インタビュー
定番になれるものを尊敬している。名越稔洋氏が語る思い出の一本「みんなのGOLF 2」。――ゲームアーカイブス700本突破記念! 特別インタビュー第5弾
ゲームとは,我慢と達成感の繰り返しである
4Gamer:
昨今,スマートフォン向けに開発されるゲームの販売価格は,コンシューマーゲーム機用のパッケージタイトルと比べて安いですよね。そちらがメインになっていくと,当然,多額の予算をかけた作品を全世界で数百万本売るというのとは異なるビジネスモデルが必要になると思うんです。
それに対する回答の一つが,基本無料のアイテム課金制などだと思うんですが,かといって,それで必ず開発費を回収できるのかというとそうでもないケースもあるようで……。
ビジネスが大きく変わり,コンテンツの成り立ち方も変わっていくならば,そこに向けて大きなチャレンジが必要なのかもしれないという予感はあります。
ただ,携帯電話向けのゲームの場合は,100円ショップで同じものを1万個販売しているように見えるんですけど,ARPUで見ると決して安くはないし,極端な一部の人が非常に多くのお金を費やしているということでもないんです。
4Gamer:
ああ……。
名越氏:
それを見ると,例えば5980円で20〜30時間遊べるゲームって安くない? って言いたくもなるんですけど,一度に5980円を払うよりは,100円刻みでまめに払っていって,1か月に1万円払っているほうが気楽……みたいな状況があると思うんですよね。
4Gamer:
気持ちは分かるんですけど,冷静に考えると決して安くはないんですよね。遊び方にもよりますが。
名越氏:
だからコンシューマゲームって,一度お金を払ったらたっぷり遊べるし,画面も綺麗だし,それ故に得られるものも大きいですよ……っていうのは,言いたいところではあるんですよね。でも,それを持ち歩けるか? っていうと,そうじゃないし,電話がかけられるわけでもないし。
4Gamer:
ゲームもできる機械と,ゲームしかできない機械の差なんて,ゲームへの思い入れがない人にとっては,どうでもいいことなんですね。
名越氏:
しかも携帯電話の世界には,“無料”っていうのがいっぱいあって,無料じゃなきゃ何もやらない,何も見ないっていう人もいるんですよ。さらに,お金を払わなければいけないものが存在すること自体に,不満を感じる人もいたり……。
4Gamer:
何かを作り何かを提供するということに対して,いくばくかのコストがかかっていることを想像できるかどうかなんですけど。お金を稼ぐことがすべて悪みたいなとらえられ方をしてしまうのは,さすがにどうかと思いますし。
名越氏:
やり方に対する批判はあってしかるべきなんですけど,なんでも批判するとなると……ちょっと末期的ですよね。
4Gamer:
提供する側はボランティアではないですし,かといって受け取る側にとっても税金のようなものではないわけですからね。難しいところだとは思います。
まあ,そういうことを見たり経験したりしていく中で,あんまり意識しすぎないようにしたほうがいいということは学びました。もちろん,そういう人達が現実に存在するということは,きちんと認識します。そのうえで,僕らがどうやって戦っていくのか……という考え方をしなければいけないんですよ。
……そう思わないと,やってられないです。
4Gamer:
ですよね……。
でも本来,価格とプレイ時間で割り算をすると,コンシューマゲームって比較的安価な娯楽だと思うんです。映画の場合,1時間1000円近い世界ですし,しかもその場所に行かなければいけないわけで。
名越氏:
そういう見方をすれば,ゲームは一番お得だと思います。ただ,生活スタイルが変化していく中で,長時間を要するものが敬遠されようなる傾向が出てきているので,これは仕方ないんですよ。
でも,時間以外の部分で,ゲームって我慢と達成感の繰り返しなのに,その我慢ができないからガチャ……っていうのは,心配にはなりますよね。
4Gamer:
……確かに。我慢の大きさと達成感の大きさは,ある程度比例するものですし。
名越氏:
ゲームって,その“我慢”を肯定的にとらえないと作品になりづらいんですよね。
でも,それが求められない時代になって,我慢をさせないゲームが出てきている……と。僕の中の定義で,それは“ゲーム”じゃないんですよ。なぜなら,我慢を強いることなく,設定と結果だけを見せるものになってしまっているから。シンプルといえば美しい言葉ですけど,そこに僕はむなしさを感じてしまうんです。
4Gamer:
むなしさ……。
あくまで個人的な感想ですが,友達を紹介するとポイントが! みたいな施策にも,そういったむなしさを感じます。ただ,関係性を数値化するだけだったり,数値化のために擬似的な関係性を作るだけだったり。
名越氏:
ビジネスっ気が強いんですよね。
射幸性という言い方で全部が全部を評価できるわけではないですけど,それによってお金を稼ぐ仕組みを作れているという意味で,エンターテイメントではあると思うんですよ。
4Gamer:
楽しんでいる人がいるのは確かなわけで。
名越氏:
そう。ただ……それがゲームなのか? と言われると,ゲーム性とビジネス性をカオスにしたようなものでしかなくて,それをこれまでの“ゲーム”と同じものであると言われることに関しては,正直,勘弁してほしい気はします。
今年の抱負は,「他人の言うことを聞かない」
4Gamer:
最近の作品についても聞かせてください。まず「バイナリー ドメイン」(PlayStation 3 / Xbox 360)は,実際に遊んだ方から好評とのことですが……?
ね(笑)。
評判自体は悪くないので,もうちょっと売れてほしいんですけど,完全新作はなかなか売れないというのがあって。
4Gamer:
やはりシリーズものではなく,新作というのは売れないものなんでしょうか。
名越氏:
なかなか売りづらいのは確かですよね。とくにハイエンドのものはコストもかかりますし。
だけど,やっぱり数字ってのは素直なものなので,数字が出ないというのはそれなりの理由があるんですよ。とくにワールドワイドというブランドでみると,一番,売りづらいのは確かですよね。無限にプロモーション予算を使えるわけではないし,いろいろな部分で制約もあるし。
4Gamer:
ああ,やはり何かしらの制約も。
名越氏:
具体的なことは言わないですけど,僕らが大丈夫だと思っていることの中にも,「このニュアンスはダメ」みたいなものが多々あって。そういうものって,説明されてもよく分からないんですよね。
4Gamer:
文化的な立脚点が違うという。
名越氏:
だからもう,素直に聞くべきところは聞きましょうという判断をしたんですけど,それを心から納得できているかというと……半分は分かるけどっていうね。そこら辺が難しかったですね。
僕はアーケードゲームを作っていた時代から,ワールドワイドに向けたもの作りというのはしてきたんですけど,時代による違いもありますし,それをどの地域にや国に向けるかによっても変わりますし……で,「これでいいんです!」という一つの法則にはできないんですよね。
そういうことを一つ一つ気にしていくと,下手したら誰も喜ばないものになってしまうし,それは凄く怖かった。
4Gamer:
誰からも怒られないものにしようとすれば,それはそうなりますよね……。
名越氏:
でもそうやって悩みながら出したものでも,遊んでくれた皆さんは喜んでくれていますし,いわゆるコアゲーマーからも「まあ頑張ってるんじゃない?」みたいには言ってもらえているんで,嬉しい仕事ができていると思ってます。
もちろん満足しているわけじゃなくて,もっと日本寄りにしても良かったら,もっとやりようはあったという後悔もあるし,自分にしてはちょっと他人の言うことを聞きすぎたという反省もありますし。
4Gamer:
普段は誰の言うことも聞かない,ということですか?
名越氏:
何も聞かないってわけじゃないですけどね。バイナリー ドメインに関しては,聞きすぎた部分があって,それがそのまま後悔につながっているので。
だから僕の今年の抱負は,「他人の言うことを聞かない」(笑)。
4Gamer:
ええと……。
名越氏:
もうね,聞かないです! 今までよりも聞かない(笑)。
4Gamer:
そ,そうですか……。
名越氏:
まあ,半分冗談ですけどね(笑)。
でも勉強になったことはたくさんありますから,今後,日本のマーケットを対象にした新しい龍が如くシリーズにしても,そこで培われた技術やエッセンス,ブラッシュアップできるヒントなんかは,たくさん投入していきます。そこはご期待ください。
4Gamer:
なんとなく綺麗にまとまって安心しました……。
ゲーム以外の分野にも積極的に取り組んでいく
4Gamer:
ところで,昨年8月,「龍が如くスタジオ」の設立が発表されました。バイナリー ドメインも,龍が如くスタジオの作品という位置付けだったと思うんですが,そもそもなぜ,スタジオ化を発表したのか,その狙いをあらためて教えてください。
据え置き機だけでなく,例えば「クロヒョウ」シリーズなんかが最たる例なんですけど,全部をひっくるめてブランド化してアピールしたほうが,世の中に伝えるうえでは強いんじゃないかという気持ちがあったんです。
もちろん,何をやっても知らない人は知らないままだと思うんですが,例えばスマートフォン向けの「Kingdom Conquest」(iPhone / Android)なんかは,今で言う龍が如くスタジオが作ったものなんです。
それらを全部「セガが作りました」っていうよりは,「龍が如くスタジオが作りました」という言い方をしたほうが,分かりやすいと思ったんですよね。プラットフォームも幅広くなっている時代なだけに。
4Gamer:
誰が何を作っているかを,より明確にしようということなんでしょうか。
名越氏:
まあ,そうですね。ただ,まだまだ,これからのことですよ。僕自身としては,ゲーム以外にもこういう考え方を応用していきたいと思っていますし。
4Gamer:
ゲーム以外,ですか?
名越氏:
エンターテイメントというものを,もうちょっと幅広くとらえたときに,ゲーム以外の分野……例えばクロヒョウに関しては前作「クロヒョウ 龍が如く新章」も今回の「クロヒョウ2 龍が如く 阿修羅編」もドラマ化ということをやっていますし,それ以外のプランを持っています。
プロジェクトの描き方を考えたとき,ゲームを中心に据えたとしても,その範囲内で効率的なことを考えるより,もっと手間がかかっても,もっと大きな方向に振っていこうと思っているんです。
4Gamer:
効率性ではなく,外への広がり方を重視するということでしょうか。
名越氏:
まさに,そういうことです。例えば,ゲームを作り,主題歌を作り,ドラマも作り……みたいなことを,最初から大きな絵で描いておきたいんです。それぐらいの規模で考えられず,そこまでの伸び代を感じられないんだったら,会社として取り組む必要もないし,ゲームとしてやらなくてもいいんです。その代わり,やるとなったら全部やる,と。
4Gamer:
二次的,三次的展開までイメージを描けるものを推進すべきである,と。
名越氏:
ええ。売れるゲームができました。じゃあそこから……っていうのだと,時間ばかりがかかってしまうんですよ。もちろん,タイトルによりけりですけれど。
でも自分がやるからには,そういった大きな絵を描いて,ゲームだけにとどまらないエンターテイメントを届けていきたいんです。
4Gamer:
そして,あくまでその中心にゲームがある,ということですよね。
もちろんそうです。
ゲームを作る才能というものは,ゲーム以外のところでも通用すると思っていますし,それを龍が如くスタジオのスタッフ達にも証明してもらいたいんですよ。
逆に,そういう経験が,ゲームを作る上で役立つこともありますからね。それは僕自身,ドラマに関わることで学べたことがあるからこそ,強く思うことですし。
4Gamer:
分かりやすいところで言うと,例えば「脚本」とひと言で言っても,分野が異なれば何から何まで違いますよね。
名越氏:
そうなんですよね。だから本当に,違う業界の仕事をしたり,違う業界の人と接することで,学ぶものって大きいんですよ。そこから持って帰れるもののおかげで,僕らが悩んでいることが簡単に解決できたり,その逆もあったり。
4Gamer:
なるほど……。
では最後になりますが,クロヒョウ2 龍が如く 阿修羅編についても聞かせてください。やはり,前作の評判が良かったからこその新作だと思うんですが,そのあたりはいかがでしょうか。
名越氏:
ええ,前作の評判が良かったからこそですね。もともと,龍が如くシリーズ本編より,若い世代に見せたいと思っていたんです。それが龍が如くシリーズのファンだけでなく,ちゃんと若い子達にも遊んでもらえましたので。桐生一馬では言えないことを右京龍也が言えたりと,僕の中でもバランスは取れていますし。
4Gamer:
桐生一馬というキャラクターの輪郭がはっきりしていくごとに,桐生一馬というフィルターを通すと表現できないことが増えていったのかな,とは思っていました。それを右京龍也が補っているような印象はあります。
名越氏:
そうなんですよ。一つのキャラクターが育っていって,結果,そのキャラクターが語れないようなことが出てきたときこそ,新しい作品が生まれるものなんです。
そのうえで,桐生一馬では描けなかったような若者同士の友情や絆みたいなもの,それをドラマや漫画にあるような形ではなくゲーム特有の,プレイヤーが自分で達成して感じられる形にできているので,ぜひ体験してほしいですね。ゲームをとおした体験でも,それに触れるのは,その人にとってオリジナルの体験だと思いますから。
4Gamer:
たとえフィクションであれ,その物語に感情移入したうえで心が動かされたなら,その経験自体はフィクションでもなんでもなく,その人にとってのリアルなんですよね。実際に遊ぶのが凄く楽しみになってきました。
名越氏:
ありがとう(笑)。
4Gamer:
最後に一つお聞きしたいんですが……名越さんは,新作の発売時期にサイン会のようにプレイヤーと触れ合う機会を,きちんと作られていますよね。極端な話,ゲームを創る側として,必ずやらなければならないファンサービスというわけではないと思うんですが,あえてそれを続けている理由を教えてください。
名越氏:
意地ですね。意地です。
4Gamer:
意地ですか……。
名越氏:
それが一番大きいですよ。
ただ,やっぱり遊んでくれる人の顔を見ると安心するというのはありますよ。そういう場所で,「頑張ってください」っていう言葉をもらえると,本当に頑張れるんです。
メールでもらっても嬉しいんですけど,やっぱり直接言われると,目の前にいる人を裏切れないって思うし,そこに来てくれたということのエネルギーをもらえるわけですから。
4Gamer:
「頑張ってください」という一言を伝えるために,遠方から足を運ぶ人もいますよね。
名越氏:
そう。嬉しいっていうだけじゃなくて,責任も感じますけど,それらが原動力になるんです。
4Gamer:
そうして得た力が,また次の作品に繋がっていくわけですね。
本日はありがとうございました。
「クロヒョウ2 龍が如く 阿修羅編」公式サイト
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