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今年1月1日時点の地価が公示された。全国平均では、住宅地、商業地とも4年連続の下落ながら、下落幅は前年より小さくなった。東日本大震災の影響は限られていたようだ。しかし、[記事全文]
「お客さま」という言葉が、そらぞらしく聞こえる。そんな東京電力の体質が、改めて浮かびあがった。電気料金の値上げをめぐる混乱である。東電は約24万件[記事全文]
今年1月1日時点の地価が公示された。全国平均では、住宅地、商業地とも4年連続の下落ながら、下落幅は前年より小さくなった。東日本大震災の影響は限られていたようだ。
しかし、被災地では状況が一変する。
津波で浸水した調査地点は岩手―千葉の5県で99カ所。47カ所は被害が大きく、「取引の参考にならない」と調査が見送られた。残りの52地点でも、前年から27%下落したところを筆頭に落ち込みが目立った。
復興事業では、公示地価をもとに土地の売買価格が決まる。被災者の生活再建は、所有地の値付けで大きく左右される。複数の住宅がまとまって高台などへの移転を目指す防災集団移転では、とりわけそうだ。
移転先の土地の確保と造成は自治体が担い、被災した元の土地も買い上げてくれる。事業費は国が復興交付金などで全額を負担し、自治体を支える。しかし、被災者が移転先の土地を買ったり借りたりする費用や住宅の建築費は自己負担だ。
仕事もままならないなか、土地の買い上げによる収入が頼みの綱となる。
ところが、買い上げ対象の土地は「災害危険区域」に指定され、住宅の建設が原則禁止される。浸水に建築制限が加わり、単純に算定すると、価格が落ち込むことになりかねない。
国土交通省は、被災地一帯のインフラの復旧や復興計画を買い上げ価格に反映するよう、自治体に呼びかけている。最近では、震災前の地価の8割程度を住民に示す自治体が増えてきた。算定の実務にあたる不動産鑑定士を含め、被災者を支える視点を大切にしてほしい。
福島第一原発の事故で住民に避難指示が出ている土地では、データ自体が不足している。半径20キロ以内の警戒区域内の調査地点で、地価公示の作業が見送られたりしたためだ。
政府は近く、避難区域を三つに再編する。このうち、放射線量が年50ミリシーベルト超と高い「帰還困難区域」について、政府の審査会は区域内の不動産を「全損」と判断し、事故前の地価の全額を賠償するよう東京電力に求めた。
ただ、「居住制限区域」(20〜50ミリ)や「避難指示解除準備区域」(20ミリ以下)については判断しなかった。
現時点でどの程度地価が下落しているのか、今後の除染作業による回復をどう見込むのか。生活再建に向けた被災者の選択を支えるためにも、早急に算定基準を示す必要がある。
「お客さま」という言葉が、そらぞらしく聞こえる。そんな東京電力の体質が、改めて浮かびあがった。
電気料金の値上げをめぐる混乱である。
東電は約24万件ある企業向けの料金を、4月から平均17%値上げすると発表していた。
だが、値上げに同意しない場合は、1年間の契約の更新日が来るまでは今の料金でいい。そのことを契約者にきちんと知らせていなかった。
大量に電気を使う大口顧客のところには担当者が直接、説明に出向く態勢をとった。ところが、全体の9割を占める小口顧客には、郵送や電話で「4月以降は新料金で」とお願いするだけだった。
「実は」という話が一気に広がったのは、衆議院議員の河野太郎さんが書いた15日付のブログがきっかけだ。
ネットを通じて拡散し、21日には枝野経済産業相が東電を強く批判した。東電の専用ダイヤルには抗議の電話が殺到した。
西沢俊夫社長は「説明不足だった」と陳謝し、確認作業をやり直すという。
だが、これは「説明不足」という次元の話だろうか。
小口顧客のうち、4分の3は4月2日以降に更新日が来る。にもかかわらず、3月末までに特に「不同意」と連絡してこなければ、契約期間中でも4月1日から値上げするつもりだったという。
あまりに不誠実だ。
そもそも、値上げ発表の時から強引だった。西沢社長は「値上げは事業者の義務であり、権利でもある」と発言し、企業や自治体から猛反発を受けた。
福島第一原発事故の賠償問題でも、分厚いだけでわかりにくい申請書類に不満を募らせた被害者は多い。実際の交渉でも、東電側の消極姿勢が問題視されている。
それぞれの怒りに共通するのは、東電が結局のところ顧客や被害者のほうなど向いてはいないという「実感」だろう。それは長い間、独占の上にあぐらをかいてきた電力業界全体の問題でもある。
原発事故による巨額の債務やコストの増加分を、電気料金の値上げなしで処理するのが困難なのは事実だ。
しかし、原発事故を起こした東電が、まるで値上げが当たり前のように振る舞っていては国民の理解を得られない。
この経営体質を根底からあらためていくこと。それが、東電を国有化するうえでの必須の条件である。