西日本新聞

ストーカー事件 市民守ってこその警察だ

2012年3月7日 10:50 カテゴリー:コラム > 社説

 「これでは、救えるものも救えなかった」。遺族が文書につづった言葉が、すべてを物語っていた。長崎県西海市で昨年12月に起きた2女性殺害事件の対応をめぐり、千葉、三重、長崎の3県警が公表した検証結果のことである。

 警察署内の情報共有のずさんさ、他県警との連携不足など、警察組織が過去の反省を生かしきれていないことを浮き彫りにした。そのお粗末な対応に、遺族が怒りをあらわにするのも無理はない。

 事件では、西海市の自営業男性(58)の妻と母親が自宅で刺殺され、千葉県に住む三女に暴力やストーカー行為を繰り返していた三重県の男(27)=鑑定留置中=が殺人容疑で逮捕された。

 検証結果によると、男性は昨年10月末―12月中旬、三女がストーカー被害を受けていることを3県警に繰り返し相談していた。ところが、3県警に「たらい回し」され、三女が住む地域の千葉県警習志野署に提出した傷害の被害届も、変死事案処理を優先して受理が遅れた。

 容疑者の男が三重県の実家で父親に暴力を振るって飛び出したことも、三重県警は管轄署内で情報共有が十分でなく、長崎県警に連絡していなかった。

 そのうえで、3県警は「危機意識が不足し、各県警間の連携にも不備があった」と捜査上の不手際や、男のストーカー行為への対応のまずさを認めた。

 警察庁は男女間のトラブルが重大事件に発展する危険性を常々発信していたという。3県警は、こうした重大な指摘を軽視していたと言わざるを得ない。

 東日本大震災では、不明者捜索や救援活動で警察官の献身的な姿が被災者の心を打った。同じ組織の人間としてあまりにも大きい落差に戸惑いさえ感じる。

 市民にとっては、どこの都道府県警であろうと警察官は警察官である。その最大の使命は「市民の生命と財産を守る」ことだろう。犯罪に遭遇したとき、私たちが頼るのは警察しかないのだ。

 救いがあるとすれば、警察が自らの手で事件を振り返り、問題点を明らかにしたことであろう。3県警は再発防止策として、ストーカー規制法の積極活用や警察署内の組織的対応、関係他県警との情報共有の徹底などを遺族に説明した。

 警察庁は、事件を主導的に捜査する警察を決めて連携を密にし、署長や各県警本部などへの報告体制を強化することなどを5日付で通達した。2年前には「被害届がなくても事態が切迫していれば逮捕する」との指示も出している。

 要は、被害者の身になって対処できるか否かにかかっていると言っていい。

 警察庁によると、全国のストーカー行為の認知件数は2010年で約1万6千件に上る。このうち1割は複数の都道府県にまたがる事案だという。

 悲劇を繰り返してはいけない。今回の検証結果で見えてきた課題を全国の警察が真摯(しんし)に受け止め、そこから得た教訓を今後の活動に生かすことが必要だ。


=2012/03/07付 西日本新聞朝刊=

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