人は夜風を全身に受けて髪を抑えながら、呆然と煙のあがるホテルを見つめていた。ティータは手にあるリモコンの十字キーをカチャカチャと動かして不安げな声をあげる。
「うん、あのね。さっきからリモコンを動かしているんだけど、全然反応がないの。故障かなぁ」
「ああ……。うかつだったわ」
レンは含み笑いを浮かべて言う。
「え?何が……?」
「ジェニス王立学園。高等部もあるということは“ぱてる”が好きそうな男の子も在籍している可能性があるわね。あなた走れるわよね? ついてきて」
そして遠慮のない笑いで遠くの煙を見つめるレン。紫色のおませな少女は、すぐにティータの手を引いて、階段を走って降りる。目指す先は、ぱてるが不時着したホテルである。
その刹那。恐々としたケモノの叫び声が夜の深い闇を切り裂く。
フォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
「やっぱりね」
レンは走りながら楽しそうに微笑んだ。
「あのあの、何が起こってるの?」
手を引かれるまま、深夜の学校の廊下を走らされているティータは問う。
「――暴走よ」
第4話「Aito/まごころを君に」
激しい風が吹き荒れる月のない暗い夜――。巨大な人の影が、学園の上空数十メートルの空間を旋回していた。
「く、僕をどうするつもりだっ?」
その巨大な影にさらわれる形になったヨシュアは、漆黒の夜空で叫んだ。その少年の悲痛な叫びに、目をハートマークにした”ぱてる”は応える。
「……っ!?」
突如急降下を始める機械人形。
そしてそれは、目下にある講堂の屋根に突撃する。――手の中にあるヨシュアを庇う様にして。
講堂の中に突入した機械人形は、周囲を見渡すと舞台裏にある衣装室に手を伸ばし、その中を弄る。次いですぐにそれが取り出してきたモノ――。優美な輝きを放つドレス。
それを見たヨシュアの顔はたちまち青ざめる。パテルが、そのドレスとヨシュア見比べ悦に入っているのだ。
「ま、まさか」
ヨシュアは背筋に冷たいものを感じて言う。
フォォォォォォォォーーーーーーーーーーー。
そのまさかだった。
再び木霊するケモノの咆哮。夜は深く、風は激しく吹き荒れていた。
「あの、暴走ってどういうこと?」
校庭を疾走する二人の少女は、ぱてるを追って講堂へと向かっていた。レンに手を引かれているティータは、不安げな表情を浮かべる。――あんな怪しい奇声を聞けば無理もないと言えた。
「ぱてるは可愛い男の子が好きなの」
「ええっ!?」
ティータの驚きの声は、無理もなかった。
「しかも随分と好みがうるさくて、特に女装が似合う子が好きみたい」
「除草?」
ティータは首を担げ尋ねる。
「女装よ」
「あぅ……除草だよね?」
栗毛の愛らしい少女は、再度、レンの瞳を覗き込んで問う。
「ティータの彼氏も変態なんだから分かるわよね?」
「だ、だって口で言ったら同じ音だよぅ」
ティータは、アガットを変態と言われるのは容認しがたかったが、彼氏という単語が添えられていたので反論をやめる。
「ほら分かってるんじゃない」
レンは、握っていたティータの手を持ち替えると意地悪く笑って言う。
「で、でもロボットなのに、男の子が好きって……」
「教師のくせにヨウジョが好きなヤツだっているんだもの。世の中、色々な事情があるわ」
レンはティータの反応をそう受け流すと、夜空を見上げる。
「遅かったみたい」
レンは講堂の破壊された屋根からぱてるが飛び出して、再び夜空に消える様を見上げ言う。――その瞳が好奇の色で満ちていたのは、ぱてるの手に”お姫様”が握られていたからだ。
「ねえ、ティータ。いざという時に、ぱてるの操作コマンドを教えておくわ」
「え?」
「コントローラーを見て。十字キー以外にもAボタンとBボタンがついてるでしょ?」
「うん」
「Aボタンが復活ビームよ」
「……じゃあBボタンは?」
「核ミサイル」
「……」
「で、同時押しで自爆ね。レンが合図したら押すのよ。さもないと」
「さ、さもないと?」
「あのお姫様、お婿にいけない体にされるわ」
レンは心底楽しそうにそう言って微笑む。――姫が婿という部分は矛盾していたが、ティータは頬を真っ赤にしてそこを指摘することなく押し黙った。
「フ、見たまえ、ミューラー。美しい流れ星だ。だが、あんな星でも君の輝きには劣るよ」
オリビエはミューラーに背負われ、薔薇を咥えながら漆黒の天空に一筋の光が流れるさまを見ていた。しかし、その顔には先ほどと大きく違った点があった。原型を留めないくらいボコボコになって、鼻血を流しているのだ。薔薇を口にくわえて見たところで、説得力はまるでなかった。
「……やりすぎたのは認める。だが、まだ天に召されるには早いぞ」
オリビエの昇天を思わせるセリフはミューラーは背筋を冷たくして言う。
「君が激しく僕を愛してくれるのはいつものことじゃないか。そんな話をしているんじゃない。本当に大きな彗星が見えるんだ」
「……なに?」
そこまで話を聞いてミューラーは足を止めて夜空を見上げた。その彼の瞳を色どったもの――空を飛んでいる巨大なロボット。
「……これはどういう悪夢だ?」
顔を真っ青にして、ミューラーは言う。
そして、次に彼を指した嫌な予感。――ロボットはその右腕に純白のドレスを着た女性を握っていた。ミューラががくんと首を倒すのと同時に、片足を棺桶に突っ込みかけていたオリビエの目が見開かれる。
「うっ!? あ、あれは! う、美しい!」
ボコボコに変形した顔からのぞく瞳がキラキラと輝き始める。
そのオリビエの予想通りの反応に、ミューラーは深いため息をつく。
「ミューラー、あの姫君が僕の婚約者だとしたら、こんなに運命的な出会いはないと思わないかい?」
「これが運命なら、貴様の顔はせめて原型くらい留めていると思うが」
オリビエの黄色い歓声に、淡々と応じるミューラー。
「とにかく、あの姫君を助けてさしあげるんだ!」
オリビエは言って、従者の背中から飛び降りる。そして懐から、装飾された銃を取り出し、高速で滑空する目標に目掛け撃つ――。
コンッ
安っぽい効果音――。
オリビエの銃から放たれた銃弾は、”ぱてる”の装甲に傷一つつけることもできず、はじかれる。
「ば、ばかなっ!?」
オリビエは、必殺の一撃として放ったそれが、全く意味を成さなかったことに驚愕の声をあげる。
が、次の瞬間、さらなる驚愕が呆然と天空のロボットを見上げている二人を襲った。
「かーーーーーーりーーーーーーーーん!!!」
街道中に響くのではないかと思うとてつもない怒号だった。
街道中に響くのではないかと思うとてつもない怒号だった。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!! 俺のカリンを返せっ!!」
驚愕の理由――。生身の男が、超高速で滑空するロボットを追撃しているのだ。――走って。オリビエとミューラーが目を剥いた次の瞬間。”それ”は、天高くジャンプし、ロボットの背に降り立つ。
「レ、レ、レ、レ、レーヴェ、来てくれたのは嬉しいけど、なんか目が目が、レーヴェの目がぁぁぁぁぁ」
文字通り”ぱてる”の手の中にあるヨシュアは、泣きながらそう叫ぶ。――兄の目が血走って炎を灯していたから。
「フ、フ、カリン、会いたかった」
地上数十メートルを飛行するぱてるの背に飛び乗ったレーヴェは、振り落とそうと体をくねくねとさせるそれの動作に動じることもなく、純白のドレスを着せられているヨシュアの元へ来て微笑む――渾身の怖い笑みだった。
「ちょ、レーヴェ、今度は何を食べたんだ!?」
ヨシュアは、泣きながら続ける。
「今降ろしてやる」
レーヴェは言って、ぱてるの後部についているバーニアを自らの背中から取り出したクッキーケースで激しく何度も叩く。
「無茶苦茶だ! レーヴェ、姉さんのクッキーを生のまま食べたのか!?」
それを見てヨシュアはそう突っ込む。別にクッキケースで、機械人形を攻撃したことを非難したわけではなかった。
――それと同時にパテル=マテルの強靭な装甲で覆われたバーニアは見事に火を噴いて黒煙をあげた。激しい爆音で、ヨシュアは一時、耳の感覚を失う。だが、その感覚失うと共に、落下の際の激しい衝撃で意識も薄れていくのを感じた。少年は、渾身の力で握られている手を振りほどこうとするが――。それは適わず地面に叩きつけられる衝撃に備えるしかなかった。
――周囲は激しい土煙に覆われていた。バーニアを失ったパテル=マテルは、クッキーケースを正眼に構えるレーヴェと対峙し、間合いを取り合っている。
「さあ、カリンを放せ」
レーヴェは勝ち誇って笑う。――その気になれば、次の瞬間は目の前の機械人形の首を跳ねる自信があった。
そのレーヴェの声に応え機械人形はヨシュアを差し出す素振りを見せる。だが――。
機械人形は、すぐさま左腕でレーヴェを照準し、巨大なミサイルを発射する――小規模な核ミサイル。どんな強靭な機械人形でも、いや要塞や城でさえも一瞬で粉々にする破壊力をもったそれ。
「レ、レーヴェ、逃げてっ!」
純白のドレスに、涙目のヨシュア。どう見てもヒロインの悲痛な叫びにしか見えないそれが、レーヴェに向かう。
それに静かにレーヴェは応えると優しげに微笑む――まるで死を覚悟した、どこか悲しそうな笑み。
「レ、レーヴェ!?」
ヨシュアは続けて叫ぶ。それはミサイルの爆風でレーヴェが消し飛んだのと同時で、レーヴェの耳には決して届くことはなかった。
――すぐに静まり返る夜の闇。
「……」
ドレス姿のヨシュアは、喉を震わせる――。その目はいつも優しげなものではない。
ギシギシッ
鈍い音を立てて、ヨシュアを握っている”ぱてる”の人差し指と中指が押し広げられていく。先ほどとは比べ物にならない程の少年の力がぱてるのそれを圧倒する。
「……殺す」
兄を失った少年は、静かに言ってパテルの指を数本叩き折ると、地面に降り立って、すぐに夜の闇に溶ける。
”ぱてる”は好奇の視線でヨシュアの姿を追うと、再びそれを手にしようと、漆黒の森の中へ少年を追う。
「――レーヴェの仇だ」
それは、”ぱてる”のすぐ耳元で聞こえてきた言葉だった。
「死ね」
憎悪が込められた声。次いでパテル=マテルの頭部がヨシュアの放った巨大な石によってへこむ――だが機械人形はそれに動じず、再びヨシュアを左手で捕らえようとする。
「遅い」
淡々とヨシュアは言って身を翻す。が、着ていた派手なドレスが木の枝に引っかかって飛ぶのが一瞬遅れた。
「くっ、し、しまった」
いつもなら確実に、ぱてるなどに捕捉されるわけはなかった。だが、二日寝てなくて、動きにくいドレス姿だったのが、ヨシュアに二度も同じセリフを言わせていた。
ぱてるは、再び花嫁をその手に抱くと、勝利を確信してバンザイのような奇妙なポーズをとると、雄たけびをあげる。
フォーーーーーーーーーーーーーーーーーゥ!
「フッ、そこまでにしたまへ」
その勝利の声を否定するそれは、やはり闇の中から聞こえてきた。
「この僕が来たからには、もう好きにはさせない」
闇の中から見えたのはまず真っ赤な薔薇だった。
「そこの姫君を返してもらおうとしよう」
次に少年と機械人形の瞳に映ったのは、青あざだらけのボコボコの顔。
「……」
ヨシュアもぱてるも、それにどういうリアクションをとって良いのか分からず固まる。すでに、戦って大敗北を喫したような姿の男が、この期に及んで何をするというのか。二人のそんな思惑をよそに、オリビエ=レンハイムは、懐から銃を取り出す、優雅にそれを構える。
カンッ
――――空き缶が地面に落ちるような虚しい音が次いで夜風に乗った。
「……何をしに来たんです?」
ジト目のヨシュアが、さらに酷い顔をすることになった、金髪の男に言う。
「……申し訳ない」
案の定、数秒でその男は機械人形の半壊した右腕に捕らえられた。
「くっ……ここまでか」
ヨシュアは、苦痛に顔を歪め言う。
「情けないぞ、ヨシュア」
だが、すぐにもう聞けないと思ったその声が、闇の中から響く。
「え……? ま、まさか……」
「この程度の木偶に苦戦するとはな」
核ミサイルの直撃を食らった筈のその少年は、木の太い枝の上で静かな微笑みを浮かべていた。先ほどと違う点があるとすれば、髪が若干チリチリになっていることくらいである。
「レ、レーヴェ! 正気に戻ったんだね!」
少年が感動を覚えたのはそこだった。よく考えてみれば、核ミサイルを食らったくらいで、死ぬ兄ではないのだ。
「どうやら、またカリンの奴がなにかイタズラをしたらしいな。だが、俺がきたからにはもう安心だ……今助けてやるぞ、ヨシュア!」
「うんっ」
ヨシュアは、目を輝かせて正気に戻ったレーヴェに応える。
ぱてるは、先ほど消去した筈のターゲットが再び現れた事に動揺し、異様な機械音をあげると、再び核ミサイルの発射口を開く。
「させるかっ」
しかし、レーヴェは言って地面を蹴る。すぐに周囲に木霊するド派手な機械音。
ぱてるの左腕が肩口から切断され、地面に落ちたのだ、核ミサイルと共に。再三オリビエの鉛弾を弾いた超硬度を誇るその腕を切り裂いたのは――レーヴェの手刀だった。
「ヨシュア、大丈夫か?」
レーヴェは、地面に落ちた機械人形の腕からお姫様抱っこでヨシュアを救い出す。
「な、なんとか」
「あ、あの。申し訳ないんだが、君たち。出来たら僕も助けてくれないだろうか?」
本当に申し訳なさそうに、ぱてるの残った片腕に捕らえられているオリビエは言う。
「……貴様を助ける義理などないが。俺のヨシュアをこんな姿にした落とし前はつけてもらうつもりだ」
レーヴェは、柔らかなドレスを着たヨシュアを傍に降ろすと、腕を鳴らしながら冷たい目でぱてるに近づく。
ぱてるは、それを見て後ずさる。そして、後ろに倒れこむように体を傾けると、足の裏に装着している予備のバーニアを点火する――目的は二つ、正面の敵の目くらましと、離脱だ。
レーヴェはその炎から、姫を抱いて横に転がる。
「あーーーーーーーーれーーーーーー」
ぱてるの手の中で目をクルクルと回して、乙女チックな声を出すオリビエ。
「くっ、逃がすかっ」
レーヴェは、ヨシュアの無事を確認すると、空中へと姿を消そうとする機械人形を睨み、再びそこまで跳ぼうする――だが。
「すまなかった……後は任せてもらおう」
レーヴェの肩に、知らない男の手が掛かる。
「お前は……」
「あれでも、うちの主でな。迷惑を掛けた。後日、謝罪する機会があれば奴にも謝罪させる」
姫を助けると口走り、暴走した主を追ってきた男――ミューラーは、レーヴェに軽く会釈して、ぱてるへと跳んだ。
「やあ、ミューラー。助けてにきてくれたんだ……ね」
「どこの馬鹿が、女性を助けに行って、自分が捕まるのだ?」
「しかし、本当に美しい姫君だったんだ。僕は決めたよ、彼女と結婚する!」
オリビエは、最悪の状況にあっても、微笑みを絶やさず言う。
「まあ、貴様が結婚すれば、俺は別の任につけるだろうから、それは実に結構な話だ」
予備バーニアで、ふらふらと夜空を彷徨うパテル=マテルの背の上で、二人は淡々と会話を続けていた、その刹那。
”自爆10秒前、9秒前”
無常にもそんな効果音が聞こえてきた。
「ふえぇぇぇぇぇぇ、転んだ拍子にABボタン同時押ししちゃったよぅ」
レンに手を引かれ、暗い街道を走っていたティータ。ふいに石に躓いて転んでしまったのだ。
「あーあ。ドジね、ティータ」
レンは、そんなティータを見て無遠慮に笑う。
「こ、これ自爆しちゃうんじゃないの?」
「そうね、自爆するわ」
「ご、ごめんね、大切なロボットを……」
「いいのよ。コアだけ射出して自爆するから、後の部品はいくらでもストックあるから、2,3日で完全に元に戻せるわ」
”5秒前、4秒前”
「まあなんだ。つまりはそういうことだ」
珍しく優しい微笑みでミューラーは、気まずそうにオリビエに言う。
「フッ、分かっているよミューラーくん、重度のツンデレの君は、そんなことを言っていても必ずボクを助けてくれる、そして救った後は優しくボクを抱擁して……二人で熱い夜を……」
その時だった。オリビエはすでにミューラーがこの死地にいないことに気づく。
「ってあ、あれ? ミューラー? じょ、冗談だろう?」
”3秒前、2秒前”
次の瞬間、ぱてるの爆発の光が装甲版にオリビエの顔を鏡のように映した。
「……気持ち悪い」
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