兵庫県教育委員会が12日に実施した公立高校入試の理科の問題で、「設問の前提条件に誤りがあるのではないか」との指摘が朝日新聞社に複数寄せられた。与えられた装置では発光ダイオード(LED)が点灯しないのでは、というのだ。
問題は、大問2の2。「銅板と亜鉛板が触れないように木片をはさみ、輪ゴムでとめた電極に発光ダイオードをつなぎ、ビーカーの中のうすい酸性の水溶液につけると、発光ダイオードが点灯した」という前提で小問四つに答える。
最初に指摘を寄せたのは、神戸大学で物理を教える西野友年准教授(47)。高校で習う知識なのだそうだが、亜鉛と銅の起電力は「1.1ボルト」。しかし、LEDを目に見える形で点灯させるには少なくとも「1.8ボルト以上」が必要だという。
LEDを製造する大手メーカーに尋ねてみた。最初に回答してくれたメーカーは「点灯するかしないか、非常に微妙です」という。
国内で市販されている製品では、青色、白色LEDともに3ボルト以上の電圧が必要だという。ただ、テレビのリモコンなどに使われる「赤外LED」なら1.2ボルトで点灯するという他社製品があるそうだ。
1.2ボルトと1.1ボルト。たしかに微妙。でも、担当者はこう付け加えた。「赤外LEDは赤外線ですから目には見えませんけどね」
別の大手電機メーカーの研究者も「1.1ボルトでは目に見える形で発光しない」との回答。この研究者は、LEDを目に見える形で光らせるためには最低1.5ボルトは必要だと言う。
そこで入試問題を所管する県教委高校教育課に、問題作成時にこの装置で本当に点灯するかどうか確認したのか聞いてみた。
担当者によると「実験したと聞いています。ついたりつかなかったりしたらしいのですが、実験の誤差の範囲かと」。どのメーカーのLEDで実験したのか尋ねたが、それについては「お教えするのは不適切だと思います」と断られた。
県教委は「世界で最も低い0.66ボルトで発光させることに成功した」とする東芝研究開発センターの論文も見つけたという。「理論上は点灯するので問題ないと判断した、と聞いています」
そこで、東芝広報室に聞いてみた。すると、「可視光という条件であれば発光しません」。では、この論文は? 「多孔質シリコンという特殊な物質を用いた、あくまで実験上の話。普通に売られている発光ダイオードでは、この装置だと点灯しません」。研究自体はすでに終息し、実用化もされていないという。
受験生に影響はあったのか。最初に指摘を寄せた西野准教授によると、「もし点灯するかどうか悩んだ中学生がいたら、ノーベル賞ものかも」。この装置が点灯しないかもしれないことが原因で、合否に影響が出たとは考えにくいようだ。
ところでなぜ、低電圧でも点灯する豆電球ではなく、発光ダイオードを選んだのだろう。「電池の原理を理解してもらうには、豆電球より発光ダイオードの方が生徒にとって身近でわかりやすいと判断した」
高校教育課によると、公立高校は全日制と定時制を合わせて2万9294人が受験し、19日に合格発表があった。理科の試験問題を巡ってはつい先日も、県教委が発表した「正答」以外に科学的に正しい答えのある設問が見つかっている。(日比野容子)