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授業/道徳/中学校/日本人の気概
SEIKOクオーツの世界

長 野 藤 夫
(TOSS中学網走みみずくの会代表)
E-mailGZG00117@nifty.ne.jp

 この授業は、中学教育改革シリーズ第10巻『中学生に「日本人の気概」を教える』(明治図書)にて宮澤和孝氏が発表した。宮澤氏と私の共同提案である。
 生徒は「日本」のすばらしさ、「日本人の気概」を胸に刻んだ。

「ハイ、今、時計持っている人? 腕時計」
 何人か。持っている人は全員デジタル。
「このデジタル時計ね、一部がピコピコと点いたり消えたりしていますよね。全員そうです。アナログ、張りの時計の場合は秒針がピッピッて動くでしょ。これ、ある物が共通して使われているんです。何だか知ってる? ハイ、知っている人?」
 誰もいない。
 無理もない。今はこれが当たり前なのだから。
 しかし、25年前、30年前はそうではなかった。このような時計の出現は、衝撃的だったのだ。
「これはね、時計の中に水晶が使われているんですよ。水晶っていうのはね、規則正しく伸び縮みする性質を持っているんです。それで時計に使われているんですね。」
 思わず、
「あ、占いの……」
という声が誰かから漏れる。
 そうなのだ。水晶ならわかる。知っている。あの丸い玉だ。占いに使ったりする、アレだ。
「そうです。もちろん、あのでかい玉が入っているのではないですよ。(笑)ほんのちょびっと、一欠片が入っているのです。水晶が使われている時計を、クオーツ時計と言います。」
 本題はここからである。

時計で有名な国と言ったらどこですか。

 難なく「スイス」が出る。さすが、よく知っている。
「メーカーは? どんなのあるか知ってる?」
 これも、すぐに「ローレックス」が出る。
「ハイ、オメガっていうのもありますよね」
と言うと、
「あの、マークが……」
 そこまで知っている人もいる。
 問う。

日本で時計を作っている有名なところはどこですか?

「長野県の諏訪というところです。さて、地図帳で確かめてみるかな」
 ちょうどその日は社会があった。みんなガサゴソと地図帳を取り出す。
「あったあった」
「え? どこ?」
という感じで、わいわい探す。
 諏訪湖のほとりである。
「ここにね、セイコーっていう時計の会社があるんですね。知ってる?」
 SEIKOと板書する。
「知ってる知ってる!」
という声多数。日本の「SEIKO」を知っている人が多いのに、ちょっぴり安心。
 尋ねる。

では、スイスのローレックス200万円。諏訪の時計2万円。どっちを選ぶ?

 迷いなし。
「ローレックス〜!」
 さらにたたみかける。

では、スイスのオメガ20万円。セイコーの時計2万円。どっちを選ぶ?

 これも迷いなし。
「オメガ〜!」
 ニコニコと。
「ははは。なるほど。ハイ、わかりました。」
と、思わず苦笑い。
「さて、時計が最も重要だというのはスポーツの世界です。そして、その最も大きな大会は、もちろんオリンピックですね」
「では……」

昭和15年、ベルリンオリンピック。公式時計に選ばれたのは、どこの何というメーカーだと思いますか。

「オメガ?」
と遠慮がちに。
 次々と板書しながら聞いていく。
「昭和23年ロンドンオリンピックは?」
「オメガ」
「昭和27年ヘルシンキオリンピックは?」
「オメガ」
「昭和31年メルボルンオリンピックは?」
「オメガ」
「昭和35年ローマオリンピックは?」
「オメガ」
「………」
「すべてスイスのオメガですよ。何と、ローマオリンピックまで17大会連続でオメガです」
 静まりかえる。
「オリンピックは4年に1回です。17大会連続ということは、要するに、70年ですよ。70年もの間、ずっーとオメガだったわけです」
 一口に70年と言うが、とてつもない年月なのである。
「そして昭和39年。先生は二つでしたが……」
と板書。

昭和39年 東京オリンピック

「いよいよ、日本でオリンピックを開催するときがやってきたわけです。時計は、どうなるのでしょうか」
 地元日本である。「なんとかして日本の時計を……」と考えるのはあまりにも当然だ。
 ここで、『匠の時代』第2巻(講談社文庫)を読む。

 名門オメガはそれまで過去十七回、オリンピックのオフィシャル・タイム(公式記録)の計時をすべて独占し、権威と自信をもって役目を果たしてきている。オメガは当然のように、東京オリンピックにも名乗りをあげてくるに違いない。
「オメガには譲れんよ。東京大会はなんとしても国産でやってもらおうじゃないか」
 セイコー・グループの若手連中の間で、オメガヘのと対抗心がぼつ然と湧きおこった。むろん経営トップ達の心境も変わらない。
「とりあえずローマオリンピックの現場を、しっかりと見ておくことだ」
 方針が決められ、その年八月、いわば敵情視察のための技術者チームが、ひそかに羽田を飛び立った。現地を見て驚かされたのは、オリンピック組織委員会のオメガに対する信頼が絶対のものだということだった。マラソン、競歩などの長距離レースはいうまでもなく、その他のほとんど全種目が、すべてオメガの針一つで競われている。大時計から判定員たちの掌まで、オメガ、またオメガ……だった。
「これじゃあ、まるでオメガの祭典だな」
 ローマにやってきたセイコーの技術者たちは溜息をついた。(p.37〜38)

 問う。

なぜオメガの時計が、これほどまでにオリンピックに使用されていたのだと思いますか。

 列ごとに聞いていく。
 発言をまとめれば、要するに「正確だから」だ。そのとおりである。
 正確には、「誤差が少ないから」である。その当時、オメガの時計が最も誤差が少なかったのだ。とりわけ陸上競技などはタイムがすべて。「とにかく誤差が少ないもの」が最優先である。
「さて、そこで、視察に行ったセイコーの技術者です」

オリンピックを独占しているオメガを見て、日本の技術者たちはどう思ったでしょうか。ノートに書きます。

 列指名。
「勝てないと思った」
「すごいと思った」
「絶対勝てないと思った」
「少しがっかり」
という答えがほとんどだ。
「もっとすごい時計を作ってやると思った」
という感じの答えが少し。
「なるほどね。さあ、どう思ったのでしょうか。続きを読みます」

 だが、暫くするとセイコー偵察隊の表情は日を追って明るくなっていった。フィールドでの様子がわかるにつれて、「これならオレたちにだってやれそうだ」という自信がついてきたからだ。(『匠の時代』第2巻p.38)

 読み終わって、顔を見渡す。
 まったく逆だったのだ。驚きである。
「なぜ、彼らには自信がついてきたのか。それは、クオーツ時計です。セイコーは、クオーツ時計を世界で初めて実用化に成功していたのです」
 今、当たり前のように使われている水晶時計、正確に時を刻むクオーツ。
 それを世界で初めて実用化したのは、なんと、日本の片田舎にあった無名の時計会社だったのである。
「さて……」

 東京オリンピックの公式時計に選ばれたのは、いったいどれだったのでしょうか。

「オメガ」
「セイコー」
「………」
 ここで、三度『匠の時代』を読む。

 東京オリンピックで、アベベがうち樹てた世界新記録は2時間12分11秒2であった。タイム測定に使われたのはデジタル(文字表記)のストップ・クロックである。アナログ式の針と違って、記録は刻々と数字によって時計の上に表現されていた。アベベがゴールに飛び込んだその瞬間、デジタル・ストップ・クロックは正確に「2:12:11:2」という数字を示して、静止していた。
 その数字の上に万雷の歓声が降りそそいだのである。アベベの世界記録を刻々と追い続けたそのデジタル・ストップ・クロックこそ、信州で生まれ、そして東京に運ばれたものだった。(第2巻p.41)

「つまり、東京オリンピックではセイコーが公式時計に選ばれたのです。セイコーのデジタル・ストップ・クロックは、なんと一日の誤差が0.2秒。重さはたったの3キロ。乾電池で1年動くというものでした。それは、世界一すぐれた水晶時計だったのです」
 審判員が片手で楽々と持ち運ぶセイコーの水晶時計。それは、世界じゅうでただ一社、「ニッポンのセイコー」だけが実現できた画期的な時計だったのである。

 スイスのニューテンシャル天文台コンクールという、時計のコンクールがあります。昭和42年、セイコーは出品をしました。結果はどうだったと思いますか。

「1位!」
「3位!」
など、自由に出る。
 改めて、『匠の時代』を読む。

 結果やいかに? と首を長くして便りを待つ彼らの前に、奇妙な事件が持ち上がってしまったのだ。その年ばかりは待てど暮らせど、測定結果が送られてこなかったのである。
「何かあったのかなあ?」
 年が明けて、疑念はつのるばかりである。不安な気持ちで日をすごすコンクール・グループのもとに、春近くになってようやく一通の書面が舞い込んだ。簡単にこう書いてあった。
「本年度はランキングの公表はしない。また、コンクールの企画とルールを変更したいので、今後、検討期間中、腕クロノメーター・コンクールは中止する。ただし、今回コンクールの測定データは、近く全参加者に個別に送付いたします」
 つまり、内容の要点は二つである。今回コンクールについては一位とか二位とか、ランキングづけはしないこと、また来年度からはコンクールを中止する−というのである。
 【中略】
 だが、後日、送られてきた全参加者の測定データを一覧して、そのナゾは容易に解けた。測定データには隠しようもなく、厳然たる事実が明記されてあったからだ。すなわち水晶式懐中時計の分野においてスワ・セイコーはなんと一位から五位まで、すべて独占する結果になっていたのだ。また、機械時計の方も四、五、七、八位にズラリ入っていた。(第2巻p.60)

「世界で初めての水晶時計(クオーツ時計)は、小型トラックほどの大きさでした。しかも、当時のお金で45万円。一部のお金持ちしか買えませんでした。でも、今、腕にはめています。小学生でさえ持っています。なんと、2000円ぐらいで店先にぶら下がっていますよね。それを世界で初めて成し遂げたのは、有名なスイスではありません。日本のセイコーなのです。すばらしいことですね」
 最後に、

感想をノートに書きます。

生徒の感想

 さすが日本一だなー。だけど今はセイコーとオメガはどっちが使われてんのかな。(男子)

 すごいと思った。今はみんなブランドだからとかでスイスの時計を選ぶ人が多いけど、本当は日本が初めに発見したのだった。何でも見た目だけじゃないんだなと思った。(女子)

 SEIKOの技術はすごいー。水晶入りなんて思わなかった。
 道徳は毎度毎度すごいことをするね。(女子)

 SEIKOはとってもすごいと思った。クオーツ時計にはそんな過去があったとは知らなかった。(女子)

 SEIKOは、すごいと思った。
 でも、1位〜5位までをとったからって、発表をとりやめにされると、やっぱりくやしいと思う。(女子)

 今日の道徳で、日本の時計があんな高性能とは思っていなかった。日本はそういう技術が当時まだまだ後れていると思ってた。(女子)

 日本の時計はすごいなって思いました。オメガの時計をくつがえしてとてもすごいな。(女子)


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