◇春場所<12日目>
翔天狼(右)を寄り切りで下す鶴竜=大阪府立体育会館で
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大関昇進を狙う関脇鶴竜(26)=井筒=は翔天狼を寄り切り、琴欧洲を退けた横綱白鵬(27)=宮城野=とともに1敗を堅持した。大関把瑠都(27)=尾上=が琴奨菊に完敗して3敗目を喫し、場所後の横綱昇進は絶望的となった。日馬富士は栃煌山を下して2敗を守った。琴奨菊は勝ち越し。稀勢の里は豊ノ島を圧倒して7勝とした。関脇安美錦と小結栃煌山は負け越し。
幕尻が相手だからといって、鶴竜の心に乱れが生まれるわけもない。押し相撲の翔天狼を左四つで受け止め、ジリジリと出ながら寄り切り。「落ち着いて取れてよかったです。どんな相手でも同じ気持ちで。そこが一番のポイント。負けちゃいけないとか思わないように」。穏やかな口調で振り返った。
その表情からも分かるように、誰からも好かれる性格をしている。アナンダという名前は父マンガラジャラブさんがモンゴルの僧侶から聞いてつけてくれた。「インド仏教のお坊さんの名前だそうです。子どものころから、同じ名前の人はいなかった」と、とても珍しいそうだ。鶴竜を入門時から知る人は「どんなに腹が立つことがあっても手を出したのを見たことがない」とは、まさに命名したときの思いのまま成長したのだろう。
映画が好きで、ウィル・スミス主演の感動もののを観賞したときは泣いてしまうこともあったという。
「幸せのちから」を見たとき、実話を元にしたサクセスストーリーに「ウルッときました。こういう人もいるんだ、頑張ろうと思いました」。他にも「7つの贈り物」など、映画の好みを聞いただけでも鶴竜という人物が分かる気がする。
11勝1敗で、あと残り3日間。13勝以上が大関昇進の目安ではある。ただ、内容も重視されるため13勝にとどかなくても昇進できる可能性だってある。
モンゴルの両親に電話しているの? 日本に呼ばないの? そう聞かれても「ないです」と浮足立つところもまったくない。自身のサクセスストーリーに「ウルッと」くる日はもうすぐそこにきている。 (岸本隆)
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