<大阪府の郵便配達員 Aさん(50代 男)>
「これです」
今年もバレンタイチョコが届いた。
受け取ったのは、大阪府内の郵便配達員、Aさん。
嬉しいはずの贈り物。
だが、なぜかAさんの表情は冴えない。
<Aさん>
「妻から私に、ということにしています」
<マル調>
「申し込んだのは?」
<Aさん>
「私です。自分で自分に贈ったということです」
実はこのチョコレート、贈り主はAさん本人だった。
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よく聞くと、会社の販売目標を達成するため、1,800円で購入したのだという。
<Aさん>
「自分に対する高い義理チョコです(笑)。『自爆』ですね、『自爆』です」
郵政の現場で、何が起きているのだろうか。
<マル調・去年12月>
「えっ、これ年賀状ですか?」
<金券ショップ店員>
「年賀はがきです、全て」
去年暮れ、「マル調」は梅田の金券ショップなどで格安で売られていた年賀ハガキに注目した。
いったい誰が持ち込んでいるのか、取材を進めると…
<金券ショップに持ち込んでいた郵便配達員(20代)・去年12月>
「ここですね、この金券ショップ。600枚くらい持ち込みました」
驚くことに、持ち込んでいたのは日本郵便の社員たち。
1人、数千枚以上の年賀はがきの販売ノルマを達成するため、自ら購入し売却していた。
自社製品を社員自ら買い取る、いわゆる「自爆営業」だ。
<マル調>
「金券ショップに持ち込んで売った人がいたが、それについては?」
<日本郵便 日谷脩執行役員>
「それは間違った営業だと思いますね。金券ショップへの持ち込みがあるということであれば、その方の売り方がおかしい」
本社の幹部は、あくまで会社として「自爆」の事実は確認していないと主張した。
しかしその後、日本郵政グループの社員らから続々と寄せられた情報で、新たな「自爆」の存在が浮かび上がった。
「ノルマは年がら年中あります、母の日、父の日、敬老の日、こどもの日、バレンタインデー、ホワイトデー、お中元、お歳暮」(日本郵政グループ社員の情報)
これは、何を意味するのか。
「マル調」は再び、年賀はがきを持ち込んでいた日本郵便の非正規の配達員に接触した。
<金券ショップに持ち込こんでいた郵便配達員(20代)>
「まあ数多くのカタログ商品が出てきまして、その中にノルマが1人何個までというのがありますね。営業で売れなければ、自腹で自分たちが買うしかない」
どうやら、カタログギフトの商品に厳しい販売ノルマがあるという。
<金券ショップに持ち込こんでいた郵便配達員>
「1年中ずっと続きますよ。次終わったら次、はい次々…、まるでわんこそばのようにくる。『うわー、またか』と息をつくひまなく生活もぎりぎりです」
では、カタログの商品とはどういうものなのか?
実際に郵便局で見せてもらうことにした。
<マル調>
「あーこれですか」
カタログは、地方の名産品や記念日にあわせて売り出される贈り物で、有名店のラーメンやスイーツなど、種類は多岐にわたる。
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価格は大体2,000円〜3,000円。
好みの商品を選んで申し込むと、「ゆうパック」で届けられる。
<マル調>
「カタログ見たことは?」
<利用者>
「いえ、ないです」
<利用者>
「カタログでみたことあるけど、買ったことはないですね」
「カタログゆうパック」は、郵便局が28年前から始めた事業で、売り上げは年間およそ880億円に上る。
カタログを発行する郵便局会社には掲載料などの手数料が、配達する日本郵便には配送料が入り、民営化後、売り上げは順調に伸びているという。
しかし・・・
「カタログゆうパック」販売を巡る「自爆」。
「マル調」は、さらに過酷な実態を目の当たりにすることになる。
<郵便配達員の妻>
「やめてほしいです。ずっと言ってます、なんでって」
郵便局などで販売される「カタログゆうパック」。
その商品を社員自らが、ノルマ達成のために買い取る「自爆営業」が現場で繰り返されているという。
「マル調」は、その「自爆」に長年、苦しんでいるという、大阪府内の郵便配達員、Bさんを訪ねた。
<マル調>
「こんにちは。よろしくお願いします」
自宅には、自ら購入した「カタログゆうパック」が、いくつも出てきた。
ラーメン、もつなべ、レトルトカレー・・・。
一つのカタログに1個から2個のノルマがあり、年間20種類はくだらないという。
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<マル調>
「月の負担はどれくらいですか?」
<Bさん>
「月によって違うが、1,2,3月は5商品言われていて、3,000円が5つあれば1万5,000円ですよね。むなしいし、腹立たしいですよね」
Bさんが勤務する支店に張り出されている売上表。
個人名の横に、それぞれが販売した数が書き込まれる。
<Bさん>
「個人別の表がだんだん、1.1.1と埋まると、自分だけがいつまでもゼロだとプレッシャー感じて」
「(上司から)『ほかの人みんなやっているけど、あなたはまだですね』と毎日言われる」
Bさんの本来の業務は、郵便配達。
営業ではない。
苦し紛れの「自爆」は、職場でも日常的に行われているという。
<Bさん>
「ほとんどみんな『自爆』です。パンフレット、お互いに開いて『どれにしておこう』とか、『これは安いからこれでええんちゃう』とか職場で話をしながら、申込書に書いたりしている」
<マル調>
「職場で自分に申し込む?」
<Bさん>
「はい、職場で自分で自分あてに申し込むんです」
いくらノルマとはいえ、必要のない商品への出費に妻は憤りを隠せない。
<Bさんの妻>
「やめてほしいです。主人は上の方、上司にやめてと言いづらいのだというのは分かっていますが、あまりに毎回だとわかっているけど、つい主人にあたってしまう」
さらに深刻なのは、アルバイトなどの非正規雇用者にもノルマが課せられていることだ。
非正規雇用者の相談を受ける「NPO」の代表は、平均年収約200万円ほどの彼らにとっては、死活問題だと話す。
<NPO法人「ゆうせい非正規労働センター」 稲岡次郎理事長>
「一番ひどい例で聞いているのは、年収170万の人が『自爆』で50万円使った。どうなるかわからない、身分的にいつやめさせられるかという恐怖感が一番大きい。だから少々のことなら、たとえ必要の無いものでも買ったほうがいいとなる」
<日本共産党 山下芳生参院議員・参院総務委員会(去年6月16日)>
「営業ノルマ、『自爆営業』は根絶させること」
巨大組織に染みついた「自爆体質」は、これまで再三国会でも取り上げられてきた。
<片山善博前総務大臣(当時)・参院総務委員会(去年6月16日)>
「行き過ぎた、度を超した、営業目標で1人1人の社員で処理しきれず、それが『自爆営業』につながることはあってはならないと思う」
果たして日本郵便本社は、社員がコンプライアンスに違反してまで『自爆』する現場の実態をどう考えているのか。
<マル調>
「『自爆』されている方、複数いたが?」
<日本郵便広報室 村田秀男室長>
「それはあくまでも皆さん方が取材で、そういう形でインタビューなりをとられたということだと思う。元々、我々は20万人を超える人間がいますので、その人間が全部『自爆』しているということではないと思っている」
<マル調>
「職場で自分で自分に申し込んでいるんですよ」
<日本郵便広報室 村田秀男室長>
「ですから、そこは申し訳ないが、我々そこの部分を認識していない」
<マル調>
「職場で申し込んでいたら、上司も気づくはず?」
<日本郵便広報室 村田秀男室長>
「ですからそれが局部的な話しなのか、それが大勢の話しであるのか、それが我々にはよくわからない」
日本郵便はあくまで「自爆行為」を確認していないので年賀はがき同様、今回も全社的な調査をする予定はないという。
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バレンタインデーの次はホワイトデー。
大阪の配達員Bさんは、自分あてにお返しを申し込んでいた。
<Bさん>
「書いているたびに、いつかはやめたいと思うけど・・・」
民営化スタートからまもなく5年、現場の社員たちが「自爆」という「呪縛」から解かれる日は来るのだろうか・・・
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<Bさん>
「女性が喜ぶ『ホワイトデー スイーツ』って…、贈る本人は半泣きになってますけど…」
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