長崎県西海市で昨年12月に起きたストーカー殺人事件で、被害者と家族が被害届を出そうとした際、「1週間待ってほしい」としていた千葉県警習志野署。担当課の職員らが、直後に北海道旅行に行っていたことが発覚した。事件はそれから間もなく発生した。今月5日にはこの事件の検証結果が発表されたが、警察庁によると、千葉県警は旅行について報告していなかった。「市民を守る使命感はどこに行ったのか」。警察OBや識者からは怒りの声すら上がった。
元警視庁捜査1課長の田宮栄一さんは「捜査員が事案の重大性、緊急性を認識していなかったとしか考えられない。とんでもない話だ」と憤った。
被害届をすぐに受理しなかった理由について、これまで千葉県警が「他の事件捜査を優先したため」と説明してきたことについては「レクリエーションに行っていたことの後ろめたさがあって、事実を隠していたと疑われても仕方がない」と語った。
被害届の相談があった際、応対した捜査員が課長や副署長ら上司にどこまで相談していたかの検証も不可欠と指摘。「署内の連絡体制が十分だったのかなどを徹底的に調べるべきだ」と話した。
「慰安旅行」についてこの日知ったという警察庁のある幹部は、「検証をしていたにもかかわらず、こうしたことが報告されていなかったことは問題だ」と怒りも示した。
今後は、今月5日に公表したばかりの検証結果の妥当性も問われる。警察取材の経験が豊富なジャーナリスト、大谷昭宏さんは「千葉県警は『他の捜査を優先した』と説明してきたが、具体的にどのような『他の捜査』があったのかを明らかにしてこなかった。被害届の受理の遅れは旅行が理由だったと疑われてもしようがない」と疑問を呈し、5日に千葉県警が行った「謝罪」について「どの面下げて謝罪していたのか」とバッサリ。その上で「報告を出し直し、虚偽報告が事実であれば、担当者や所属長らを処分すべきだ」と指摘。また、国家公安委員会の警察刷新会議が00年に不祥事の再発防止策を緊急提言してから10年以上経過しても不祥事が絶えない現状に、「警察組織そのものが弛緩(しかん)し切っていると言わざるを得ない。組織全体を再点検する必要がある」と訴えた。
警察庁の片桐裕長官は22日の定例記者会見で、千葉県警の「慰安旅行」の問題について、「警察庁は報告を受けていなかった。詳しい事実関係と、報告が遅れた経緯について調査させたい。危機意識が欠如していたことの表れではないかと言われてもやむをえない。緊張感を持って組織的な対応が行われるよう各都道府県警察を指導してまいりたい」と述べた。
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■ことば
昨年12月16日、長崎県西海市の山下美都子さんと久江さんが自宅敷地内で刺殺されているのが見つかった。長崎県警は翌日、山下さんの三女の元交際相手でストーカー行為を繰り返したとされる筒井郷太容疑者を殺人容疑などで逮捕した。三女は千葉県習志野市に住んでいた昨年2月ごろ、三重県桑名市に実家がある筒井容疑者と交際を始めたが、筒井容疑者は次第に暴力を振るうようになり、親族らが同10月に三女を西海市に連れ帰り、長崎、千葉、三重の3県警に被害を相談していた。
毎日新聞 2012年3月22日 西部夕刊
4月1日北リアス線田野畑~陸中野田間復旧
岩手県・宮城県に残る災害廃棄物の現状とそこで暮らす人々のいまを伝える写真展を開催中。